第十六話 第二階層の空白地帯を攻略します
僕たちは第二階層の通路を進み、モンスターと遭遇した。
『ポーターの出口』から近いと言っても、さすがに一度もモンスターに出くわさずに済むような近さではない。
第二階層で出て来るモンスターはオークとウルフだ。力の強いオークと動きの素早いウルフは、第一階層と同じ気分で降りてきた駆け出し冒険者を簡単に蹴散らしてしまう。
駆け出し冒険者が一人前の冒険者になるための難関がこの第二階層なのだ。
もちろん、第二階層のモンスター如き、アレク達の敵ではない。僕でも倒せる相手だし。
と言いますか、アレクもカレンさんも王宮展示用の装備のまま戦っている。
何でも、「展示するにも少しは戦った痕跡を付けておいた方がいい」とか言って、アレクは金ぴか装備のまま戦っていた。カレンさんもアレクに合わせてか、ドレスアーマーに細剣でオークを屠っている。
二人とも本当に強い。戦った痕跡を付けるどころか、返り血一つ浴びていないよ。
そう言えば、小説ではあの金ぴか装備のアレク相手に、正面から戦ったら主人公はまるで歯が立たないんだっけ。だから、計略を練って罠に嵌めて復讐するわけだけど。
考えてみれば、いくら魔王の力を取り込んで不死之王になったと言っても、ベースが僕では魔王の劣化コピーの雑魚にしかならないよな……って、なんでこんなところだけ妙にリアルなんだ、あの小説は!
「グレッグ、あんたの分やで、はよ倒して来ぃ!」
あ、僕の分にオークを一体残しておいてくれたらしい。それじゃあ、新装備の試し斬り、行ってきまーす。
ダンジョンに発生するモンスターは、野生の動物や魔物を模したものが多いと言われている。
もっとも、姿形や能力は模倣しても、その性質までは同じではない。ゴブリンやコボルト、オークも魔物とされているけれど、見境なく人を襲うことはない。ウルフは野生の狼を大型化したようなモンスターだけど、狼はもっと慎重だし、オークと共同で狩りをすることもない。
モンスターは、あくまでダンジョンが侵入者を排除するために用意した兵隊なのだ。
なお、人型の魔物であるゴブリン、コボルト、オーク等は独自の言語と文化を持っているらしい。彼らの言語を解析して意思の疎通ができれば平和裏に共存できるのではないかとか、魔物ではなく亜人枠に入れるべきではないかといった議論もなされているのだそうだ。
ダンジョンのモンスターしか知らないと想像もつかないのだけど、他国から来た冒険者がそんなことを言っていた。
まあ、それはともかく、重要なことは動物や魔物を模しているということは、体の構造や弱点もだいたい同じだということだ。オークは二足歩行する豚っぽい顔をしたモンスターで、体の構造そのものは人間と大差ない。
僕はオークに向かって走りながら魔術を使う。本職の魔法職ではないので強力な魔術は使えないけど、簡単なものならば幾つか使うことができる。
「『威圧』!」
威圧は相手に恐怖を与え怯ませる魔術だけれど、僕がやってもよほど格下の相手でなければ動きを鈍らせる程度の効果もない。でもそれで構わない。この魔術は下準備だ。
「『潜伏』!」
こちらが本命。潜伏は気配を隠して見つかり難くするもので、本来既に相手に見つかっている状態ではほとんど効果がない。けれども、その前の威圧と組み合わせることで面白いようにこちらを見失ってくれる。
オークが僕を見失っている間に背後に回り、首の後ろ、盆の窪の辺りに短剣を差し込む。これで終わり。
うーん、やっぱりこの短剣はすごい。初めて使ったのに全く違和感なく手に馴染む。切れ味も数段よくなっているし、オークの一体程度では刃こぼれも、剣身の歪みも一切ない。さすがは特級鍛冶師の作品だ。
「お見事、グレッグ。やるじゃないか。」
アレクは褒めてくれるけど、このくらいできないと一人前の冒険者とは言えない。ここまだ第二階層だし。そう言えばアレク達に僕が戦っているところを見せるのはこれが初めてだっけ。
とりあえずモンスターは全滅したので、摩核を拾っておく。
ダンジョンのモンスターは外の魔物と違い、死ぬと摩核を残して消滅する。モンスターはダンジョンが魔術的に作り出した実体のある幻のようなものではないかとも言われている。
たまに摩核以外の部分が残ることがあり、俗にドロップアイテムと呼ばれている。ドロップアイテムは多くの場合、高級素材等として高く売れる。でも今回は摩核だけだ。
しかし、今回まともに試し斬りができたのは僕だけではないだろうか。
アレクとカレンさんは王宮に展示用の装備で、本命の武器は使っていない。
怪我人もいないので、アリシアさんの出番はなし。
エレノアさんの長杖も、範囲攻撃や高威力の大魔術で本領を発揮するものだ。浅い階層で徘徊している雑魚相手にはオーバーキル過ぎる。モンスター部屋でも見つけたら試してもらおう。
その後、二回モンスターと遭遇したけど、まあ同じような結果に終わった。
「ここが、空白地帯?」
エレノアさんが小首を傾げながら通路の奥を覗き見る。
「そう、ここが第二階層の数少ない空白地帯。通称『毒の回廊』。一見ただの通路に見えるけど……」
僕はその辺に落ちている石を拾って通路に投げ込む。
――ぼいっ! コン、コン、コン プシュー
突然壁から煙のようなものが噴き出した。
「……と、このように中に入ると毒が吹き付けられます。」
どういう仕組みか、毒は通路の外には出てこない。この毒はモンスターにも効くので通路の外にまで溢れ出させるわけにはいかないのだろう。かつてこの近くでモンスターとの戦闘になった冒険者が、モンスターを通路に押し込んだら毒で死んだという記録があるそうだ。
この毒、とても強力で即効性があるので、とりあえず突入して後で解毒薬を飲んで治すという手は使えない。
更に皮膚からも吸収されるらしく、昔息を止めたまま通路に突入した冒険者が、途中で気分が悪くなって慌てて引き返したというエピソードもある。
この『毒の回廊』に立ち入ろうとしたら、全身を保護する防毒服が必要となる。そんな重装備を持ってダンジョンに入るのは大変だし、周囲の地図の状況からして通路の先はたいした広さはないはずということでこれまで調査は見送られてきた。
しかし今、魔法鞄により嵩張る防毒服でも持ち込める冒険者が現れた。まあ、今回は持ってきていないんだけどね。
「『分析』……大丈夫、アリシアの魔術で防げる。」
エレノアさん、さっきから何か魔術を使っていると思ったら、毒を調べていたらしい。さすがは勇者パーティーの賢者、攻撃以外の魔術にも造詣が深いです。
そして我らが聖女、アリシアさん。優秀な治癒師の魔術には、毒の治療だけでなく、毒の侵入を防ぐものがある。普通、そこまで優秀な治癒師は冒険者にならずに治療院を開くけどね。
「分かった。アリシア、頼む。」
「はい、アレク。『領域解毒』」
いずれにしても、『毒の回廊』は勇者パーティーならば突破できる罠だったということだ。
僕たちは、『毒の回廊』に突入した。




