パラマス号⑧旧友ボークリー(概念をもたないもの)
微かに周期振動型重力平衡体が不規則な挙動を示した。しかし流動態監視装置に異常はない。
星崎一斉が煙草に火をつけ、ゆっくり煙を吸い込む。吐き出された煙が天井へとほどけていくのを眺めながら、彼は物思いにふける。
指先の赤い熾火は、揺らぐ平衡体の鏡面に映り込みその赤みを増した。
艦長は帽子の鍔を軽くあげ、焦点の定まらない空間に視線を向け、懐かしい微笑みを作り、
「そろそろ姿を現したらどうだ?ボークリー」と呟いた。
空間がユラユラとその輪郭を作るように揺らぎ、物体を浮き上がらせた。
戦艦の上張りに達するくらい大きな影がその姿を晒した。
存在さえ感じさせない、懐かしい古だけが漂うように影は輪郭を留めている。
概念が意思をもってそこに馴染ませるように。
(コノママバレズニ、モクテキチマデ、パラマスゴウニイルツモリダッタノデスガ、ホシザキイッセイサスガデス、ワレラ、ガイネンヲモタナイモノマデ、サッチデキルノハドウシュイガイハ、アリエナイコト)
「いやいや、察知までは無理だが、ボークリーが私に存在を”読ませてくれたからだろ?”、だから同種というのはちょっと違うな。まあゆっくりしていってくれ、
パラマス号は次の波止場までは予定もないし、ハマスさんにも会ってあげてくれたら喜ぶと思う」
(ワカッタ、ホシザキイッセイ。ハマスニモアッテミル。デハマタイツカアオウ)
そう言って、影は空間に馴染むように消えた。
帽子を取って短い会話は終わった。
星崎一斉はボークリーが佇んでいた場所を眺めながら思った。
《概念を持たないボークリーのような存在こそ、この宇宙の神秘なのだ。そして私はその”概念なきもの”すらまた一つの概念だと理解している。それはもしかしたら『神』の概念にもっとも近いのかも知れないと心の内に留め置いた。》
パラマス号は光を纏いながら暗闇の宇宙を進んで旅を続けるのであった。
おわり




