ラストエピソード 花畑
風が気持ちいい。いいにおいがする。とても温かい場所だ。
その場を穏やかな時間が流れていくのに気付きながらも、少年は目を覚ました。日の光が眩しいと感じながらも起き上がる。
辺り一面花畑。どこかで見たことがあると言えば、そうなのであるが――何も思い出せない。ここはどこなのだろうか。立ち上がって、周りを見た。とても平和的な場所だ。できれば先ほどのようにして寝ていたいな。そう思っていてもどこか不安はある。なぜだろうか――。
ふと、花畑で少し丘になっているところに木があった。その下には一人の少女が座って何かをしている様子。彼女は誰だっけかと愁眉を見せながらも、独りでいるよりはまだいいと思い、そちらの方へと向かう。
木の下で花の冠を作っている少女のもとへと近付いて声をかけた。
「独り?」
その設問に少女は首を横に振った。じっとこちらを見てくる。
「誰かを待っているの?」
この質問には「うん」と答えてくれた。どうやら待ち人らしい。
「ずっと待ってるの。こうして花の冠を作ったり――」
出来上がった花冠を少年の頭の上に乗せた少女は、木に生っていた赤い実を二つもいだ。その内一つを彼に渡す。
「木の実を取って食べたり」
そして、丘から下りていくと、その場に寝っころがった。
「こうして、寝っころがったりして待ってたの」
少年をじっと見つめながら少女は起き上がると、頬を緩ませた。
「あたしねぇ、目を覚ますのを待っていたんだ」
「……そっか」
「うん、きみとの『約束』だからねぇ」
その言葉に少女が誰を待っていたのかを瞬時に理解した。そうだ、自分は彼女と約束をしたんだ。一緒にいるという約束を。
叶ったんだ、その願いが。
少女は手を差し伸べた。
「木の下で一緒に食べよ」
二人は手をつないで赤い木の実が生る木の下へと行くと、木の幹を背にして果実を頬張った。みずみずしくて、甘くて美味しい。独りで食べるより、誰かと食べた方がより一層美味しかった。
だがしかし、その木の実を食べ終えた少年には眠気が襲いかかってくる。満足したからなのだろうか。眠るのは嫌だった。せっかく、少女と共に一緒にいられる喜びを味わえているのに。それが嫌だった。
「どうしたの?」
そんな少年に気付いた。
「眠いの?」
「……うん。でも、寝たくない」
「いいよ、寝ても」
「ううん、嫌だ」
ずっと少女と共に起きて、一緒にいたいのだから。寝るだなんて。とんでもない。それに寝ることに関して不安があった。またこのまま独りになってしまうのではないのか、と。
「きみがいなくなりそうで……嫌なんだ」
「大丈夫、あたしはずっとここにいるよ」
「でも……」
そう宣言してくれるのはありがたいし、嬉しいのだが――それでも嫌だった。独りぼっちの気分が襲いかかってくるから怖い。
そうこうしていると、少女は「じゃあさぁ」と一つ提案を持ちかけてきた。
「こうするのは?」
少女は自身の手で少年の手を握った。
「こうすれば、あたしが傍にいるっていうことがわかるよ」
握られたその手はとても温かかった。とても安心できるほどで――。
「本当だ」
少年はゆっくりと瞼を閉じていく。ああ、また眠ってしまうのか。次はいつ起きられるのだろうか。あの子は寝てしまった自分と共にいるのだが、独りで不安ではないだろうか。
――大丈夫だよ。いつだって、きみの隣にいるから。ずっと離れない。きみが目を覚まさまいが、覚まそうがどこにも行かない。
この木の下で待っているから。
花冠を作って待っているから。
草花の上に寝っころがって待っているから。
いつまでもきみと一緒にいたいと祈っている。
だから――。
少女はそっと少年の頬にキスをする。それに安心したようにして、彼は穏やかに寝息を立て始めた。その寝顔を見て、肩を寄せて彼女もゆっくり瞼を閉じ始める。
「ゆっくりお休みなさい、キリ」
――あたしは温かくて、優しいこの時間がずっと続くことを願っています。




