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俗物水滸伝  作者: 孔明
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第47話  潘金蓮、恋をする

 楊志と一緒に武松が借りた家は、転勤になった役人が家族と一緒に住んでいたもので、二人で住むには十分の広さがある。

 武大の家から帰ってきた武松は、同居人への挨拶もなく台所へ直行すると、酒樽を引っ張り出した。安い酒をとにかく大量に流し込みたい気分だったのである。

 酒樽の中の酒を碗で乱暴に掬って飲む。


「帰って来るや否や、いきなりどうしてんでござるか?」


 先に帰っていて吹毛剣を研いでいた楊志が、何事かとやってきた。


「兄貴に会ってきた」


「お主の兄は隣街にいるのではなかったのか?」


「事情があってな。引っ越してたんだってよ」


「それは……」


 武松が故郷に戻ってきたのは、久しぶりに兄に会いたくなったからだ。陽穀県の都頭になる誘いを了承したのも、役人になって立派な姿になったところを兄に見せるためである。

 その兄と再会できたのだから、それはめでたいことのはずだ。だが武松の態度を見て『めでたいめでたい』と流せるほど楊志は節穴ではなかった。


「良かった、そういうべきなのでござるか?」


「当然だろう。そのはずなんだ」


「兄となにか喧嘩でもしたか?」


「何もなかったよ。ただ昔の話をして、故郷を出てからの話をして別れた。それだけなんだ。本当にそれ以外は……なにも……」


 曖昧に話を打ち切ると、武松は再び酒を飲み始める。それ以上はなにも話そうとはしなかった。武松の意を汲んで楊志も敢えて追及することはなかった。


「すまん。拙者も飲ませて欲しいでござるよ」


 かわりに楊志は武松と一緒に飲むことにした。男は言葉がなくても、一緒に酒を飲むだけで会話をすることができる。

 楊志は武松の向かいに腰を下ろして、碗で酒を掬って飲んだ。

 楊志と武松が一緒に酒を飲んで、言葉数がなかったのは初めてのことであった。




 その日の夜。

 武大より先に寝室に戻った金蓮は、寝台に体を投げた。

 視線は天井を見つめていたが、瞳には心に焼き付いた武松の顔が映っていた。


「虎には恐れず立ち向かえるのに、女からは逃げるなんて可愛い人」


 金蓮は自分の人生を回顧する。

 貧しい家に生まれ、父親は盗賊の追い剥ぎに合って死に、母も流行り病で死んだ。

 美味しいものなんて食べたことはなかったし、楽しいと思えたこともなかった。

 生活のために金持ちの家に奉公へ行けば、そこの主人に手をつけられそうになり、それを正夫人に言いつければ逆恨みによって、街一番の醜男に無理やりに嫁がされた。

 自分の人生を、自分の意志で決めたことなんて、ただの一度だってありはしなかっただろう。

 自分は不幸だ。

 このご時勢だし自分より不幸な境遇の人間はいるかもしれない。だが近所に住んでいる者の中では一番だ。


「でもそのことを嘆いたことなんてないわ。だっていつの日か、私をこの苦しみから救ってくれる人が現れるんだって知っていたんだもの」


 根拠などなかった。だが潘金蓮は確信していた。


「だって――――不幸になった分だけ幸福が訪れないと、釣り合いがとれないでしょう」


 人生に幸福の分だけ不幸があるなら、これまでずっと不幸だった自分には、相応する幸せが待っているはずなのだ。

 誰もが見惚れる英雄が颯爽と現れ、自分をこの不幸から救い出し、やがてその英雄に恋をして、子を産んで、育み、家族に囲まれて死ぬ。そういう幸せである。

 その英雄が現れるのをずっと待っていて、遂に金蓮は運命を感じる男と巡り合った。

 武松。雄々しくも美々しい虎殺しの英雄。

 鼓動が早まる。武松と会うことを想像するだけで、明日がくるのが楽しくなった。

 金蓮は自分の秘部に手を伸ばす。

 そこはじんわりと濡れていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] なぜかR18Gだった元より描写がエロい
2020/11/03 19:04 ぴかえもん
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