第9話 「教室・人間関係初期分析」
第9話 ローキックは程々にー
教室のドアを開けた瞬間、空気がすでに分かれていた。
「なっ、何だとっ! 一部仲良しグループが出来ているだと? これは想定外、いや、想定範囲である」
窓際の席に、三人の女子が自然に固まって座っている。
声は小さいのに、笑い声のタイミングが揃いすぎている。
机の配置も、椅子の向きも、微妙に内側に寄っている。
(落ち着くのだ、我よ。いらない呼吸法は、ラマーズ法と空手の息吹は置いといてっと。冷静に構造を紐解くのだ)
私は一歩踏み入れる前に、頭の中で線を引いた。
(……あれは、昨日できたグループじゃない)
(同じ中学から来た連中が、入学初日の夕方から夜にかけて、LINEか何かで「明日どうする?」って軽く確認した痕跡)
(あるいは、もっと前から「高校でも一緒にいよう」と決めていた可能性すらある)
ゆっきーと目が合った。
ゆっきーも同じように観察している。
(やはり、このゆっきーの野生の本能も、何か感じているのであるか?)
二人とも、何も言わずに名前順である、連なる席に腰を下ろした。
私の前には、ゆっきー。
そして、後ろのお隣さんは――誰だ?
(名前も知らぬぞ?)
(仲良しグループは、突然生まれない)
(ただ、すでに存在していた構造が、新しい教室という舞台に現れただけなのだ)
私はロッカーから今日の授業の教科書を出し、カバンからノートを出して、静かにノートを開いた。
筆箱からシャーペンを取り出す。
(人物をリスト化して分析しなければならない)
(授業中は、スマホが使えない)
(ならば、隙を見つけ、アナログ方式でデータを集めなければならないのだ)
(今日の観察対象は、明確になったのである)
始まりのチャイムが鳴るまで、もう少し。
私はふと、隣に座るゆっきーへ視線を向けた。
「ゆっきーよ、始まりのチャイムがもう少しで告げるが、ゆっきーは自己紹介に空手をぶち込むのであるか?」
「うん? そうよ。だって空手は私の代名詞のようなものだもん! 何年やってると思ってるのよ」
(う、うむ。幼き時から確かに道着を着て通っていたのであるな。確かに、このバーサーカーは……)
私はそこで、ある記憶を思い出した。
「ん? 待てよ?」
「ゆっきーよ、貴様、私をローキックの実験台にして昔、遊んでいなかったか? 私は被害者ではないのか?」
「そんなんじゃないわよー。新しく覚えた技を、早く自分のモノにしたかっただけじゃん」
「いや、待て待て」
私はゆっきーを見つめる。
(あれは……もしかして、いじめだったのでは? 今、考えると……)
「いや、待て待て。あれ、体の構造的に軽く蹴られても、ピンポイントでレバレッジ、弱点に入ると数日歩行に支障が出るのだぞ」
ゆっきーは、きょとんとした顔をする。
「だから、いじめじゃないってば」
「むぅ……」
(しかし、結果として数日歩きにくかったのは事実なのである)
私は改めて、ゆっきーという人間を観察する。
(空手を何年も続け、朝から格闘技情報を収集し、新しい技を覚えれば幼馴染みを実験台にする)
(……やはり、脳筋空手女子なのである)
その一方で、ゆっきーは何事もなかったかのように自己紹介の内容を考えている。
「私は空手でいいと思うけど?」
「……非常に分かりやすいのである」
「でしょ?」
私は小さくため息をついた。
(私の自己紹介は、まだ決まっていない)
(しかし、ゆっきーの自己紹介は、もう完成している)
「まあ、いいのである。私は私の道を進むのみ。悩むものではないのである」
「りりっぺも、いつも通りでやればいいのよー。変に取り繕って、後からボロが出るよりいいと思うよ」
(その通りなのだ。取り繕いの装飾などは、役に立たないのである)
(この差は、いったい何なのであろうか)
教室の中では、すでに小さな会話がいくつも生まれている。
名前も知らない者同士が、少しずつ互いの情報を交換している。
(高校生活二日目)
(どうやら、今日から本格的に「青春の初期配置」が始まるようである)
そして私は、自分がその配置のどこに入るのかを、まだ知らなかった。
教室のドアを開けた瞬間、空気がすでに分かれていた。
「なっ、何だとっ! 一部仲良しグループが出来ているだと? これは想定外、いや、想定範囲である」
窓際の席に、三人の女子が自然に固まって座っている。
声は小さいのに、笑い声のタイミングが揃いすぎている。
机の配置も、椅子の向きも、微妙に内側に寄っている。
(落ち着くのだ、我よ。いらない呼吸法は、ラマーズ法と空手の息吹は置いといてっと。冷静に構造を紐解くのだ)
私は一歩踏み入れる前に、頭の中で線を引いた。
(……あれは、昨日できたグループじゃない)
(同じ中学から来た連中が、入学初日の夕方から夜にかけて、LINEか何かで「明日どうする?」って軽く確認した痕跡)
(あるいは、もっと前から「高校でも一緒にいよう」と決めていた可能性すらある)
ゆっきーと目が合った。
ゆっきーも同じように観察している。
(やはり、このゆっきーの野生の本能も、何か感じているのであるか?)
二人とも、何も言わずに名前順である、連なる席に腰を下ろした。
私の前には、ゆっきー。
そして、後ろのお隣さんは――誰だ?
(名前も知らぬぞ?)
(仲良しグループは、突然生まれない)
(ただ、すでに存在していた構造が、新しい教室という舞台に現れただけなのだ)
私はロッカーから今日の授業の教科書を出し、カバンからノートを出して、静かにノートを開いた。
筆箱からシャーペンを取り出す。
(人物をリスト化して分析しなければならない)
(授業中は、スマホが使えない)
(ならば、隙を見つけ、アナログ方式でデータを集めなければならないのだ)
(今日の観察対象は、明確になったのである)
始まりのチャイムが鳴るまで、もう少し。
私はふと、隣に座るゆっきーへ視線を向けた。
「ゆっきーよ、始まりのチャイムがもう少しで告げるが、ゆっきーは自己紹介に空手をぶち込むのであるか?」
「うん? そうよ。だって空手は私の代名詞のようなものだもん! 何年やってると思ってるのよ」
(う、うむ。幼き時から確かに道着を着て通っていたのであるな。確かに、このバーサーカーは……)
私はそこで、ある記憶を思い出した。
「ん? 待てよ?」
「ゆっきーよ、貴様、私をローキックの実験台にして昔、遊んでいなかったか? 私は被害者ではないのか?」
「そんなんじゃないわよー。新しく覚えた技を、早く自分のモノにしたかっただけじゃん」
「いや、待て待て」
私はゆっきーを見つめる。
(あれは……もしかして、いじめだったのでは? 今、考えると……)
「いや、待て待て。あれ、体の構造的に軽く蹴られても、ピンポイントでレバレッジ、弱点に入ると数日歩行に支障が出るのだぞ」
ゆっきーは、きょとんとした顔をする。
「だから、いじめじゃないってば」
「むぅ……」
(しかし、結果として数日歩きにくかったのは事実なのである)
私は改めて、ゆっきーという人間を観察する。
(空手を何年も続け、朝から格闘技情報を収集し、新しい技を覚えれば幼馴染みを実験台にする)
(……やはり、脳筋空手女子なのである)
その一方で、ゆっきーは何事もなかったかのように自己紹介の内容を考えている。
「私は空手でいいと思うけど?」
「……非常に分かりやすいのである」
「でしょ?」
私は小さくため息をついた。
(私の自己紹介は、まだ決まっていない)
(しかし、ゆっきーの自己紹介は、もう完成している)
「まあ、いいのである。私は私の道を進むのみ。悩むものではないのである」
「りりっぺも、いつも通りでやればいいのよー。変に取り繕って、後からボロが出るよりいいと思うよ」
(その通りなのだ。取り繕いの装飾などは、役に立たないのである)
(この差は、いったい何なのであろうか)
教室の中では、すでに小さな会話がいくつも生まれている。
名前も知らない者同士が、少しずつ互いの情報を交換している。
(高校生活二日目)
(どうやら、今日から本格的に「青春の初期配置」が始まるようである)
そして私は、自分がその配置のどこに入るのかを、まだ知らなかった。




