第十七話 お宝を見つけました
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2021/06/12 誤字修正
誤字報告ありがとうございました。
『毒の回廊』は真直ぐ二百メートルくらい続いて、その先の曲がり角の所で終わっていた。解毒用の魔法薬があれば、息を止める方法でも抜けられたかもしれない。
せっかくなので、魔術に専念しているアリシアさん以外の全員でマッピングして行った。今後も勇者パーティーは空白地帯に挑むことが多くなるはずだ。マッピングの技術は覚えておいた方がいい。
毎回僕がマッピングしてもいいのだけど、それだと僕がマッピングできない状況になったら終わりだ。それに複数の人間が記録を取った方が精度が上がる。
マッピングで重要なことは、一定の歩幅で真直ぐ歩くこと。そして、マッピングしながらも周囲の警戒を怠らないこと。
『毒の回廊』にモンスターがいるとは思えないけれど油断はできない。毒に耐性のあるモンスターがいて、防毒服を切り裂くくらいのことはあっても不思議ではない。そのくらいこのダンジョンは殺意が高かった。
ともあれ、モンスターに遭遇することもなく、それ以上のトラップが待ち受けることもなく、僕たちは『毒の回廊』を抜けた。
こうして、ダンジョンの新しい地図が生まれた。たかが二百メートルの直線と言えど、前人未到の空白地帯である。しかも、第二階層にありながら、三百年間人を寄せ付けなかった難所の地図だ。なかなかの快挙と言えよう。
空白地帯の地図は冒険者ギルドで買い取ってくれる。冒険者の収入の一つだ。しかし、お金のためだけでなく、他の冒険者のため、そしてなにより自分が未踏領域から無事帰るためにもマッピングは重要な技術なのである。
あ、そう言えば前回のダンジョンアタックの時に作った地図をまだ冒険者ギルドに提出していなかったよ。色々あって忘れていた。
帰ったら、今回の分と合わせて前回の地図も提出しなくちゃ。
『毒の回廊』を抜けた先にあったのは、小部屋が一つだけだった。
その小部屋にあったものは二つ。
「これは、帰還用の『ポーター』で間違いなさそう。」
部屋に設置されていた『ポーター』を調べていたエレノアさんがそう判定した。
このダンジョンに設置されている『ポーター』は使用者、あるいはモンスターが使う時に分かり易くするためか、浅い階層へ向かう昇りの『ポーター』と深い階層へ向かう降りの『ポーター』が一目で分かるようになっている。
『ポーター』が設置された台座が丸だったら昇り、四角だったら降りである。
この部屋の『ポーター』は丸い台座だったから、第一階層に出るはずだけど、こんな場所にあるだけに罠の可能性を考えて念のために調べたのだ。
第二階層では、昇り降りそれぞれの『ポーター』が十二個ずつ存在することが確認されているから、これは第二階層十三番目の昇りの『ポーター』になる。早速マークしておこう。
この『ポーター』が部屋にあったものの一つ。そしてもう一つが、
「これは、宝箱か?」
前回は魔王討伐を優先したため、探そうともしなかった宝箱がアレクの目の前にあった。
宝箱は、ダンジョンを探索する冒険者にとって最も楽しみなものの一つである。中にはたいてい金目のものが入っていて、ダンジョンで一山当てて一攫千金な話はだいたいが宝箱を見つけるというものだ。
まあ、中には開けてがっかりな宝箱や、罠の餌になっているものもあるけど。
「……大丈夫、魔術による罠は仕掛けられていない。」
魔術系の罠はエレノアさんの方が専門なので見てもらった。物理的な罠は僕の管轄なので調べてみる。
「うん、物理的な罠もないようだね。開けてみるよ。」
僕は慎重に宝箱を開ける。宝箱の中に外部からは判別できない仕掛けが施されている場合もあるので、この瞬間は緊張する。
幸い、特に何も仕掛けられていなかったようで、問題なく宝箱は開いた。中に入っていたのは……石ころ? 人の頭の半分くらいの大きさがある岩石だった。
「これは!」
エレノアさんが慌てた様子で調べ始める。何か心当たりがあったのだろうか。
「これ、ミスリル鉱石!」
「!」
え? ええ~。
これにはみんな驚いた。割と物事に動じないアレクでさえも驚いた表情を見せている。
ミスリルと言えば、前世ではファンタジーでおなじみの想像上の謎金属だけど、この世界では実在する希少金属である。
ミスリルの希少性は金の比ではない。
金貨百枚くらいの価値とされる白金貨を、さらに百枚集めた価値のあるミスリル貨というものがある。
金貨一枚十万円とみて、白金貨が一千万円、ミスリル貨は一枚十億円相当になる計算だ。
白金貨はまだ大商人や国同士の取引などで使用されることがあるけれど、ミスリル貨となると国宝扱いで王宮の宝物庫に厳重に保管されるレベルになる。
また、ミスリルは希少なだけでなく、魔術を行使する際の触媒として使うことができる。それも普通ならば人には扱えない大魔術が可能になると考えられている。
三百年前、エグバートがダンジョンを作るために使用したのが、アルスター王宮の宝物庫から持ち出したミスリル貨だと云われている。
ミスリルは個人で所有することすら問題になるレベルのお宝なのだ。
凄い値打ちものなのは確かなのだけど、僕なら凄すぎて躊躇してしまう。
「これはこのまま持ち帰ろう。ギルドを経由して王宮で買い取ることになると思う。」
アレクが難しい顔で言う。確かにこのようなものを管理できるのは国か王宮になるだろう。高価なだけではなく、ダンジョンを作れるレベルの魔術の触媒となれば戦略兵器的な扱いになる。
「このミスリル鉱石は、おそらくこの部屋に冒険者を誘い込むための餌だ。『毒の回廊』の罠で殺すための。」
ああ、そうか。この部屋にいたるまでの『毒の回廊』こそが凶悪な罠だったんだ。高価なお宝があると知れば、命がけで『毒の回廊』に挑む冒険者も出て来るだろう。そして多くの者が毒で命を落とすだろう。
宝箱に罠がなかったのも納得だ。ここまで辿り着いた冒険者には、お宝を持って帰ってもらわなければならない。高価なお宝の存在と生還者が出たという事実は新たな無謀な冒険者を呼び込むいい宣伝材料になる。すぐ隣に帰還用の『ポーター』があるのも同じ理由だろう。
ダンジョンには宝箱が付き物だ。それはこのダンジョンだけの話ではなく、国外にあるダンジョンでも同じらしい。
一説では、宝箱の存在がダンジョンに冒険者を呼び込む餌であるという。そしてダンジョンに誘い込まれ、落命した冒険者の命を、あるいはダンジョン内で辛く苦しい思いをした負の感情をダンジョンが吸収して養分にしているのではないか、そのように考えられている。
まあ、アルスターのダンジョンは、魔王エグバートの怨念が籠っているせいか、他所より殺意が高いらしいのだけどね。
「……たぶん、心配はいらない。これほど高価な宝を再設置するには百年はかかる。迷宮核無しで再設置されるかも分からない。」
ここで再び賢者の言葉です。さすがにエレノアさんは鋭い。
ダンジョンの宝箱はモンスターと同様にダンジョンが産み出していると考えられている。そして、モンスターを倒してもいつの間にか新しいモンスターが生まれているのと同様に、お宝を持ち去っても、時間が経つとだいたい同じところに再び宝箱が置かれているのだ。
ただ、すぐに復活する宝箱というのはだいたい中身がしょぼい。冒険者も経験上知っていることだった。
逆に国宝級のお宝となると、何時復活するか見当もつかない。命がけで『毒の回廊』に挑戦する冒険者は今後もそうそう出ないだろう。
僕たちは、ミスリル鉱石を魔法鞄にしまうと、念のため小部屋に隠し扉や別の仕掛けがないか調べた後、『ポーター』で第一階層に戻った。
アリシアさんがいれば、『毒の回廊』を通って戻ることもできるのだけど、念のため『ポーター』で何処に出るのかも確認しておいた方がいいからね。
この世界では、ミスリルは「実在はするけれども目にする機会はまずない幻の金属」、オリハルコンやアダマンタイト等は「存在が疑われるレベルの伝説の金属」と言う扱いになります。
ミスリル貨1枚=白金貨100枚と言うのも便宜上のもので、実際にはミスリル貨は値段が付けられないお宝です。




