第十八話 探索を続けました
僕たちは第三階層に来ていた。
一度『ポーター』で第一階層まで戻って来たのだけど、帰るにはまだ早いということで、再び進むことにした。今回は第二階層の空白地帯からは遠い場所に出たため、そのまま第三階層まで降りてきたのだ。
第三階層以降の地図には空白地帯も多い。ダンジョンの階層を探索する場合、冒険者はまず帰還用の『ポーター』の場所へ行き、そこを探索の拠点とする。いきなり空白地帯に出た場合は、その『ポーターの出口』を拠点にして地図を作成する。そして帰還用の『ポーター』を探すのだ。
だから、地図はだいたい『ポーターの出口』と『ポーター』の周辺から埋まって行く。
第三階層では確認された八十六の『ポーターの出口』から最寄りの帰還用の『ポーター』が七つ、および第四階層へ下るための『ポーター』が八つ見つかってからは、地図の更新があまり進まなくなった。
第四階層に進む目的ならばこれだけ地図が埋まっていれば十分だし、この階層でモンスターを倒して収入を得るのならば既知の地図の範囲内で事足りた。
さて、その第三階層に出て来るモンスターは、主にゾンビとスケルトンだった。通称アンデッドエリアと呼ばれるのがこの階層だ。
僕のソロのランクはこの第三階層になっている。つまり単独でこの階層まで来ているのだけれど、ここのモンスターを倒したことはあまりない。
僕はこの階層のモンスターとは相性が悪いのだ。なにしろアンデッドには急所らしい急所がない。動かなくなるまでダメージを与え続けなければならないのだ。暗殺者スタイルで一撃とはいかない。
一応、摩核が急所と言えば急所なんだけど、短剣の一撃で破壊するのは困難だし、破壊しちゃうと収入にならない。
だから、僕が単独でこの階層に来るときは、戦闘を避けて逃げ隠れしていた。連中、感覚は鈍いから見つからないように移動するのは簡単なんだよね、単独なら。
逆に、相性がいいのがアリシアさんだ。元々、治癒師の使用する回復系の魔術はアンデッドに対して使用すればダメージを与えることができる。
特にアリシアさんは通常の回復の魔術だけでなく、より高位の浄化系の魔術も使いこなす。ゾンビやスケルトン程度の低級なアンデッドならば一瞬で浄化できるのだ。聖女の称号も納得の腕前だ。
そう言えば、小説でも主人公はアレク以上にアリシアさんを警戒していたっけ。不死之王と言えどもアンデッドである以上、聖女は相性最悪の相手だもんね。
もっとも、いくら相性が良くても、パーティーの回復役を戦闘で消耗させるのは愚策だ。新しい杖の具合を確認したら、すぐにアレクとカレンさんに交代した。
アレクもカレンさんも王宮展示用の装備で戦っているんだけど、まだまだ余裕だね。
アレクの金ぴか装備の剣は、武器としてはそれなり程度の切れ味だ。でも腕がいいからゾンビもスケルトンも一撃で切り伏せて刃毀れもない。
カレンさんなんか、細剣の一撃でゾンビに大穴を空けているんだけど、どうやっているんだろう?
「ほれ、残りはグレッグ、行って来ぃ。」
あっ、また僕の分を残しておいてくれたみたいだ。ちょっと試してみたいこともあったし、お言葉に甘えます。
僕はゾンビに向かって走り出した。こいつらは気配を読むようなことはしないから、威圧と潜伏のコンボがほぼ意味をなさない。ただ、動きは単調なので攻撃を掻い潜って死角に潜り込むことは難しくない。
しかし、威力の低い攻撃では倒しきるまでに時間がかかる。そうなると反撃もしてくるし、周囲のモンスターが集まって来る恐れもある。だから僕一人の時は戦闘を避けるようにしていた。
けれども、この新しい短剣があれば……
僕は背後からゾンビの背中に短剣を突き刺す。背骨を避けて左側から心臓目がけて一気に刺し込む。そして抉り出す。
その一撃で、ゾンビが倒れた。そのまま消滅する。
「ほう!」
アレクが感心したように声を上げる。
はい、自分でも予想以上にうまく行ったと思います。
僕がやったのはゾンビの摩核を抜き出すことだった。
モンスターによっても異なるけれど、ゾンビの摩核は心臓の位置にある。摩核はモンスターを存在させている根源と考えられていて、摩核を失えばどんなモンスターでも消滅する。
今までの短剣でこんな無茶をすれば肋骨に当たって刃が欠け、最悪短剣が折れてしまっただろう。
しかし、さすがは特級鍛冶師の作品だ。骨まできれいに断ち切って、刃毀れ一つない。
でもちょっと気を付けないといけない。
オーダーメイドの武器は本人の実力を最大限引き出すためのもので、よい武器を手にしたから強くなるというものではない。
でもやっぱり強い武器を手にすると強くなったように感じるものなんだよね。今まだ倒せなかったモンスターを倒せるようになったりするから。
実際、強い武器を入手して浮かれて命を落とす冒険者の話は良く聞く。
僕も気を浮かれないように付けなければ。
「いや、それだけの潜在能力がグレッグにあったからこそトニーも武器を作ったんだ。ちゃんと使いこなしたことを誇るべきだ。」
そんなに褒めないでよ、アレク。でもありがとう。今度トニーさんにもお礼しに行かないと。




