資格
たった数日間しかいなかったのに長かったな、とキリはエントランスにある銅像を眺めた。
結局サバイバル・シミュレーションは中断されてしまった。そのため、どのチームが優勝だとか、そういう話すらもなかったことになってしまう。それに、今回の事件は大いに騒がれる話ではないだろうか。エントランスから見える窓の外には報道陣関係者が賑わっているのが見えているからだ。
軍人育成学校が作った専用ソフトウェアであるサバイバル・シミュレーション。その使用中にコンピュータウィルスに侵入され、幾人の学徒隊員たちが記憶障害を起こしているらしい。バグ・スパイダーのことを知っており、記憶を奪われていないキリたちには何も問題はない――はずはない。
メアリーの存在だ。一国の王女が命の危機に陥っていたのかもしれないのである。
【今回の事件を受けて、学徒隊員教官であるヤグラ・ルーデンドルフを王国軍から除籍致す。また、今件における責任者である学徒隊員副隊長であるブレンダン・ジャスティン・リスターを無期限の停職とする】
今朝のニュースで知った話だ。キリはもちろん、誰もが驚いた話。特にヤグラの除籍というのは痛い話だった。もうマシンを通してガンに会いに行けないし、記憶のデータを回収する術もない。
キリは連絡通信端末機で回収状況のアプリを開いた。回収率はゼロパーセント。マッド戦の際にハイネの記憶を半分くらい自分の記憶に戻ったらしい。だから、ある程度の彼女との思い出は思い出せるのだ。それでも、虫食い状態であることには変わりない。
画面を眺めていると、一件のメールが入った。いや、返信である。ワイアットからだ。
『わかりました』
短絡的な答えに納得すると、キリは場所を移動し始めた。向かう先は訓練場の裏側。話があるからだ。
エントランスを出ると、奇遇にもヤグラと会った。彼の手には大荷物があった。
「教官……」
「ははっ、もう僕は教官じゃないよ。それと、これ」
ヤグラは一枚のメモ紙をキリに渡してきた。何かと開いてみると、そこには一つの住所と二つのアドレスが記載されていた。
「それ、僕の住所とメールアドレス。下のアドレスはガンの新しいメールアドレスだから」
「えっ、ガンの新しいメールアドレスって?」
「除籍されたからね。軍のシステムも新しい人は変えるかもしれないだろうし。特にケア・プログラムが変えられる可能性が高い。だから、今のガンをコピーして、そのコピーは今まで通り軍のシステムの警備をしてもらって、本体は新しい居場所を作ってそこに行けるようにしてあげたんだ。もし、彼に会いたくなったら、僕に連絡をくれるかい? マシンは家に引き取っているからいつでも行けるよ」
「は、はい!」
それはとても嬉しい話だった。できないと諦めていたのに。
「じゃあ、元気で」
「教官もお元気で」
キリはその背中を見送ると、訓練場の裏側へと急ぐのだった。そんな彼の後を追う二つの視線があった。ケイとヴィンである。
「ザイツ。お前、今度の休暇に実家へ帰るか?」
「実家? いきなりどうしたんだい? 今のところ、そんな予定はないけどね」
「カムラ教典をコピーしてんだろ? それ、探してこい」
そう言うケイにヴィンは適当にカフェテリアの椅子を引っ張ってきて、座ると「無茶言うなぁ」と笑った。
「どこにあるのかさえも、わからない状況なんだよ? 実家じゃなくて師匠の家にあるかもなんだよ?」
「いいから休暇中にそれを探してこい。見つけ次第、俺に連絡寄越せ」
「探してこい」だけしか言わないケイを不審に思ったのか、ヴィンは疑いの眼差しを向けた。その視線に気付いているが、見ようとしない。
「ねえ、何か私に隠していることでもあるのかい?」
「別に何も」
色々と言いたいこと、訊きたいことは山ほどある。だが、ここは学校内だ。誰が何を聞いているのかわからない。ただ、今の自分にとってするべきことは本当の真実を見出すことだと思っていた。そして、何よりまだ確信を得ていない事実がある。だからなのだ。
「誰かに聞かれたくないなら、最上階に行くかい? あそこ、誰もいないようなものじゃないか」
「是が非でもか?」
「シルヴェスター家のご子息の秘密ときたもんだ。これは訊かなければ、損だろう?」
「……もし、訊いて損をするならば?」
ケイは反問をする。
「まだ、後悔する方がいいさ」
その答えにケイの心は痛むような気がしていた。
◆
呼び出しておいて、まだ来ていないのはどういうことだ。ワイアットは苛立っていた。場所は訓練場の裏側。そこには自分一人だけ。彼は呼び出し人であるキリに『まだですか』というメールを送り続ける。
「本当、何を考えているんだ。あの人は」
眉間にしわを寄せてため息をつくと、後ろから人の気配がした。ようやく来たかと不快そうな表情を見せて振り返る。
「遅いですよ、呼び出しておいっ――」
ここにやって来たのはハイネだった。彼女も驚きの表情をしている。
「あれ? ワイアット君? なんでここに?」
「い、いえ、僕はデベッガさんに呼ばれたので……」
その言葉にハイネは更に驚いた。そして「私も」と言う。
「私も、キリ君に来てくれないかって」
一体キリは自分とハイネを呼び出しておいて何を話す気なのだろうか。ワイアットは怪訝そうにした。彼女の記憶についての話であるのは間違いなさそうなのだが――。
「ハイネさん、もう行きましょう」
また泣かせるかもしれない。そう考えたワイアットはハイネの手を引いてその場から立ち去ろうとした。
「えっ、ワイアット君待ってよ」
「いえ、僕は心配なんです。僕一人だけならばまだしも、ハイネさんもなら」
「でも……」
ハイネが困惑していると、そこへキリが息を切らしてやって来た。全力疾走で来たのか、顔が青ざめている。とても顔色が悪そうだった。
「大丈夫?」
「大丈夫ですっ! す、すみません、報道取材から逃げていたら……」
それで遅くなったのか、とハイネの手を離した。そして、キリの前に出る。その尋常ではないオーラに圧倒されながらもワイアットを見た。
「話とは何ですか?」
「ああ、うん。二人とも……」
キリは呼吸を整えると、きちんと二人の目を見据えて口を開いた。
「俺を殴ってくれないか?」
この発言に二人は硬直した。頭が真っ白になる。キリにかける言葉が見つからない。
「えっ?」
ようやく、ハイネが声を上げる。だが、それだけであって、それにつながる言葉は何も思いつかない。困惑する彼女をよそにワイアットは顔をしかめた。
「殴ってくれって……。あなたは何を言っているんですか?」
「その言葉の通りだよ。二人が思っている俺に対する気持ちを率直にぶつけて欲しいだけだ」
ますます、ワイアットは眉間にしわを寄せた。余計に理解不能に陥った気分だ。
「フォスレターが言っていたことは事実だよ。本当だよ。だから、その気持ちをもう一度受け止めたいし、キンバーさんの気持ちも知りたい」
「そんな、今更な――」
「知っているよ、今更だって。知っているよ、俺が最低な人間だって」
「…………」
「マッドから一度記憶を奪われて、気がついたんだ」
「キリ君……」
ハイネがワイアットの前に出る。キリは頷いて、彼女を見た。
「キンバーさん、あなたの気持ちを俺に教えてください!」
「キリ君のばかっ!」
言うほどの痛みではないハイネの拳が頬に当たった。
「まだです!」
キリのその答えに目を丸くする。まだとは?
「まだ、あなたの気持ちが俺にはわかりませんっ!」
戸惑いながらも、ハイネはもう一度殴った。先ほどよりかは痛かったが、それでもまだまだ足りない、とキリは思う。
「まだ、わかりませんっ!」
ならば、と握り拳を作り――勢いつけて殴ろうとするところをワイアットが先に殴った。これにはキリは予想外だったのか、地面に転がるようにして倒れる。地面に寝転がりながら彼を見る。ワイアットは握り拳を作って見下していた。
「本当、今更ですね」
「怖かったんだよ」
ゆっくりと立ち上がりながら頬を擦って、立ち上がった。
「俺、どんな気持ちだろうと受け止めますから」
腫れた頬を見せながら笑みを浮かべた。そんなキリを見てハイネは今にも泣きそうな表情をしていたが、笑顔を見せているようにも見えていた。
「……キリ君、私の気持ちを聞いてくれますか?」
「もちろんです」
ハイネは一呼吸を置いてから拳を強く握った。
「今のキリ君なんて、大っ嫌い!!」
ワイアットよりも強烈な音が聞こえたが、キリは地面に倒れないように地に足をしっかりと踏みしめていた。絶対に倒れるものか、と。だが、ハイネの気持ちはまだ終わらない。
「なんで相談してくれなかったの!? なんで黙っていたの!? なんで嘘をついていたの!?」
ハイネは殴る、殴る、殴る。そんな彼女の気持ちを受け止めるつもりだ、と真剣な眼差しで見ていた。まだハイネの気持ちは終わらないのか、緑色の石のブレスレットが光る右手を上げる。しかし、その右手は震えており、殴ろうとはせず――。
「なんで、なんでなの!?」
キリの服の裾にしがみついて泣いてしまった。
「なんで、きみはそんなっ……優しいの!?」
「……俺は優しい人間じゃないです。ただ、怯えているだけなんです」
ハイネは顔を上げて涙を拭う。そして、「殴ってごめん」と小さく謝った。それにキリは首を横に振る。
「謝らないでください。フォスレターとキンバーさんが言っていることが正しいんですから」
その言葉に、ハイネは軽く両手でキリの両頬を叩いた。優しい痛みが顔中に伝う。
「うん、きみは正しくないよ」
少しひんやりとした風が後ろから吹いてきた。周りの木々や草が音を立てている。
「私をハイネって呼んで」
ハイネのその言葉に、キリの心の奥底から何かしらの感情が沸き上がってきた。
「はい」
それがなんであるかは、キリにはわからなかったが、ワイアットにはわかった。この二人が今思っていることも含めてである。
「…………」
悔しそうにするワイアットであるが、それをとやかく言うほどの人間ではない。彼には『諦め』が目に見えているようだった。
――いや、これでいいんだ……きっと。
二人の邪魔しないように、その場をそっと離れ始める。離れて行く度に目の奥が熱くなってくる。段々と、段々と。我慢していた。それでも、胸の奥はいっぱいに詰まって、堪えきれなくて――。
「……泣くな」
自分に言い聞かせる。声が震えているのがわかった。
「泣くな、泣くな、僕」
視界がぼやけてきた。前が見辛い。
「ハイネさんが、二人が元の本来の二人に戻ったんだ。それで、いいんじゃないか。幸せならば……」
自分自身に命令をしているのに、言うことを聞いてくれない。そうしている内に、誰かに肩を置かれた。セロだった。
「ヴェフェハルさん?」
「お前の気持ち、すごくわかるよ。俺も好きな人は……俺じゃ手の届かない人だから」
「フられてもいないのに、相手の気持ちがわかるって悲しいですね」
ワイアットは鼻を啜りながら涙を拭った。
「ヴェフェハルさんは、その人に好意を伝えたことがあるんですか?」
「いいや、ない。言ったところで相手も困るだろうし、連中が怖いから」
なんとなく、ワイアットはセロが好きな人を察した。
「一応、ハイチには黙っておくから」
「いえ、いいです。言っても。何も恥ずべきことではないと思うんです。好きな人を好きだということやその人の幸せを願うのは……」
【俺、ハイネには幸せになってもらいたいんだよ】
ふと、孤島でのハイチの発言を思い出した。そう、幸せになってもらいたいならば――なおさらだ。
「……いや、言わないさ。あいつだけは」
――ハイネの幸せを願っているならば、どうして?
すごくむしゃくしゃする気がした。眉間にしわが寄るのがわかる。それにワイアットは声をかけた。
「どうされました? 僕、何か怒らせるようなことでも言いましたか?」
「ん? いや、何でもない。俺、教官に頼まれているから行くわ。じゃあ、フォスレターはフォスレターなりに頑張れよ」
「ありがとうございます」
なんとかセロのおかげで涙は止まったものの――いざ、一人になると感傷に浸ってしまうのか泣きそうになってしまうワイアット。
「図書館にでも行こう……」
本を読んで気を紛らわそう。そう思って彼は図書館へと足を運ばせるのだった。
◆
廊下を面倒そうに歩くアイリの後ろ姿。ターネラは駆け寄った。
「ハルマチさん!」
「おっ? やっほぉ、ターネラ」
「図書館に行かれるのですか?」
アイリが手にしているピンク色の分厚い本を見て、そう訊ねた。だが、彼女は否定する。
「いや、行かないよ。これはあたしの本だから」
「あっ、そうですか」
少しばかり残念そうにするターネラの手には数冊の本が持たれていた。彼女は図書館に行こうとしていたのだろう。それでアイリが本を持っていたから、一緒に行こうと誘うつもりだったのか。
――ヒマだし、いいかな。
「ターネラ、やっぱり一緒行こうか。面白いもの見せてあげる」
そう言うアイリの言葉に小首を傾げるターネラ。面白いものとは一体?
――授業ないし。いるでしょ。
図書館へと二人がやって来ると、図書館員であるレナータの仕事を手伝うハイチがいた。それを見てアイリはにやにやとしている。さあ、どうからかってやろうかなと考えていると、ターネラが自身の服の裾を引っ張った。
「ハルマチさん、あそこの席……」
指差す先の席には山積みになった書籍が。その本を読破しようとしている者が一人いた。そこの席にいたのはワイアットである。何をしているのだろうか。ハイチも気になるが、あちらの方も気になったので話しかけようとするのだが――。
「うぅっ! なんたるいい話! これぞ、神作品!!」
ワイアットは涙と鼻水を垂れ流しながら本を読んでいた。
「一人で何、感動してんの?」
たじろぎながら話しかけてくる二人に、ワイアットは鼻を噛みながら「小説読んで感動している」と見たままの答えを返した。いや、それは見てわかるから。
「あっ、よく見たらこれ全部恋愛小説です」
ターネラが一冊本を手に取り、それを見た。タイトルは『悲恋』。いや、全部が恋愛小説だと思っていたら違う。これら全部『失恋小説』である。なぜ、こんなにたくさんの失恋小説を読んでいるのか。
「えっ? 一体どうしたの」
失恋という言葉はタヴーではないのか、と言わんばかりのワイアットなのに。まさかとは言うが――。
「いや、失恋しましたけど?」
「えぇ!?」
大きな声で声を上げる二人に図書館利用者たちが一斉に注目してきた。それはもちろんハイチもレナータも。彼に至っては何をしているんだ、という目付きでこちらを見ていた。いや、先ほどからワイアットも大仰に感動していたから最初からと言えるのだが。
声を出し過ぎた、とアイリたちは口を塞ぐ。ワイアットはというと、呆れた様子でこちらを見ていた。自分も大きな声を出して泣いていたくせに。腹立つな。
「そんなに驚くことですか?」
「ご、ごめん、あまりにも唐突で。何? あまりのしつこさにうんざりでもされたの?」
ワイアットのハイネに対する愛の気持ちは校内随一であることを誰もが知っているはずだ。
「そうじゃないです。本当にあなたは失礼な……」
じわりと目に涙が溜まり始めるワイアットは机に伏せると、大泣きをし始めた。再び周りからの注目が集まる。
「うわぁあああああ!? どうして僕を選ばなかったんだぁあああああ!!」
「ふ、フォスレターさん、いいことありますって!」
「そうだよ、坊っちゃん」
泣き止まそうと二人が慰めていた。すると、ハイチが煩わしそうに注意しにやって来る。
「何やってんだ、お前らは。ここがどこかわかってんだろ?」
「キンバーさん、すみません。えっと――」
ターネラはワイアットが失恋したことを言ってもいいものかと二人を交互に見ていると、アイリが「坊ちゃんが失恋したそうですよ」と言ってしまった。それに彼女は頭を抱える。だって、ハイチがどこか嬉しそうにしているんだもの。にんまり、にこにこ。こんな笑顔を見たのは初めてだ。
「ほぉ。そうか、そうかぁ。ついにハイネに嫌われたかぁ」
「うう……」
「キンバーさん、そうじゃないですよ! ハイネさんは優しいですし。フォスレターさんを嫌ったりなんかは……」
反論をするターネラに対し、ハイチはあごに手を当てて「どうだかなぁ」と鼻で一笑した。
「こいつ、毎日のようにハイネに花束を贈っていたからな。そぉんな毎日送られても置き場所ねぇって」
「……一応、部屋に行ったことがあるんですけど、ハイネ先輩部屋に花を飾っていましたよ。飾りきれないのは教室とかそこにも飾ってありますよね。坊ちゃん、気付いてる?」
アイリにそう言われ、ワイアットは花が飾られている個所を見た。よくよく見れば、自分が渡した花である。だって、見覚えがあるから。
「本当に嫌だったら、捨てるって」
「ほ、本当ですか?」
「そうじゃない? ターネラ」
ターネラに同意を求める。それに彼女は大きく頷いた。
「そうですね」
ワイアットを元気付ける彼女たち。それを面白くないとでも思っているのか、ハイチは不機嫌そうにした様子でレナータの方へと戻った。
「すいません。ちょっと用事ができたんで……」
「ええ。いつもありがとうございます」
ハイチは小さな会釈をすると、図書館を出ていった。
もうハイネにワイアットが付きまとわなくなったのは嬉しい限りであるが――なんだか釈然としない。アイリやターネラの発言は嘘ではないとわかった。
――デベッガか?
フられたと言っていた原因はそれかと思った。いや、それ以外何も考えられない。
【もうハイネと関わらないでくれ】
忠告したはずだ。まさかとは言うが、二人は――。
ハイチは頭を掻きながら階段を下りた。もし、あの二人の仲が元に戻ったとすれば、どうやって仲直りしたんだろうか。記憶がない状態、ハイネを傷付けた状態で、どうやって?
なんて考え事をしていると、下から数えて三段目から足を滑らせた。尻を強打する。あまりの痛さに一人悶絶していると――「前見ろよ」そう、セロが笑いながら手を差し伸べてきてくれた。
◆
まだ失恋小説を読破するワイアットを図書館に置いて、アイリとターネラはそこを出た。彼の相手をするのも疲れるなと思っていたところなのだ。
「あれ、いつから読んでいたんだろ?」
「わからないですね。ていうか、読むスピードが異様に速かった気がするんですが……」
「高速で読む? そんなの常人にはできないし」
ましてや活字自体好きではないアイリにとって、あれだけの本を時間かけてまでも読もうとは思わない。そもそも授業用のテキストもほとんど開かないのに。
「……あっ、結局返しそびれちゃった。すみません、もう一度、図書館に行くので失礼します!」
ワイアットで自分の用事を忘れるターネラ。彼女は慌てて頭を下げると、図書館の方へと戻ってしまった。
一人になったアイリは廊下の窓の外を見た。外は晴れている。
――あの人もいないし、のんびりと日向ぼっこでもするかなぁ。
アイリは中庭の方へと出た。僅かながら風が吹いているが、寒いほどではない。ここには彼女を除いて二人だけのようだった。ベンチはないというわけではなかったが――。
その二人には見覚えがあった。キリとハイネである。
ふと、アイリはあることを思いついた。それでにやりと不敵な笑みを浮かべながら、そっと彼らに近付く。びっくりさせてやろう。ただのいたずら心である。彼女はまさに悪童のように笑いながら、こっそりと歩み寄った。
やがて、二人が座っているベンチの後ろにある木の下へとやって来たとき、彼らの会話が聞こえた。
「じゃあ、そのデータ・スクラップ・エリアっていうところに行けばあるの?」
――データ?
話が気になるのか、聞き耳を立てた。
「はい。そこでいくつかのハイネさんの記憶を回収しています」
――データの回収? えっ、何? どういうこと?
ハイネの記憶の回収? どういうことだ、とアイリは記憶を手繰る。何かが引っかかる。ああ、そうだ。誰かの記憶を失くしたとキリは言っていた。その誰かとは『ハイネ』。
――バラしちゃうの?
「じゃあ、私も手伝えば、キリ君の記憶を取り戻せるね!」
ハイネはそう言うと、キリの手を取った。そんな彼は嬉しそうな表情を浮かべているではないか。
「そうですね。これで元通りです」
なんだか二人の雰囲気が以前のときと同じような気がした。それがアイリにとって、あまり好ましいとは思わない。不安そうな面持ちで彼らを見つめた。
――何だろ……。
彼らは微笑ましそうに会話をしている。それが羨ましく、妬ましいと思ってしまう。決してキリもハイネも嫌ってはいない。なのにだ。すごく胸が痛い。すごく悲しい。そう思っていた矢先に彼の声が耳に入った。
「記憶って大切なものですからね。まだ、ハイネさんの記憶がデータの世界にあるとわかっているから、取り戻したい気持ちが強いんです」
キリの発言が引っかかるような気がして。彼らの方を見るが――やはり、どことなく柔らかい雰囲気がアイリには見えていた。
こんな雰囲気の最中、自分が出る幕じゃない。そう感じたアイリは木の幹を背にして地面に座り込むと、持っていた本を抱きしめた。彼女に気付かない二人はその場を立ち去ってしまう。別に置いていかれたわけではない。それは自分自身も理解しているはずなのに、置いていかれた。見捨てられたような気がしていた。
なぜか涙があふれ出てきた。ワイアットの言っていた言葉が胸に突き刺さる。ハイチとレナータのやり取りが頭を過る。自分の言行の報いが今ここに還ってきたんだ、と。
――自分が最低だ。嫌いだ。
持っていたピンク色の本を地面に向かって、投げつけようとするが――止めた。怒りで手が震える。
「なんで、あたしばっかり……!」
アイリは自身の膝に顔を埋める。
◆
キリとハイネが廊下を歩いていると、ターネラと会った。彼女は手に数冊の本があった。
「あ、こんにちは」
「こんにちは、ターネラちゃん」
「なあ、スタンリー。ハルマチを見かけなかったか?」
キリのその質問にターネラは「あれ?」と首を傾けた。
「ハルマチさんは確か……あっ、そっか。教室の方に向かわれたんじゃないですかね?」
アイリと別れた場所は図書館前廊下。自分たちが向かって言っていた先は教室のあるフロアである。それ以外の場所であれば、ターネラは知らないのだが――。
「教室ね。ありがとう」
二人はお礼を言うと、教室のフロアの方へと行ってしまった。小さく手を振って見送るターネラは窓の外を見る。
――天気いいし、外で読もうかな?
そう考えて中庭の方へと出ると、ベンチ近くの木の下でアイリが泣いているのに気付いた。ターネラは急いで駆け寄る。
「は、ハルマチさん? 大丈夫ですか?」
「た、ターネラぁ……」
こぼれる涙を拭い、垂れてくる鼻水を拭いつつ「何でもないよ」と言う。このようなところで一人泣いているのに、何でもないわけがない。
「ごめん。何でもない。ないから……」
鼻を啜り、袖口で涙を拭ってアイリは本を持って立ち上がった。ターネラは不安そうな表情で見上げる。
「ありがと、心配してくれて」
アイリはその場を走り去って行ってしまう。一人取り残されるターネラは愁眉の色を隠せずにいた。
◆
「嘘だろう?」
二人しかいない最上階の空き教室。ヴィンはケイの言葉に耳を疑うばかりである。なぜそのようなことが?
「じゃあ、あの写真は――」
以前、写真の整理をしていたときを思い出す。
【捨てようと思っていたところなんだよね】
自分が持っていたキリの写真は一枚を残してすべて捨ててしまった。その一枚はアイリにあげている。
「ザイツ、お前の記憶に動物園での任務はあるか?」
「う、うん。もしかして、あのときって、デベッガ君がいたのかい?」
「いたのかいって……車の中でデベッガと絡んでいたじゃないか。動物が好きって」
「それ、私のこと? それともデベッガ君のこと?」
別にヴィンは動物が嫌いではない。どちらかと言うならば、好きに値する。
ヴィンのその言い方にケイは確信をした。やはり、キリが彼の記憶の中の自分の存在を改ざんしている、と。それも『過去の歯車』という代物で。
「デベッガのことだよ。お前が言ったことは記憶にないか?」
「……思い出せない」
そう言って、ヴィンが取り出したのは一枚の絵。自分に似た人物が描かれており、裏側を見ると――。
『キリ・デベッガに記憶を変えられる』
「ねえ、団長。私はどうしたらいいんだろうか?」
その質問にどうもこうもない。ケイが今感じているのはキリに対する恐怖心だけ。このような事実を知って、これからどう向き合えばいいのか。どう接すればいいものか。頭を抱えた。
「すまん。俺にもわからない」
ふと、この教室から見える向かい校舎の廊下にキリとハイネが一緒に歩いている姿が見えた。二人とも楽しそうに会話をしているではないか。――もしも、ハイネがこの事実を知ればどう受け止めるだろうか。
「二人ってあんなに仲がよかったっけ?」
ヴィンも気付いたのか、窓の外を見た。
【あいつは多分、やつのことが好きだ】
彼らの関係は確か、ハイチが嫉妬するほど仲がよかったはず。それはヴィンが知っていてもおかしくはない話だと思っていたが、やはり記憶の改ざんが原因なのか。
「……とにかく俺はお前に事実を伝えた。だから、そのコピーしたやつをなんとしてでも探し出しておけ。どこに置いたのかわからないならば、その絵を描いた人にも訊けばいいし」
「ああ、それだね! キャリー姉さんに訊けばわかるかも! 今度の休暇に訊きに行ってみようっと」
「頼んだぞ」
そうケイがヴィンに言ったときだった。廊下の方から何やら騒がしい足音が聞こえてきたかと思えば、彼らのいる教室にアイリが駆け込んで来る。彼女は涙目だった。
「ハルマチ?」
「ごめん。いい」
誰かいるくらいならば、とアイリは首を横に振ると、また走ってその場を後にしてしまった。なぜに彼女は泣いていたのだろうか。不思議そうにケイが入り口の方を見ていると、ヴィンが「知り合い?」と訊ねてくる。
「前から思っていたけど。あっ、サバイバル・シミュレーションで一緒のチームなら知り合いか」
「……お前、彼女の名前知らないわけないだろ?」
「アイリ・ハルマチさんでしょ? この前初めて会ったし、デベッガ君のことも気になっていたみたいだから、写真を一枚あげたんだけどね」
「この前っていつだ? 動物園か?」
「いやいや、一緒じゃなかったでしょ」
ヴィンのその発言にケイは瞠目するばかりである。
「お、おい、動物園での任務……誰と行ったか言ってみろ」
「えっ? えっと、私に姫様。団長にボールドウィンさんと首席、でしょ? 首席に運転してもらって……」
その答えに眉をしかめた。三人足りないからである。
「……あと、デベッガとハルマチ、クランツ教官も行っているぞ」
「ははっ、いやいや。教官が任務に来るはずないだろう?え? いたの?」
冗談は止めて欲しいと言わんばかりに、表情を引きつらせた。自分とケイの記憶が噛み合わない。
アイリと初めて会ったのは動物園での任務より後の日。だから日にちはかなり経っている。あれよりも前に会っているとするならば、記憶の時空列はおかしい。
「教官はハルマチの特別補習の引率だ。あれ、ライオン脱走の件は知っているか?」
「いやぁ? あれ、鎖つないで、檻からは出していたよね? えっ、脱走!? えっ、ちょっと待ってよ。何か記憶がおかしいよ?」
困惑するのも無理はない。ケイ自身も記憶が噛み合わなくて混乱しているのだから。
「待って? デベッガ君の記憶がないだけなのに、ここまで記憶が変わることなの!?」
「じゃないのか? デベッガと関わった記憶が書き変えられている、だから――」
――だとしても、どうして彼女の記憶が?
ヴィンは冷や汗を垂らしながらその絵を見つめるのだった。
◆
人気のない渡り廊下をガズトロキルスが歩いていた。その後ろ姿を見つけたのはマティルダであり、彼の方へと駆け寄る。
「ガズ様ぁ!」
呼びかけられて、マティルダの方を振り返った。彼女はにこにこと笑顔でいる。いつもの笑顔だ。
「今日のお昼、作ってきましたので――」
手にはバスケット。そこから僅かに漂う美味しそうなにおい。だが、ガズトロキルスは首を横に振る。それを見てマティルダから笑顔が消えた。
「ああ、もう食べられたのですか?」
「違う。なあ、俺たち……距離を置かないか?」
「え?」
ガズトロキルスと手に持っているバスケットを交互に見た。その言葉にマティルダの胸の奥がきゅっと絞まる感覚があった。
「どうして、ですの?」
「『ボールドウィン』は貴族で俺は一般市民だ」
いつもは『マティ』と呼んでくれたのに。
「関係ありませんわ。そんな、身分だなんて……」
頭の隅には父親の言葉。しかし、ワイアットだって自分と同じ状況であるし、それは関係ないと思っていた。もう一緒にいられないと言われると、すごく悲しい。それでも、とガズトロキルスは否定するように首を横に振ると、その場を立ち去ろうとする。彼女は呼び止めた。
立ち止まったガズトロキルスは――。
「俺はきみを幸せにする資格なんてないから」
◆
セロにジュースを奢ってもらったハイチはサロンのソファに座り込み、お礼を言った。
「悪いな、これ」
「いいよ。ちょうど、ハイチと話したかったことがあるし」
ジュース片手に何かを察知したのか、立ち上がった。どこかへ行こうとするも、セロに呼び止められる。
「待てよ。逃げんな」
「……面倒事は嫌だからな」
本当に逃げようとするハイチをセロは捕まえて、ソファに座らせた。彼が逃げないように、自分はハイチの前に立つ。
「そう。だが、その面倒事は何度でもやらせてやるよ」
「ンだよ。結局サバイバル・シミュレーションは中止になって、お前らとの勝負は無効になったじゃねぇか」
「だからだよ」
セロはじっとハイチを見る。それに彼は目を逸らした。目を合わせたくないらしい。
「今更、なかったことになんてさせない。もう、賭け事なんてせずに堂々とはっきり言ってやる」
「嫌だね」
セロを一蹴するように鼻で笑った。是が非でもと言わんばかりに、ハイチは拒否反応を見せる。
「何度も言っているだろ。嫌だ、って」
「理由は?」
「そんなもの嫌だから嫌。それ以外に何の理由がある?」
話は終わりだ、とソファを立ち上がってセロを睨みつけた。鋭い眼光が彼を捉える。
「俺、お前のそういうところが嫌だよ。家族でも何でもない、ただの他人からどうこう言われる筋合いもないし」
そう吐き捨てると、ハイチはサロンを出ようとした。
「じゃあ、ハイチはハイネの気持ちを知っているのかよ!」
その言葉にハイチは立ち止まった。大声を出すセロに周りが二人を見てくる。もちろん、近くを通っていたマックスまでもがやって来た。
「おい、お前たち、何を――」
けんかなのか、と近付いてきたマックスにも気に留めずして、セロは話を続けた。
「ああ、俺はお前たちの家族じゃねぇさ。ただ、家が近所っていうだけのご近所さんだ」
「…………」
「ガキの頃から一緒に遊んでいただけのヒマ潰し役かもしれない」
「じゃあ、そのヒマ潰し役が出張ってくんなよ」
ハイチはもうここから立ち去りたいような面持ちでセロを見ていた。
「逆に訊くけど、嫌だっていう理由以外にもあるだろ。三年も音沙汰なしで、ここに入ったのは」
「……嫌なだけだよ。ハイネもセロも俺自身も」
セロはハイチに殴ろうとするが、マックスに止められた。だが、それを振り払ってまでも殴る。痛々しい音がその場に響く。周りは騒然としていた。
「気が済んだか?」
殴られてもなお、平然とした様子でセロを見ていた。ハイチのその物言いが更に逆上させてしまい、胸倉を掴まれる。
「何が嫌だ、だよ。ハイネの幸せ願っているってなら、あいつの願いぐらい聞いてやれよ。叶えてやれよ! 家に帰ってやれよ!!」
怒りの目と何かに怯える目はぶつかり合っていたが、マックスがそれを引き離した。
「何をしているんだ、お前たちは! けんかは禁止だぞ!」
引き離されると、ハイチはポケットに入れてぐしゃぐしゃになった封筒と三銃士軍団の証をマックスに押しつけた。封筒に書かれていたのは『脱退願』である。これに二人は驚愕する。
「き、キンバー、これは……」
「見てわかりませんかね? 脱退願ですよ。俺、辞めます」
「辞めるって、お前っ!」
そのようなことをさせまいとセロが引き止めようとした。だが、ハイチが「あぁ?」と煩わしそうな声音で言葉を続ける。
「俺は子どもじゃねぇよ。俺自身がどうなろうと、お前には知ったこっちゃない話なだけだ」
それだけ言い捨てると、サロンを去ってしまった。周りはまだざわついていている。この場に立ち尽くすセロを見かねてマックスは声をかけた。それに彼は悔しそうな顔をするだけだった。
「……教官、家に帰りたがらない人の心理って何ですか」
出せそうにない答えを求められ、戸惑う。いや、それはセロもわかりきっていた話であり、答えを聞く前にして走り去った。その場に立ち尽くすマックスはただ、ハイチから受け取った脱退願と三銃士軍団の証を見つめるだけだった。
◆
エントランスから出て、寮棟の方へと向かうハイチに待機していた取材記者たちに取り囲まれた。サバイバル・シミュレーションの事件について訊きたいらしい。だが、今の彼は相当気が立っており、取材に応じるのが煩わしいという気持ちをにじみ出して睨みつける。その冷たい双眸に気が引けたのか、彼らは話しかけてしまった後悔の念を出しつつも「何でもないです」と逃げた。
ポケットに両手を突っ込んで、眉根を寄せながらハイチは寮の方へと向かう。そうしていると、どこからか声が聞こえてきた。誰かが泣いているような気がしたが、気に留めることはない。なぜならば、自分は関係ないのだから。
寮の中に入ってポケットに入っているはずであろう部屋の鍵を探りながら歩いていると、メアリーと遭遇した。彼女は私服姿である。
「あっ、お兄さん」
「ライアンか。家に帰っていたんだっけか?」
「そんなところです。私の父がすごく心配していたらしくて」
柔らかく笑うメアリーにハイチは小さく笑った。ようやく安心したというような顔付きである。
「じゃあ、向こう通るときは気をつけろよ。マスコミが待ち伏せしているからな」
「でしょうね。これからレナータに裏口まで送ってもらうんです」
今、メアリーは一人でいる。ということはレナータという人物を待っている状態である。ハイチは「そっか」とだけ言うと、自室へ行こうとするが――彼女が呼び止めた。
「あの、お兄さんって、今度の休暇で家に帰ったりするんですか?」
「いや? 帰らないけど?」
「えっ、そうなんですか?」
どこか遊びに行く予定でもあるのか、と少々ながら不安になる。彼女に対して、ハイチは言葉を返した。
「何か不都合か?」
その返しが少しだけ怖い、とメアリーは思った。
「そ、そうではないんですけど。もし、よろしければ、休暇中に王城でパーティーがあるんですよ。お兄さん三銃士軍団員ですので、どうかなって……」
誘ってくれるのは嬉しい。だが、もう脱退願と共に三銃士軍団の証を渡してしまった。故に自分は三銃士軍団員ではないのだ。ハイチは首を横に振った。
「いや、いい。それなら、俺じゃなくてデベッガ誘えよ。ていうか、強引でもいいから誘って行けよ」
「えへへっ、強引ですか」
「そういうことだ。強引じゃないと、ダメだからな」
それだけ言い残すと、ハイチは行ってしまった。彼の言葉にメアリーは連絡通信端末機を取り出して、キリの連絡先を提示する。
ぼんやりと画面を眺めていると、ハイチとは別の方向からレナータが慌てたようにしてやって来た。
「も、申し訳ありません、メアリー様! 報道陣の方に捕まりかけて……」
「あっ、ううん。大丈夫よ。じゃあ、行こう」
「はい。ではこちらへ」
◆
アイリはどこだろうか、とキリは報道人たちに見つからないようにして外に出た。結局、教室も校舎中も見回ったが、彼女はどこにもいなかったのだ。ハイネが別件により、彼一人で探さざるを得ないのである。
思っていた以上に学校の敷地内は広い。探し回るのは大変だと思っていたときだった。校舎のエントランスと寮棟の道の雑木林の方で小さな声が聞こえた。よくよく聞けば、誰か泣いているようにも聞こえる。
一瞬だけアイリが泣いているのかと思っていたが、彼女自身が泣くことはないだろう。そう思っていた。
――結構、破天荒な感じだからなぁ。
それにアイリは泣くよりも、笑っている方が似合っていると感じている。いや、それは誰だってそうだと思う。自分もそうだが、周りで悲しむ人をあまり見たくはないからだ。
「……でも、誰だろう?」
何かしらあったのか。その小さな泣き声がする方へと歩いて行くと――。
「ハルマチ?」
木の下に座り込んで、アイリは泣いていた。手にはあのピンク色の本が握られている。そんな彼女の姿を見てキリは駆け寄った。
「お、おい、ハルマチ? どこか痛いのか?」
心配そうに声をかけるも、アイリは否定するかのようにして首を横に振った。
「何でもない」
今は誰とも話したくないとでも言うようにして、アイリは逃げるようにその場を立ち去ってしまう。その場に残されたキリの周りでは木々のざわめきが耳に残っていた。
――傍観者は彼らを嘲笑うかのように、ようやく動き始める。
紛れもない、それは――。
○次回章予告○
『第二章 回天動地』
サバイバル・シミュレーションが終わったキリたち。そんな彼らに長期休暇が訪れてくるのだが、そんなものなんて一切なくなる状況へと陥るのだった。前座余興はもう終わり。すべてが本格的に動き出す、この物語。動いた歯車は、もう止められない。




