パラマス号⑭星崎一世の独白の日常(哲学)
深淵の眠りが授ける叡知、私の大部分の記憶は夢の中に保存され、またいつでも出し入れできるように備わっている。
記憶とは意識によって作られ記憶によって、その叡知へと変化する。
星崎一世(私)の中に存在する記憶は過去からの産物であり、現在と過去を結ぶ補完の役目を果たす。そして感情を持つ、唯一無二の高度生命体、科学的検知からも特別保護で守られる『人間』はその意義を有し宇宙全体で保護対象の指定を享受する。
パラマス号もまた、その役割を担うために存在し宇宙の箱船としてこれを享受する。
一心同体で連綿しあい、宛のない旅路へと誘う、またその終わりがあるとするならば、それは宇宙の意思はこれを受け入れる。
星崎一世は暗い静謐な艦長室で、一人黙々とパータン(将棋に似たゲーム)の棋譜を並べていた。
傍らにはジャーキーとワイン。盤上の駒を動かすたびに、乾いた音が室内に響く。一世はジャーキーをつまみワインを口に含んだ。
酔いはしない。
それでも身体の内側へ熱を残し、感覚だけが五臓六腑に染み込んで行く。鼻孔に残る芳醇な香りを味わいながら、長い湿った息を吐き出した。
そして、目を瞑ると見えてくるのはいつも青い海。
緑の地球。
生まれ故郷の赤い景色。
山間の大きな古い屋敷。
母親の笑顔と幼き自分。
繰り返される記憶はいつも決まってそれだった。
忘れることのできない記憶は、いつもそこに留まり続ける。
煙草に火をつけ、肺に吸い込むと満たされた思いだけが煙と共に吐き出されて虚空に消えた。
パラマス号は何も語り掛けてはこない、私も何も語りはしない。
ただ青白き光る衣を纏うパラマス号は静かに、その推進力を強めるのであった。
おわり




