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現代ダンジョン ―世界は今日も世知辛い―  作者: AIやすし
第二章

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第6話 続・関連性未確認

 ダンジョン管理省資源研究センターの机で、高梨真理は採取記録の添付資料を開いていた。


 測定結果を並べる前に、試料がどこから来たかを確かめる。いつもの確認だった。古い記録になるほど、本文の短い地名だけでは足りなくなる。


 採取地点番号を追ったところで、指が止まった。


 番号の横にある区域名に見覚えがあった。先日まとめた参照リストにも、似た表記が残っている。


 高梨は開いていた資料を閉じず、リストを隣に表示した。モンスターとの接触、水量の変化、資源の測定に関する記録。それぞれに元の資料へ戻るための参照先と、並べる際に足りない条件を添えてある。


 八人が帰還した救援案件の処理をやり直すためのものではない。そこから残った記録を、過去の記録と比べられるか確かめるための一覧だった。


 区域名を検索すると、比較の優先度を下げた項目が出てきた。場所が離れている、と高梨自身が書いていた。


 その判断に使った位置表記と、今見ている採取記録の表記を並べる。文字は違う。だが、同じ広さの場所を指しているかどうかまでは、まだ確かめていなかった。


 高梨はメモの余白へ、元の呼称をそのまま写した。


 現在の名前へすぐ置き換えると、どこを読み替えたのか分からなくなる。旧区域名と現在の区域名を別々に置き、採取地点番号も残す。水系の呼び方、モンスター接触地点の記述も、短く揃える前の文章に戻った。


 水系だけで位置を記したものと、進行経路の途中として場所を記したものがある。採取記録には地点番号があるが、その番号だけを現在の地図へ打ち込んでも、当時の場所が出るわけではなかった。


 古い資料に添えられた位置図を開く。高梨は画面を拡大し、まず区域名がどの範囲に掛かっているのかを見た。


 文字の位置を地点だと思って読んではいけない。


 コーヒーのカップを少し奥へ寄せ、地図を表示する幅を広げた。



 古い区域名は、現在の区切りより広い範囲に掛かっていた。


 高梨は現在の地図を横へ置き、位置図に残る経路と水の流れの表記を順に追った。形が似ているところだけを選ばず、前後の記述も読む。


 採取地点番号に対応する説明をたどると、最初に考えていた区域の中心から外れる。それでも古い区域名の範囲には収まっていた。


 隣の記録は、水系の呼称を頼りに離れた場所へ振り分けていたものだった。こちらも当時の記述へ戻すと、名前が指す範囲を狭く取りすぎていた可能性がある。


 高梨は地図上に点を置きかけて、手を戻した。


 そこまで絞れる記録ではなかった。分かる範囲を囲み、端の曖昧なところは線を閉じずに残す。


 片方の範囲と、もう片方の範囲が近づいた。


 高梨は身を起こした。画面の大きさを戻し、離していた二つの記録をもう一度読む。位置図と本文の参照先を取り違えてはいない。


 「隣だった可能性は、あるのか」


 声にすると、結論が少し大きく聞こえた。


 同じ地点を指しているとは言えない。囲んだ範囲のどこで記録されたかによって、距離は変わる。ただ、互いに遠い区域だからという理由で外すには、今の置き方は心もとなかった。


 モンスターとの接触地点の記述も、同じ地図へ置き直した。記録されたのは経路上の一地点だが、その位置を現在の地図へ移すには幅が残る。水の記録と一点で結ぶことはせず、対応を追えた範囲だけを添えた。


 元の記録に新しい観測が増えたわけではない。それでも、並べる場所が変わると、前に書いた除外理由を読み直す必要が出てくる。


 高梨はメモの「離れている」を消さず、その横へ今回確かめた対応を書き加えた。



 近いかもしれない、と思ってから読むと、似た部分ばかりが目に入る。


 高梨はいったん地図を小さくし、各記録の条件を表示した。


 位置については、採取地点を指しているものと、探索中に接触した場所を指しているものがある。水量の記述も、水系の名前が同じなら同じ場所で見たとは限らない。図をどれだけ拡大しても、記録にない精度は得られなかった。


 位置の対応を確かめられた範囲と、まだ読み替えに頼っている範囲を分ける。曖昧なところを全部まとめてしまうと、確かめられた部分まで見えなくなる。


 次に日付の欄へ移った。


 一覧では近くに並ぶ記録でも、記入された日と、実際に観察した日が同じとは限らない。高梨は日付の見出しから読み直した。


 時期が近かった可能性を残せるものはある。だが、前後の順序まで仮定できないものもあった。場所の幅を縮められたからといって、時間の幅まで縮まるわけではない。


 メモへ書き足しているうちに、最初に見ていた測定結果が画面の端へ追いやられていた。


 高梨はそちらへ戻った。試料の条件を確かめるために開いた資料だった。小さな測定の揺れを、地図上で近くなった別の記録とすぐ結びつけることはできない。


 何を測ったのか。何と比べたのか。採取時と測定時の条件が、どこまで残っているのか。


 今ある参照情報では、同じ条件で測られたとまでは言えなかった。その不足を、位置の近さで埋めることはできない。


 水量の記録には、見た場所や見たときの状態がある。モンスターの記録には、その探索で接触したという事実がある。記録の目的が違えば、残るものも違う。


 高梨は、並べて表示した行の間に因果を示す線を引かなかった。


 同じ現象なら似た記録になるかもしれない。別の出来事でも、短く要約すれば似た文になる。


 そのどちらかを選ぶだけの条件は、まだ揃っていない。


 背もたれに体を預けると、机の向こうで紙を揃える音がした。高梨は目を閉じてから、もう一度地図を開いた。近づいたのは、位置の見積もりだった。そこから先を一緒に動かしていないか、メモを上から確かめた。



 参照リストを更新する段になって、高梨は選択していた行を一つ外した。


 その記録は区域名の対応を追い切れていない。近接しているかもしれない事例と一緒に上へ置くと、同じ程度まで確認できたように見えてしまう。


 元の順番へ戻し、不足している位置情報を備考へ残す。


 別の行には、場所だけでなく観察条件が揃わないという除外理由もあった。高梨はそちらを消さず、位置に関する判断だけを更新した。


 優先度を上げるのは、今回の照合で、離れた区域だとして外す理由が弱くなったものに限った。


 並べ直されたリストは、少し上の方が変わっただけだった。


 高梨は各行から元の資料を開き直した。古い区域名、採取地点番号、水系呼称、接触地点の記述。今回の読み替えを経由しても、原文へ戻る。


 地図上の範囲には、対応に使った記述と、位置を絞り切れない理由を添えた。後で見た自分が、線の近さだけを根拠にしないためだった。


 最後に、状態の欄へ目を移す。


 関連性未確認。


 高梨はそこを変えなかった。


 調べる順番を上げたことと、関連があると判断したことは、別だった。今なら前より丁寧に並べて読める。その先で何が言えるかは、並べた結果を見なければ分からない。


 保存を終え、更新した備考を読み返した。「近接区域の可能性」と、その判断に残る幅が一緒に表示されている。


 さっきのカップに手を伸ばすと、コーヒーは冷めていた。ひと口飲み、高梨は開いたままの採取記録へ戻った。


 測定結果を比較するには、まだ確認する欄が残っている。


 参照リストは閉じた。次に開いたとき、先に読む記録が少し変わっている。


 今日、変えられたのはそこまでだった。

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