第二十二話 仲間が増えました
それから数日間、僕たちは冒険者家業を一時中断して情報収集に奔走した。
アレクは冒険者ギルドでギルドマスターと情報交換を行った。ついでにどこからともなく入国管理の資料とかも入手していたけど……まあ、王族だし。
僕は冒険者相手に聞き込みをして回った。この国の冒険者は団結力があるから、それなりのネットワークを作っている。『暁の戦塵』と親しくしていた冒険者はほとんどいないけど、目撃情報なら結構出てきた。ジェシカさんも目立つしね。
女性陣はジェシカさんの護衛兼メンタルケア担当。数日でだいぶ打ち解けたみたいだ。
情報を統合すると、ジェシカさんの話の裏が取れた形になった。
『暁の戦塵』は最近になって他国からやって来た冒険者のパーティーだった。他の冒険者との交流はほとんどなかったけど、目撃証言によるとジェシカさんの扱いはあまりよくはなかったようだ。
ダンジョンの外では雑用全般。重い荷物も一人で運び、他のメンバーが休養中にも小銭稼ぎの依頼を一人でやらされていたとか。
ダンジョン内でも他のメンバーより一ランク貧相な装備で、囮、壁役、単身斥候等、危険な真似をさせられていたらしい。
そして、ギルドで第三階層までの地図を購入してダンジョンに潜っている。おそらく第三階層の空白地帯の攻略を目論んだのだろう。
第三階層に到達してからの彼らの行動についてはほとんど情報がない。僕たちがモンスターハウスの大部屋でジェシカさんを保護したこと以外は、少し離れた場所で持ち主不明の遺留品が見つかったくらいだ。
遺留品が逃走中の『暁の戦塵』のメンバーの落としたものだとすると、帰還用の『ポーター』ではなく、第四階層へ潜る用の『ポーター』のある方向に向かったことになる。
『ポーター』周辺は安全地帯扱いになっているけど、それは徘徊するモンスターが現れないというだけで、引き連れて行ったモンスターがいなくなるわけではない。
さすがに『ポーター』で移動すればそれ以上は追ってこないけど、その場合はより強いモンスターが現れる第四階層に出てしまう。逃げる方向を間違えたとみるべきだろう。
そして、今に至るまで他の『暁の戦塵』のメンバーはダンジョンから出てきていない。ダンジョンへの出入りは結構厳密にチェックしているので間違いない。チェックを逃れて出ることもできるけど、ダンジョンに逃げ込んだ犯罪者か小説の復讐者でもなければそんなことする意味はないからね。
状況的に『暁の戦塵』はジェシカさんを除いて全滅した可能性が高かった。
ギルドマスターには引き続き『暁の戦塵』のメンバーが出てきたら知らせてもらうようにお願いしてあるけど、そろそろ警戒を解いても良いのではないかということになった。
改めてこれからどうするか、ジェシカさんの意向を聞いたのだけど、
「どうかこのパーティーで働かせてください。助けていただいた恩を返したいのです。」
ジェシカさん、とっても義理堅いです。それともアリシアさんたちと打ち解け過ぎた?
いえいえ、ジェシカさんの態度は、間違いなくアレクに惚れています。普段のジェシカさんの様子を見ていれば分かります。分かっていないのはアレクぐらいじゃないかな。
それは、自分を助けた恩人だし、王子様だし、本気で彼女の身を案じるやさしい男だし、惚れちゃうのも無理はないよね。
自分の奴隷になった女の子に惚れられるって、何処のラノベの主人公だよ。
冒険者活動をする場合、ジェシカさんはアレクの奴隷続行になる。『暁の戦塵』は既に全滅したとしても、奴隷を人間扱いしない他国の冒険者というのは度々やって来る。こういう連中の中には、国に帰るついでに獣人を見かけたら攫って奴隷にしようと考える者もいる。ジェシカさんを奴隷解放した場合、一番注意しなければならないのが他国の冒険者なのだ。冒険者を続けていれば他国の冒険者との接点も増えるから、アレクの奴隷のままでいた方が安全だった。
ジェシカさんはそれを承知でアレクの側にいることを選んだ。むしろ、アレクの奴隷でいることを望んだ!?
だから、何処のマンガの主人公だよ、アレク。
そもそもアレクにはアリシアさんという婚約者がいるんだよね。……って、そのアリシアさんがジェシカさんのことを温かく見守っている、というか後押ししちゃってるのは何故でしょう。
アレクとアリシアさんって、親同士で決めた政略結婚的な婚約者の筈なんだけど、二人とも仲いいんだよね。結婚する前からお互いを利用するだけの仮面夫婦状態だった小説の二人とは違って。
ああ、アレクは王子様で勇者様だからハーレム作っていいんですか、そうですか。
それはともかく、パーティーに仲間が一人増えました。
仲間も増えたことだし、さっそくダンジョンの探索に、とはならなかった。
手続きとかも色々と必要だった。
まずはパーティーメンバーとしてジェシカさんを登録する。これは冒険者ギルドで簡単な手続きをすればよい。というか、アレクがギルドマスターに話したら手続きは向こうでやってくれたそうだ。
ロシュヴィルでは冒険者は五~六人でパーティーを作るのが一般的だった。これは『ポーター』の上に物理的に乗れる人数の上限がこのくらいだからだ。大柄な男が大きな荷物を背負ったりすると五人でもかなりギリギリになったりする。
しかし、アレクのパーティーはジェシカさんを含めてスリムな女性が四人、ついでに僕もあまり大きい方ではない。さらに魔法鞄の恩恵もあって各人の荷物も最低限だ。ジェシカさんがメンバーに加わっても何の問題もなかった。
冒険者ギルドには『ポーター』の実物大の模型があってパーティーメンバー全員で乗れるか試せるのだけれど、他国から来た冒険者パーティーが全員乗れずに、誰が留守番するかでもめるなんてこともたまにあったりする。
さて、冒険者ギルドの方はそれでよいとして、次に国に対しての報告をしなければならない。アレクのパーティーは国からの依頼で動いているので、メンバーの変更は国に届け出る必要があるのだ。この手続きが済むと、ジェシカさんにも給金が支払われるようになる。この国では奴隷にもちゃんと賃金が支払われるからね。これでジェシカさんもサラリーマン冒険者の仲間入りだ。
それから、ちょっと面倒なのが奴隷商に対する手続きだった。この国では人権のない奴隷は違法だ。しかし世界的には人権を奪われた奴隷が主流であり、奴隷商が大きなネットワークを作っている。
現在ジェシカさんは、首輪型の魔道具にアレクが主人であると登録されている。しかし、奴隷商の名簿では、死んだ『暁の戦塵』のホークの奴隷のままになっているはずだ。ジェシカさんを確実に保護するためには、これをアレクの奴隷に直す必要がある。
アルスター王国では人権のない奴隷を扱う奴隷商は活動していない。ただし、人権のない奴隷を解放したり、今回のように所有者のいなくなった奴隷の所有権を変更することはある。そのために奴隷商の窓口だけはあるのだそうだ。
こんな感じで、手続きはアレクが全部やってしまった。
一通り手続きが終わると、次はジェシカさんの装備を整えることになった。
ジェシカさんを救出した時に使っていた武器も回収してあったのけれど、これがかなり粗末なものだったのだ。国外の冒険者の奴隷の扱いはこんなものらしい。
皆で軽く試してみたのだけれど、ジェシカさんの実力はなかなかのものだった。獣人は身体能力に優れるというけれど、猫っぽいのは耳としっぽだけのジェシカさんの身体能力もかなり高い。
特に俊敏性ではアレクやカレンさんに迫るものがある。いや、獣人を軽く凌駕するアレクやカレンさんが異常なのであって、ジェシカさんの素早さは並の冒険者の上を行くものだ。
力もそれなりに強いけど、まあ一般的な冒険者の範疇かな。小柄で軽いから、多少力があっても正面からぶつかったら僕相手でも押し負けてしまう。俊敏さを活かして動き回って手数で攻めるのが合っていそうだ。
ジェシカさんに重い盾を持たせて壁役をやらせていたという『暁の戦塵』の気が知れないよ。ジェシカさんの素早さを活かさないなんてもったいない。
他にも、種族的な特性で、聴覚や臭覚は人族より優れているし、気配を殺して足音を立てずに歩くなんてことも得意だ。足は猫足ではないのにどうやっているのだろう?
逆に、種族的に魔術は得意ではないらしいのだけど、それを補って有り余る実力だった。
……奴隷から解放しても十分に自分の身を守れる実力はありそうだ。まあ、奴隷続行は本人の希望だし、アレクの庇護下の方が安全なのは確かだし。
勇者パーティーの一員として十分な実力があると確認が取れたので、新しい武器と防具を作りに出かけた。行き先はもちろんトニーさんの鍛冶屋だ。僕の装備も作ってもらえたんだし、大丈夫でしょう。
ジェシカさんはこれまで、オーダーメイドの武具を作るどころか、自分で武器を選ぶことさえ許されていなかったそうで、ひたすら恐縮していたけど、こればっかりは慣れてもらうしかない。必要なことなのだ。
案の定、トニーさんは快く引き受けてくれました。
「今までよくこんな武器でやってこれたな。これじゃあ、武器が嬢ちゃんの足を引っ張っちまうだろうに。」
全く同感です、トニーさん。
とにかく、無事ジェシカさんの武器も作ってもらえることになった。
後は武器が出来上がるまで待つだけ。その間は……え、貴族の勉強? あ、はい、頑張ります。
……うう、こればっかりは、ジェシカさんがうらやましい。
アレクが初期メンバーを自分を含めて四名にしたのは、雑用係の一名を加えた時に定員オーバーで『ポーター』を通れなくなることを防ぐためと言う意味もありました。五名までならまず大丈夫なので。
定員オーバーや能力不足で連れて行けなかった場合、パーティーホームに猫耳メイドが誕生していたはずです。




