12・社会の荒波
道具屋といってもどこに行こう?
ホレスに貰った地図と睨めっこする。
「うーん、とにかく近い道具屋だったらいいかな?」
ここから一番近い道具屋は『アカテラス』というらしい。
なんかどっかで聞いたことのある名前だな。
日本の神様でそんなヤツいたような。
まあ偶然だろう。
「レオナ」
レオナに視線をやると、コクリと頷いて隣に付き添ってきた。
うーん、もうアイコンタクトが出来ている。
俺の奴隷は可愛いだけじゃなく、頭も良い!
自慢の奴隷だ。
家から出て、十分くらい歩いて……。
「ごめんくださーい」
アカテラスの扉を開けると、カランカランと鳴った。
開けると同時に、元気よく呼びかける。
「いらっしゃい」
店内奥……では髭を生やした四十代くらいの男がいた。
「なかなか繁盛しているみたいだな」
「へえ……おかげさまで」
俺を警戒しているんだろうか。
怪しむような視線を向けてくる。
まあ無理はないだろう。
店内はホレスの道具屋『ジュリエル』とはまた違った様子であった。
まず店内にお客さんが五、六人いてアイテムを眺めている。
アイテムも……ホレスのとことは違い、棚に無造作に置かれているだけである。
まあガラスケースで大事にアイテムを保管する、ってのがまずおかしいんだろう。
このお店は元の世界に例えるコンビニに近い。
薄利多売。
まあ全部が全部、ホレスのとこみたいな高級店じゃ冒険者も困るだろうしな。
こういう道具屋も必要なんだろう。
「ポーションならあっち、痺れ薬ならそっち……棚に置いてあるから、買いたいものをオレのところまで持ってきてくれ」
そう行って、店主らしき男は俺から視線を逸らしてしまう。
うーん。
日本に慣れている俺からして、この男の接客態度は0点だ。
まあ日本が異常に接客が丁寧だけかもしれないが。
だが、接客業を営んでいこうと思うならもう少し努力を……。
ハッ!
いかんいかん。
お客がそういう考えを持っているから、ブラック企業というものが生まれるんだ。
接客ってのはこれくらいが丁度いいのかもしれない。
「悪いが、俺は客じゃないんだ」
「……どういうことだ?」
ギロッと目を向けてくる男。
「アイテム職人になろうと思って、アルフガフトにやって来たんだ。それで……アイテムを持ってきたから買い取ってもらいたくてな」
「ほぉ……アイテム職人だったか」
少し男の顔が和らぐ。
……とはいってもこの男。
元々からして顔が怖い。
睨まれたら体が動かなくなってしまう。
このまま顔が緩んだまま交渉出来ればいいんだがな。
「アイテム職人なってどれくらいだ?」
「え、えーっと……」
まさか三日くらいというわけにはいかないだろう。
舐められてしまう。
「い、一年くらいだ」
「一年!? ハッ! そんなひよっ子でよく独り立ちしようと思ったな!」
鼻で笑われる。
うーん、どうやら三日だろうが一年だろうがあんま意味がないらしい。
アイテム調合師になるためには長い年月が必要、ってホレスも言ってたしな。
それにしても、期間だけで有能か無能か見定めるなんて。
この男、あんま出世しそうにないなと思った。
「まあまあ、まずはアイテムを見てくれよ。それから取引するかどうか決めてくれていい」
「見るだけならいいぞ。だが——調合学校で作った試作品なんか見せるなよ」
「俺はコウキを言う——あんたは?」
「あんたに名乗る名前なんてねーよ」
ピキピキ。
いかんいかん、血圧が上がりそうになってしまう。
「主?」
こういう時は隣で首を傾げているレオナを見て、気分を癒すんだ。
……よし充電完了。
俺は持ってきていた袋からポーションを取り出して、カウンターに置く。
「……これは?」
「ん? 見て分からないか。これはポーションだ。このポーションはな——」
【全体効果】のスキルが付与されている、と続けようとした時であった。
「ガハハハハ! なにを見せてくるかと思ったらポーションかよ! こんなもん、説明聞かなくても十分だ!」
と言って。
カウンターの上に置かれたポーションを太い腕で払った。
そのせいでポーションが床に落ちて、割れてしまい液体が店内に飛び散る。
「お、おいちょっと待てよ……話は最後まで」
「出直してきな! ポーションってのはアイテム職人としては初心者中の初心者アイテム。ただのポーションなんか作るアイテム職人なんか腐る程いるんだよ!」
腹を抱えながら笑っている男。
後ろを振り返れば、店内にいたお客さんもクスクスと笑っているように見えた。
「ただのポーションなんかじゃ——」
「聞こえなかったか? さっさと出直してきなと言ったんだ。出て行かないなら——」
「主!」
男の拳が急にこちらへと向かってきた。
当たる寸前。
レオナが突き飛ばしてくれたおかげで、男のパンチからは逃れた。
「ほお、これは?」
突き飛ばされた衝撃で持っていた荷物も床にぶちまけてしまった。
男は床に散らばったホレスのネームカードを拾い上げて、興味深げに見つめる。
「……一応、ホレスのお墨付きなんだがな。お前も道具屋なんだから、ホレスの名前くらい知ってるだろ?」
「ハッ! お前なんかがホレスさんにお墨付きを貰えるわけないだろ。差し詰め、このネームカードをどこかで拾ったか、家に忍び込んで盗んだに違いない。ネームカードを持ってるくらいで偉そうにするなよ」
……ダメだ。
こいつに話は通じない。
「クスクス」
……それに店内にいた客の笑い声も非常に不愉快。
「……取り敢えず帰らせてもらう」
「帰れ帰れ。もう来るんじゃねーぞ。お客としてでもだ」
「後悔するなよ」
最後の最後。
そんな捨て台詞を残して店を後にする。
「主……」
店から出ると、心配そうにレオナが俺を見上げてきた。
「主、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。それにレオナ、俺を守ってくれたんだよな? さっきはありがとう」
「ふわぁ」
クシャクシャとレオナの頭を撫でてやる。
あいつ……。
確かにポーションしかアイテム職人として売り込めないのは、俺の悪いところかもしれない。
だけどあいつはアイテムを触って、鑑定もせずにポーションを床にぶちまけた。
ああ、確かに俺は【全体効果】の付いたポーションを大量生産出来る。
だが、ポーションを仕入れるのにも金がかかった。
「取り敢えずホレスのところに行こうか」
このまま、次の道具屋に行く気力もない。
次も門前払いをされることが怖かったからだ。
それにもしかしたら、俺の営業テクニックが悪いかもしれない。
それについてもホレスと話し合いたかった。
結局のところ、俺はホレスくらいしか頼れないんだから。
ホレスへと向かう道中。
ギュッ、とレオナは俺の服の端を握り続けていた。
■
「いら——ああ、こんにちは。コウキさんですか」
ホレスの店に入ると、笑顔で迎えてくれた。
ホレスの笑みを見ると、なんだか安心する。
それにしても、相変わらずお客さんらしき人影は見えない。
本当に儲かっているんだろうか?
いや……あれだけ優しくしてもらっているんだ。
それに、さっき行った道具屋よりホレスの方が劣っているとは到底考えられない。
「どうしました? 表情が曇っているようですが」
「実は……」




