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鋼騎のヴァルストルム  作者: 小春ささら
アルバンシア反攻編
64/65

第五十七話「波の合間の一騒動」

 広場から中央通りを真っ直ぐに港へ。


 シエナ姫はボロボロの建物と瓦礫が散らばる道路をスルスルと抜けていく。


 ヨタヨタとその後を追いすがるレイディルたち。


「向かっている先はわかっているんですから、無理せずゆっくりと行きましょう」


 アリーシアスがそう言った。


 重い体で何とか港を目指す。



 やがて港前に人垣が現れる。

 その前に立ちすくむシエナ姫の姿が遠目に見える。


 その人の群れをシエナ姫はひと声でふたつに分けた。

 姫がスッと入ると、別れた群れはすぐに元へと戻る。

 さんざめく港。


「オレたちも行こう」


 レイディルがそう言った矢先。


「レイディル!」


 聞きなれた声が横から聞こえた。


「ベイル……無事だったか」


「おお、リオルドさんがな、お前は危ないってんで町の外で待機してたんだ。

戦闘も終わったみたいなんで来てみたけど……」


 ベイルはレイディルの様子を注意深く観察する。


「ヘロヘロだな」


「まぁ……それなりに」


「そのおかげで両手に花じゃないか……いや、そういうわけでもないな……」


 ベイルがよくよく見ると、レイディルを支えているのはアリーシアスだけで、逆側のウェリティアはレイディルに支えられている形になっている。


「……それ支えてる?」

「モチロン、ササエテル」


 ベイルの言葉にカタコトで答えるウェリティア。


「……レイディルが何も言わないなら、俺から言うことはないけどさ」

「何度か言ったけど無駄だったんだよ」


 二人のやり取りを聴きながらウェリティアが答える。


「……あー……支え支えられ、この力のバランスが均衡して──……まぁ、力学的にいい感じになるの」


「今、考えたろ……」


 レイディルのツッコミに、ベイルはウェリティアを見て、どこか面倒くさそうな顔をした。



「さて、それよりも、です。

わたしたちも姫の後に続きましょう」


 アリーシアスが、そう言った直後。

 集まっていた騎士たちが、にわかに殺気立つ。

 数名はすでに剣に手をかけていた。


「なんだ!?」


 港の奥から男の低い声が響いた。





「ちょっと待ってくれ! 俺たちは別にこの港をどうこうしようってんじゃないんだ!」


「だったら何の用だ!」


 港の奥。

 焼け跡の残る岸に、小舟が一隻着いていた。


 そこから降りてきた数人の男たちの前に、アルバンシアの騎士が立ち塞がる。

 


「待ちなさい」


 騎士の背後から声が飛んだ。


 その声の主は、金の髪を潮風に揺らしながら、堂々たる態度で騎士の側へと近づいた。


「こ、これは姫!!」


 騎士はすかさず頭を下げ一歩引いた。


「あ、あんたが──いえ、あなたがアルバンシアの……」


「ええ。アルバンシア王国第一王女、シエナ・ゼルテ・アルバンシアです」


 シエナ姫は一歩前へ出る。

 その脇を、護衛の騎士たちがすかさず固めた。


「この場は私が取り仕切ります」


 姫の言葉に、それまで粗暴に見えた男たちは、慌てて姿勢を正した。



 シエナ姫は改めて先頭の男を見やる。


 髑髏の入った三角帽子(トリコーン)

 装飾の入ったコート、その下にはリネンシャツ。

 ズボンにブーツ、カットラス。

 オマケに眼帯に髭っ面。


 年の頃は四十代後半か。ひときわ大きな体もさることながら、その立ち姿には、荒波すら従わせるような歴戦の風格があった。



 その後ろには手下と思わしき男たち。

 頭に手ぬぐいを巻き、船乗りらしい粗い身なりをしている。


 その体躯は一様に大きく、日に焼けた肌と節くれだった腕が、海で生きてきた年月を物語る。

 修羅場を幾度も潜ってきた者特有の、研ぎ澄まされた気配を纏っていた。



 シエナ姫は小さく息をついた。


「誰がどう見ても……海賊ね……」


「いえ、俺たちは……」


 言い淀む男たち。

 シエナ姫はチラリと横のロルフを見て意見を求めた。


「失礼ながら……私も、海賊に見えます」


「それで、その海賊さんたちが何の用です?」


 先頭に立つ眼帯の男が帽子を取り胸に掲げ、頭を下げた。


「申し遅れました。我々はセイレオス海上都市国家……私は第七艦隊副長、マルクス・カーベルと申します」


 先程までとはうってかわり、マルクスと名乗った男は背筋をピシリと伸ばして言う。

 その所作からはただの海賊とは思えぬ雰囲気を放っていた。


 その言葉に、周囲の空気が少し張り詰める。

 ざわつく人垣をかき分け、数人の影が前へと出る。


「……ふぅ、やっと通れた」


 息を整えながら姿を現したのはレイディルだった。

 その両脇にはアリーシアスとウェリティア。


 さらに一歩遅れて、エリオスが短く声を発した。


「悪い、通してくれ」


 その声に、騎士たちが即座に左右へ分かれる。

 間を、エリオスとレイラが当然のように進み出た。

 二人はそのままレイディルの後ろへと並ぶ。


「……海賊ですね」

「んー……留学中にもさすがに見なかったなぁ」


 アリーシアスとウェリティアは珍しいものを見るかのように目を見開いている。



 そんな二人に視線をやることなく、シエナ姫は続ける。


「セイレオスといえば……あの?」


「はい……帝国に滅ぼされた国です」


 シエナ姫の言葉に、マルクスはわずかに顔を歪めた。


 セイレオス海上都市国家。

 世界でも珍しい海上に浮かぶ国家都市。


 漁業が生業で、交易航路の中間点として多くの船が立ち寄る街だった。


 その海域は潮流が穏やかで、古くから船乗りたちの寄港地として知られていた。

 波も比較的静かで、船を着けるには理想的な海だった。


 中央には王城を戴く主島があり、周囲をいくつもの人工島が取り巻く。

 それらはすべて人の手によって築かれたものだった。


 人工島は、海底に打ち込まれた基礎と係留術によって支えられていた。


 その国の最大の特徴は、ほぼどこからでも着岸できる点にあった。


 それは、海の上に都市を築き上げるという、人の営みの極致とも言える光景だった。



 だが、それも過去のこと。


 セイレオスがあった場所は、もはや国ではない。

 人工島の残骸が波に漂うのみだ。



 セイレオス海上都市国家。

 カラヴェルサ。

 ステルバルデア公国。


 いずれも、帝国に滅ぼされた──“例外なく強国”の名だった。

 その中でも、ステルバルデア公国はバルゲインが守護した国である。



「あの、強力な艦隊を保有していた国……ね」


 シエナ姫はそう呟くと、視線を落とし──やがて静かに顔を上げた。


「とはいえ、あなたが本物とは限らないでしょう。言葉だけなら、いくらでも偽れます」


 マルクスは一瞬だけ言葉に詰まり、困ったように眉を寄せた。


 その沈黙を埋めるように、横から気の抜けた声が差し込まれる。


「んんー……その人の右腕。腕章」


 ウェリティアが、興味深げにマルクスの右腕へと視線を向けた。


「それ、セイレオス特有の軍章。セイレオス軍でもない人間が付ければ……極刑だったはず

留学先でそう聞いたっけ」


 淡々とした口調だったが、その内容は軽くない。

 だが、シエナ姫は小さく肩をすくめる。


「とはいえ、その刑を下す国自体がないのなら……付け放題でしょうね」


 シエナ姫はマルクスを見据えて言葉を続ける。


「まぁ、わざわざ偽る必要もなければ、偽物が腕章を付ける理由もないでしょうけれど」


 そこまで疑う必要は、本来ない。

 それでも、シエナ姫は念には念を入れる必要のある立場にあった。


 その空気の中で、今度はエリオスが静かに口を開いた。


「私もセイレオスには行ったことがありますが……そこまでは見ていませんでしたね」


 経験からの言葉。しかし決定打にはならない。


「……で、でも、この人……強さは本物です」


 レイラが、マルクスをまっすぐに見据えたまま言った。


「……副長というのも……納得、できます」


 短い言葉だったが、その確信には揺らぎがない。

 マルクスは一瞬だけ目を見開き、やがて口元を緩めた。


「その金髪に双剣……噂に聞く、レイラ殿か」


 その言葉に、レイディルが感心したように口を挟む。


「さすがレイラさんだな。他国にまで名前が通ってるのか」

「海賊にまで……いえ、海賊ではないんでしたっけ」


 レイディルの言葉にアリーシアスが首を傾げる。

 わずかに緊張が緩みかけた、そのとき。


「うん、将軍を呼びましょう。それが一番早い」


 エリオスが、そう言って騎士の一人にバーグレイ将軍を連れてくるよう命じた。


 しばらくして──

 重い足取りとともに、一人の男が人垣の奥から姿を現した。


「事情は聞いた……ふむ」


 将軍は低く呟きながら、マルクスをじっと見据える。


「セイレオスの人間すべてを覚えているわけではないが……」


 一歩、距離を詰める。


「何番か忘れたが……提督の傍にいた男……か」


 その視線が鋭く細められる。


「──いや、貴公のことは覚えておるぞ」


 断言。

 場の空気が変わった。

 将軍は腕を組み、マルクスを見据えたまま続ける。


「しかし……なぜまた、海賊などに身をやつしている?」


 バーグレイの問いに、マルクスは目を伏せた。

 だが、すぐに小さく息を吐き、顔を上げる。


「いやはや……お恥ずかしい話ですが」


 マルクスは自嘲気味に言葉を出す。


「我々は、国を失いました。艦も、仲間も、民も……多くを……ただ海を漂うだけの有様でした」


 静かに語られる言葉に、場の空気がわずかに沈む。


「そんな我々に、船長が言ったのです」


 マルクスの声に、ほんの少しだけ熱が混じった。


「どうせ海に出るなら、胸を張ろう。沈んだ顔で波に乗るくらいなら──笑って海賊でもやろう、と」


 わずかに、誰かが息を呑む音がした。


「……馬鹿げた話ではあります。ですが、そのおかげで我々は、まだ前を向けている」


 マルクスは自らの装いを軽く示す。


「無論、略奪などするつもりはありません。我々の目的は帝国の船のみ。それ専門の海賊と言ったところでしょうか」


 マルクスの言葉にバーグレイは腕を組んだまま、しばし黙考する。


「船長というと……提督か?」


 低く問う。


「いえ……提督は」


 マルクスは一瞬だけ言葉を選び、やがて告げた。


「帝国との戦いで……戦死しました」


 短い沈黙が落ちる。


「あの海の覇者ですら……堕ちたか……」


 バーグレイは呟くように言った。

 そこには、敵であった者への敬意と、わずかな惜しみが滲んでいた。


「では、その船長というのは?」


 シエナ姫が静かに問いかける。


「ええ……もう間もなく来るはずなのですが……詳しいお話は船長が来てから、ということで」


 マルクスは海の方へと視線を向ける。

 沖合にはマルクスたちの船影が見えるのみだった。


「なにぶん、少々おめかしに手間取っているようで……」


「海賊が、おめかし……?」


 ベイルが怪訝そうに眉をひそめる。

 その言葉に、マルクスは口元を緩めた。


「そう! 我々にとっては──」


マルクスは一度言葉を区切り、次の瞬間、やや身を乗り出した。


「太陽であり……女神でもあります!!」


 言い切る声音には熱がこもり、妙に力強い。

 わずかな沈黙。


「……はぁ」


 ベイルが間の抜けた声を漏らす。

 だがマルクスは気にした様子もなく、続けた。


「一度会えばわかるでしょう! 彼女の底抜けの明るさが! 太陽を掲げる女神の如き、その眩さがッ!」


 マルクスの(かたわ)らに立つ部下たちも、「そうだ!」「あの人こそ太陽!」と口々に声を上げ、やたらと力強く頷いていた。


 その背後──遠くの波間から、一艘の小舟がゆっくりと港へとやってくる。


 船に乗る人物は、まだ遠く、その姿はおぼろにしか見えない。



「荒波に揉まれた男たちが、異口同音に褒め称える船長……余程の女傑ね」


 シエナ姫はゴクリと喉を鳴らした。




 やがて小舟は港へと到着する。

 焼けた桟橋の跡地では、岸壁と水面の高低差が大きい。


 マルクスたちなら、その身体能力にものを言わせて軽々と上がってきただろう。

 だが、船長と言われた女性はそうもいかないようだった。


 護岸から白い腕だけがニュッと突き出た。


 その腕が、助けを求めるようにブンブンと左右に振られる。


 アルバンシアの一同もマルクスたちもそれを見守っていたが、すぐにハッとなった。


「あ、あぁ、船長……今引っ張りあげます!」


 そうしてマルクスは、差し出された片腕を掴むと、思い切り上へと引っ張りあげる。


 下から現れたのは、船長と呼ばれた少女だった。

 その顔には、まだあどけなさが残っていた。


 白い肌に、少し短めに切りそろえた艶やかなオレンジ色の髪。

 そのサイドには、錨をかたどった小さなヘアピンが留められていた。


 その身体は、周囲の屈強な船乗りたちとは比べ物にならないほど華奢。

 身なりこそマルクスと同じく、三角帽子(トリコーン)にコートを羽織った海賊然とした格好をしてはいるが、ところどころにリボンがあしらわれており、どうにも仮装感が否めない。


 そして何より目を引くのは足元だった。

 太ももの上がわずかに覗く丈のスカートに、ぴたりとしたニーソックス。

 その上から履かれたブーツという、いかにも場違いな取り合わせ。


 そこにいる屈強な男たちとは、あまりに対照的だった。



「女傑……?」


 ウェリティアが横目で姫をチラリと見る。


「ウェリィってば、まだ頭痛いのに嫌味は言えるのね」


 と、シエナ姫。


「マルクスさん、痛い痛い、降ろして」


「おっとすいません船長」


 マルクスは慌てて宙ぶらりんになっていた少女をそっと地面へと下ろした。

 足が地面に着くなり、少女は軽くスカートの裾を整えた。


「違う違う、船長じゃなくってお頭、やっぱり海賊はお頭だよ!」


「ははは、そうでしたね!」


 マルクスが笑うと共に、お頭と部下たちも笑う。

 その様は和気あいあいとしていた。


 想像よりもごく普通の女の子であることに、アルバンシアの面々は肩透かしを食らったような顔をしていた。


「なんて言うか……普通の人……ですね」


 と、アリーシアス。


 周囲の誰もがそう思っていただろう。

 ただ二人を除いて。


「おいおい……マジかよ」

「……」


 ベイルは信じられないものを見ている表情をし、レイディルは頭を抑える。


「はぁ……まさかお前が海賊になってるだなんてな……()()()()……」


 レイディルはため息を漏らすかのように彼女の名前を口にした。


「……えーっと……リヴィアといえばレイディルのお友達の?」


「リヴィア・オルテット、いわゆるおちこぼれトリオの三人目ってヤツだな」


 アリーシアスの言葉にベイルが答える。


「お前、俺がどれだけ探したと思ってんだよ!

しかも久しぶりに顔見せたと思ったら海賊だって? ほんと予測不能だな!」


「あっ! レイディルにベイルだ! おひさ!」


 ベイルの言葉に屈託の無い笑顔で返すリヴィア。


「いやぁ数年前に釣りしてたら、波に攫われちゃってさ、マルクスさんたちに助けてもらったのが縁でね」


 彼女は腕を組みシミジミと語り出した。


「なんか落ち込んでるみたいなんで、元気付けであげてたら、いつの間にかお頭になりました!」


 満面の笑顔でそう答えた。


「……つまり彼女、アルバンシアの住民よね。

それが今やセイレオスの生き残りのトップなの……なんで?」


 さすがのシエナ姫も理解できないといった顔をしている。


 その直後だった。


「あ、もしかしてシエナ姫? わぁ、本物初めて見た!」


 シエナ姫に気付いたリヴィアはそう言うなり、ごく自然に歩み寄り、当たり前のようにその両手を取った。


「ええ。私がアルバンシア王国の王女、シエナです」


 シエナ姫は、いつも通りに名乗る。


「やっぱり綺麗だねー! 思ってた通り!」


「そう? ありがとう。

確かに、民の前に出る機会は限られているから──」


 そこまで口にして、

 シエナ姫はほんの一瞬だけ、言葉を切った。


「……あら?」

「──ッ、姫様!」


 数瞬遅れて、護衛の騎士たちが構える。

 だがその時にはすでに、“親しげに会話を交わす二人”という空気が出来上がっていた。

 その空気を壊す方が、むしろ不自然に思えるほどに。


 ロルフは敵意は無いと判断し、手を上げて護衛たちを制止させる。


「……今の、止めるところだったよな?」

「一応、な……」


 ベイルとレイディルはハラハラした面持ちで姫とリヴィアを見ていた。


「なぜ誰も止めなかったんです?」


 と、アリーシアス。


「いえ、なんだか自然すぎたので……」


 リヴィアの立ち振る舞いにレイラも困惑していた。


 周りがそんな反応をしていると、リヴィアはシエナから手を離し話題を戻した。


「そうそう、トップが誰とかいう話ですけど……大首領は別にいるんです。

でも一応、マルクスさんたちの艦隊は私が預からせてもらってます。

とはいえ指揮とか全然できないんで、歌うたったり楽器弾いたり料理作ったり掃除したり──雑用してるだけなんですけどね!」


「……リヴィアってさ」

「あぁ、全部ヘッタクソだったな……」


 笑顔で続けるリヴィアに対してレイディルとベイルはヒソヒソと話していた。

 二人はマルクスの方を見やる。


 すると、マルクスがスーッと近づき声をかけた。


「確かにお頭は何にもできん。本人は色々やってくれるんだが……まぁ、だいたいは邪魔になる。

歌を歌えば音は外れて、楽器を弾けば騒音を奏で、料理をすれば黒い何かを生み出し、掃除をすれば逆に散らかす……」


 内容こそ散々だが、その声色に恨みや嫌味はまるでない。

 むしろ、どこか誇らしげですらあった。


「だけど、お頭のあの明るさこそが我々には必要なものなんだ! 夜すら照らす太陽!」


 (はた)で聞いていたアリーシアスが「はぁ……」と漏らす。


「なんていうか相変わらずだなぁ」

「なんか人に好かれるんだよなアイツ」


 リヴィアが現れてから、港に張り詰めていた空気は、すっかり緩んでいた。



「うわー……コミュ強だ……直視できない……眩し……」


 ウェリティアが、腕で目を庇い、顔を背けた。


「ねぇねぇ、マルクスさん。

私そこまでメタメタだったっけ……?

うん、自分がぶきっちょだって理解はしてるし、なんにもできないのには異論はないんだけど」


 リヴィアはそう言いながら、軽い足取りでこちらへ歩み寄ってくる。


「ないんだ……」


 リヴィアの疑問に、ウェリティアが小さく呟く。


「伊達におちこぼれてませんので!」


 そう言ってリヴィアは、両手を軽く握りしめ、胸の前でぐっと拳を作った。


「いや、まぁ……むしろ厳選してんですがねぇ」


 マルクスは、悪びれる様子なくそう言った。


「でも、でもですよ!?」


 それまでの調子とは打って変わり、マルクスは声に熱を込めた。


「お頭の魅力はそんなとこじゃあないんですよ! いいですか?」


 マルクスはゴホンと咳払いをひとつ。

 そして息を吸い込んだ。


「お頭は──底抜けに明るい!」


 溜めた空気を吐き出しながら一気にまくし立てる。


「底抜けに明るい! ポジティブ! 優しい!」


 マルクスに続き、部下たちも口々に声をあげだした。


「あと……なんつーか、あの人と一緒にいるとよ……こっちまで元気になっちまうんだ!」


 部下の一人が、うまく言葉を探しながらも、そう続ける。


「なにより、お頭の心は折れない」


 マルクスが力強く言い切る。


「何度失敗しても、次があると前を向けるんです」


「そうそう! それそれ!」


 別の男が頷きながら口を挟む。


「で、それがな……なんていうか……伝染るんだよ」


「伝播、っていうんですかねぇ……」


「そうそう、それだ!」


「気付いたら、こっちも巻き込まれてるんですよ!」


 その言葉に──


「ちょ、ちょっと待って待って!」


 さすがにたまらなくなったのか、リヴィアが慌てて割って入る。


「なんかすごいことになってない!? 私そんな大したことしてないって!」


 頬をほんのり赤らめながら、両手を前に出してぶんぶんと振る。


「褒められすぎるのもこそばゆいからー!」


そう言いつつも、その表情はどこか嬉しそうで、まんざらでもなさそうだった。


「なにを……見せられているのかしら……」


 シエナ姫がポツリと呟く。


「以前に見たときは、厳つい男だったのですがねぇ」


 バーグレイが遠い目をして、その一団を見やった。


「はぁ……楽しげなのはいいけど……本当の目的はなんなんだ……」


 レイディルは堪えきれず、小さく息を吐いて口を開いた。

 疲れを隠そうともせず、改めて本題を切り出す。


「あっ! そうだった……実は……」



 言いかけてリヴィアは姿勢を正し、姫へと振り返る。


 先ほどまでの空気が嘘のように、場は静まり返った。

つい先ほどまで響いていた笑い声さえ、一瞬にして潮騒へと溶けて消えたようだった。


 ……なんなんだ、この温度差。

 レイディルはそうツッコミたかったが、空気を読んで口をつぐんだ。


 ようやく本題か。

 彼は小さく息を整え、次の言葉を待った。

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