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11・ポーション作成

「う〜ん、よく寝たぁ……」


 陽が昇る頃に目が覚める。


 ——時間に追われず、こうやってゆっくり起き上がるのは久しぶりのことだった。


「主」


 しかも隣にも美少女。


 ——結局俺はレオナに手を出さなかった。


 ってか手を出せなかった。

 チクショーめ。

 童貞万歳だ。


「主。今日はなにをするつもり?」

「今日? う〜ん、なにも考えていなかったな」


 無計画すぎる。


 住むところも確保したとはいえ、ホレスから貰った当面の生活費はそこまで多くはない。

 働かなければ生きていくことも出来ないだろう。


 ……アイテム職人として軌道に乗ったら、それこそ気が向いた時に働けるようにしておきたい。

 だが、俺の理想のスローライフを実現するためには、生活基盤をもう少し築いておく必要があった。


「なにをすればいいと思う?」

「……レオナに聞かれても分からない」

「まあそりゃそうだよな……取りえずホレスのところにでも行ってみるか」


 はい!

 いきなりホレス頼みです!

 仕方ないよね、この世界についてまだ俺はなにも知らないんだから。


「行くぞ、レオナ」


 コクリ、とレオナが頷いた。


  ■


「いらっしゃいませ……おやおや。すぐにお会いしましたね」


 店内に入ると、カウンターで立ち上がり苦笑するホレス。


「お客さんはいないのか?」

「はい」

「意外だな。道具屋っていうと、店内が冒険者で満たされているようなイメージがあるが」

「そうですね——実際、繁盛している道具屋は多いです。ただ私のところは置いてあるアイテムは高級なものが多い。薄利多売の反対ですよ」


 一瞬、ホレス有能説が覆りそうになった。


 店内を歩きながらアイテムを見ていると——は!? 120万ホープ!?

 他にも目ん球が飛び出しそうなくらい、高い値段が書かれた値札が掲げられていた。


 一つ売ったら、一ヶ月は楽に生活出来るだろうか。

 とはいっても、ハイポーション一つで1000万ホープの値が付けられたんだし、お金は持っているだろう。


「それで今日はどのようなご用で?」

「それが……なにをすればいいのか分からないんだ」

「というと?」

「そもそもアイテム職人ってなにをすればいいんだ? それに……これから俺はなにをしていけばいいんだろうか」

「成る程……どうかお座りくださいませ」


 ホレスの用意してくれた椅子に座り、カウンター越しに対面する。


「…………」


 隣ではレオナも椅子に座る。

 黙って、俺達の話に耳を傾けているみたいだ。


「アイテム職人の仕事は大きく分けて二つあります。

 一つがアイテムを作り出すこと。もう一つがアイテムに付加価値を付けることであります。

 前者は無から有を作り出すことになりますから、レアスキルだったりアイテム調合師としての腕が必要になってくるでしょう。アイテム調合師は長年の勉強や実務が必要となってきますから、一朝一夕では出来るものではありません。

 もう一つ目が……コウキさんのやっていることですね。スキルのないアイテムにスキルを付けたり、アクセサリーに装飾を施して効果をアップさせる等々になります」

「成る程な」

「アイテム職人は自分でお客さん——つまりエンドユーザーにアイテムを売りません」


 エンドユーザーにアイテムを売るのはホレスのような道具屋の仕事のはずだ。

 だが。


「売らないのか? それとも——売ってはいけないのか?」

「いえ、前者の売らない方ですね。ただエンドユーザーとアイテム職人を結びつける役目は私のような道具屋——つまり問屋に任せていただいた方が、安定的にアイテム職人の方も収入を得られますし、お客さんに安定して商品を供給出来ますから」

「まあ直接売るつもりなんてなかったけどよ」


 エンドユーザーに直接ってなったら、道具屋を開かなければならないかもしれない。

 クレームも多そうだしな。

 そんな面倒臭いことはしたくない。

 単純に。


「そこでアイテム職人は問屋——つまり道具屋や武具屋と付き合いを持つこと。これがアイテム職人として生きていく第一歩だしな」

「付き合いか……」


 やっぱこの世界でも付き合いってのが必要になってくるか。


 うーん、面倒臭い。


 でもレオナを養うためにも、生活基盤が安定するまでは働かないとな!


「道具屋なら私から紹介しましょうか?」

「いや——それくらいなら俺でも出来るから、自分一人の力でやってみるよ」


 ホレスに貸しを作りすぎるのも、後々怖いからである。

 それにちょっとワクワクする。

 なんというか、異世界で生活していくんだー、みたいな感じがして。


「左様ですか。まあ【全体効果】の付いたポーションでも持って行けば、みなさん目の色変えるので大丈夫でしょう」

「だったらいいんだがな」

「あっ、良かったら私のネームカードも持って行ってください」

「ネームカード?」


 ホレスから何枚か束になったネームカードを受け取る。

 ネームカードは手の平サイズの長方形の紙で、そこに名前や住所が書かれていた。

 元の世界に例えると丁度名刺みたいなものか。

 話を聞こうとしない道具屋には、この名刺を見せろーってことなのか。

 やっぱホレスってアルフガフト内でも力を持っているのだろうか。


「ありがとう。あっ、それからポーションをいくつか仕入れたいんだが」


【全体効果】の付いたポーションこそが、俺の方の名刺——つまりネームカード代わりになるだろう。


「かしこまりました。では一つ5000ホープになります」

「高っ!」

「適正価格ですよ?」


 ニコニコ笑顔のホレス。

 まあ今更、ホレスを疑う気なんてないが。


 三つのポーションをホレスから購入する。


「ありがとうございます。では幸運を祈っていますね」

「上手くいくように頑張るよ」

「……ああ、そうそう。もし変な目に遭わされた場合は私までお申し付けくださいませ」

「ん? 分かった」


 とにかく指針は決まったな。

【全体効果】のポーションを作って、他の道具屋に営業をかける。


 営業というのはスローライフには似つかわしくないかもしれない。

 だが、何事も経験だ。

 生活基盤が安定するまでは、少しの我慢も必要になってくるだろう。


 それに【全体効果付与】っていうスキルもあるんだしな。

 なにも心配しなくていいだろう。


「帰るぞ、レオナ」


 ってな感じで。

 俺達はホレスの道具屋『シャルリム』を後にした。




 家の作業場に行って、スキルの詳細を開いてみる。


---------------------------------------

コウキ・オクムラ

SP20


『所持スキル』

【全体効果付与】Lv2

ターゲット:ポーション(消費SP5)

---------------------------------------


 やはりSPが全回復している。


「休むと……SPが回復するのか?」


 ならば昨日はぐっすり寝られたから、SP全回復も納得出来る。

 休めば休む程、SPは回復していく?

 暇な時は寝て、そして作業をする。

 うーん、これこそ俺の求めていたスローライフだ。


「ちゃちゃっと作ってしまうか」



 ……三分後。

 いつもと同じ手順で三つの【全体効果】が付いたポーションを完成させた。


---------------------------------------

コウキ・オクムラ

SP5(MAX50)


『所持スキル』

【全体効果付与】Lv3

ターゲット:ポーション(消費SP5)

---------------------------------------


 おいおい!

 SPが一気に跳ね上がったぞ。


「成長率チートでも持っているのかよ」


 たったLv1→Lv3になっただけで大した変わりようである。


 それにしても、【全体効果付与】のスキルを使う際、俺は指くらいしか動かしていない。

 作業場に来なくても、寝ながらでも作業出来そうだな。

 うーん、最高すぎる。


「よし……とにかくこれを持って売り込みにいくぞ」

「レオナも行った方がいい?」

「ああ。俺みたいなおっさんが一人で行くより、レオナみたいな可愛い子がいた方があっちも安心するだろう」

「分かった。頑張る」


 良い結果になってくれるといいんだがな……。

 まあホレスのネームカードもあるし大丈夫だろう。

 そんな感じで楽観的に考えていた。

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