クリスマスプレゼントは『言葉』 vorbesc.進藤・鎹
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
私は慌てて小春にストップをかける。対して小春は、未だ座り込んだままの私を見下ろしにやにやと笑う。そうして非常にも「待ったなし」とのたまった。
「負けた方は……そだな、好きな奴に告白する、って事で」
「それどっちにしろ告白しなきゃいけない流れじゃん!!」
あはははは、と笑う小春。
「いーじゃん。やっぱさ、こいうのは勢いが大事なんだって」
「私をそんな小春君の勝手な勢いに巻き込まないでくれるっ?!」
「でも、進藤さんだって告白しなきゃとは思ってるんだろ?」
「……う」
言葉を詰まらせた私の頭を、また小春がぐしゃぐしゃと掻き回す。
「頭で考えるなっ!!勢い勢い!!」
「わっ、ちょ……もうっ!」
そんな事をして楽しそうにする小春の相手をしていたら店の扉が開く音がした。瀬川と小日向が帰って来たのだろかとそちらに視線をやれば、そこにいたのはその二人ではなく時の人、鎹双弥だった。
「か、鎹君っ」
なんでよりによってこのタイミングで。
私は慌てて立ちあがり鎹に走り寄る。
「どうしたのっ?もうお店閉めちゃうけど」
「あ、あぁ……。進藤にちょっと話があって来たんだけど」
鎹の視線が小春に向く。
「誰?」
「あ、えっと、小春君。小春日和君だよ。瀬川さんと小日向君の幼馴染なの」
「瀬川と小日向の?」と鎹に私が説明をしていると、小春が近付いてきて「ちは!」と私にした時と同様そう鎹に挨拶した。
「小春日和です!よろしく」
「……鎹、双弥です」
そうして二人は握手。すると、鎹との握手の手を放すことなく小春が、にこにことやはり無邪気に笑いながら「もしかしてこの彼がさっき言ってた相手?」と何の悪びれも無くそう口にした。
「ちょっ……!!」
ぎょっとして私は小春の体を突き飛ばし鎹から離す。
「小春君っ!!」
小声で私は小春を怒鳴る。小春はあはははと笑う。
「大丈夫だよ。彼、進藤さんの事好きっぽいし」
「だから、そういう問題じゃないんだってばっ!」
「今告白する?」
「出来る訳ないでしょっ!?」
あまりにも無神経すぎる小春に苛々しているとまた店の扉が開いた。そこにはタクシーを拾いに行っていた瀬川と小日向の姿。
「あれ?鎹君じゃない。どうしたの?」
「あー、まぁ……ちょっと」
そうして、あっちはあっちで談笑してる中「なぁなぁ進藤さん」と小春が私の服の袖を引っ張る。私は目を鋭くして小春を見る。
「何?言っとくけど告白はしないからね」
「分かってるよ。だけどさ、やっぱり俺達、待ってるだけじゃ駄目なんじゃないかって思うんだよ」
「…………」
小春の視線は向こう側に注がれている。その視線が誰を見ているのか。私も向こう側に視線を向ける。そこには鎹の見慣れた横顔。
「待ってるだけじゃ駄目だと、そう思わないか?」
「…………」
「もうすぐクリスマスだしさ。今年が終わる前に……」
「なぁ!!」と小春が大きな声で皆に呼びかける。皆が小春に視線を向ける中、小春はやはりその顔に子供っぽい笑みを湛えながらこう言った。
「皆でクリスマスパーティーしようぜっ!」と。
―――――――――――――――――――
クリスマスパーティー当日。
「はぁ……」
「ちょっと、ため息吐くぐらいなら奪い返して来なさいよ」
「空ちゃんっ」
ため息を吐く俺に隣を歩く瀬川のキツイお言葉。そしてそれを宥める小日向。
俺達は今、クリスマスパーティーの催しの一貫でもある『プレゼント交換』に使用するためのプレゼントを皆で買いに出かけている。つい先ほどまでは進藤の働くお店で皆で飲み食いしてクリスマスを楽しんでいたのだが、とある男が「よし、プレゼント交換しよう!」と言い出したのがきっかけで今は皆して夜遅くまで開いているだろうお店に向け進行中だ。
「だ、大丈夫ですよ鎹君。小春は別に進藤さんの事好きなわけじゃないと思いますから」
「そうね。きっとただただ意気投合しただけなんじゃないかしら」
前を歩く進藤と、そしてその隣を仲良さげに歩いている瀬川と小日向の幼馴染の小春日和と言う男。二人が会ったのはあの「皆でクリスマスパーティーしようぜ!」の日なのだそうだが、それにしちゃ仲良すぎないか、と思う。進藤が何だか楽しそうだ。
「……俺、あの日は本当は進藤にクリスマスの日に一緒にいようって誘うつもりだったんだけど」
去年の雪辱戦。
去年が駄目駄目だった分、今年はと思ってあの日進藤の店に行った。別に一日ずっと一緒にいるとか、そんな大きなことまでは期待していなかった。だけど、クリスマスに少しだけでもいい。進藤と過ごしたかったのだ。もちろん二人で。
「今年のクリスマスも、こんなで終わるのか……」
「一人悲愴感ださないでくれる?私達だって被害者なんだから」
「空ちゃん、被害者だなんて……。皆でわいわいクリスマスも僕は楽しくて好きだよ?」
「あっっそ!!」
「…………」
瀬川が苛々している。その分、俺の苛々は急速に低下していっていた。多分、全て瀬川に吸い取られているのだろうと思う。前を歩く進藤と小春、二人を見る。内緒の話をするかのようにこそこそと仲良く話す二人の姿がそれほど遠くは無いのに物凄く距離を感じた。
「…………」
なんだか凄く、胸の辺りが苦しくて仕方が無かった。
雑貨や食品、電化製品など多種多様な物が置いてあるそこそこ大きな店に俺達は足を踏み入れた。一回は雑貨や生活用品、二回は食品、そして三回は電化製品が置いてあるその店でおのおのプレゼント探しと相成った。皆それぞれバラバラになってプレゼントを探す中、俺もきょろきょろと店内をうろつく。
一階二階三階と見て回り、今は一階に行き着いている。プレゼント交換で誰に何が当たるか分からないのなら、無難な物にしておいたほうがいいだろう。そう思い俺は食器やコップを手に取って見ていた。だけど、どれもいまいちピンと来ない。
コートのポケットに手を入れる。そこには小さな箱が二つ。去年の分と、そして今年の分。
また渡せずに終わるのだろうか。
「…………」
「か、鎹君」
その声に驚き、ポケットから慌てて手を出し振り返る。店の暖房が効く中でも寒いのか、進藤がマフラーに顔の半分ほど隠しながらうつむきがちにそこにいた。
「どうした、進藤」
「あの、あー……」
「…………?」
進藤が何か言いたげにしているが、進藤の口から出る声は全く言葉になっていない。俺は首を傾げる。すると、少ししてから「もう決まった?」と進藤。
「いや、まだ。進藤はもう決まったのか?」
「あ、うん。私は決まったんだけど……」
そうして進藤はクリスマスらしい小さな置物に徐に手を伸ばす。ミニチュアの家の傍に白い袋を担ぐサンタクロースとトナカイが笑顔でそこにいる。小さな置物には雪が降っている。
「あのさ、えっと、あの」
「……うん?」
さっきから進藤が何か言いたげなのは分かるのだが、それが全く伝わって来ない。訝しげに見つめてくる俺に、進藤はようやっと言葉を口にした。
「な、何が嬉しいか、なぁ?」
「は?」
意味がわからず聞き返す。
「だ、だからっ、プレゼント……」
「……決まったって言ってなかったか?」
俺の聞き間違いだろうか。
「いや、うん。皆で……ね、プレゼント交換するプレゼントは決まったんだけど……、さ。その……別の……、の……」
「…………」
何やら歯切れが悪い進藤。だが、何となく読み取る事が出来た。進藤が言いたいのは、プレゼント交換用のプレゼントではなく、誰か別の相手に送る個人的なプレゼント、という意味なのだろう。
「誰への?」とは聞けなかった。聞いたらみじめな事になりそうで嫌だった。というか、多分相手はアイツしかいない。だって去年もそうだったのだから。
だから俺は「進藤からのプレゼントなら何でも嬉しいんじゃないか」と言っておいた。
「何でもっていうのが一番困るんだけど」
「じゃあ、また果物詰め合わせとかでいいんじゃないか?」
「……鎹君は、それ貰って嬉しいの?」
「そこまでは」
「じゃあ、駄目じゃん」
別に俺の意見が正解って訳でもないだろうに。俺はため息を吐く。
「別にさ、俺の意見が名々賀の意見と必ずしもがっちするって事じゃないだろ」
というか、いい加減俺と名々賀が仲良し説、払拭しておきたい。そう思い言ったのだが、進藤はきょとんとした顔で「なんで名々賀さんの名前が出て来るの?」と言った。
「……?名々賀へのプレゼントじゃないのか?」
「何で私が名々賀さんへのクリスマスプレゼントなんて買わなくちゃいけないのさ」
眉間に皺の進藤。
なら、進藤は誰へのクリスマスプレゼントを買おうとしているのか。
「……もしかして小春へのプレゼントか?」
「なっ……、はぁ……、もういいよ」
脱力し諦めた進藤。そんな進藤の横からひょっこりと小春が顔を出し無邪気に笑いながら口を開く。
「誰へのプレゼントかぁ、本当に分からないのか?」
「ちょっ……!小春君!!」
何か言おうとした小春を制すようにした進藤だが、小春はにやにやとしたまま俺を見る。進藤がわたわたととにかく小春を追い払おうとしているのを見て俺の中で一つの考えが生まれた。のだが、果たしてそんな事がありえるのだろうか。
「進藤……」
小春を追い払う事に成功した進藤の名前を呼ぶと進藤が振り向く。疲れた様子の進藤をじっと見つめていたら、進藤はその視線の意味に気付いたのか視線をそらして顔を隠すようにマフラーを口元まで上げた。そんな進藤が可愛くて、俺は声を出さずに笑ってしまう。
「……なんで笑うのさ」
「ん?んー、なんでだろうな」
そう言うと進藤は悔しそうに顔を歪めながらもやはり照れ恥ずかしいのか、顔はほんのり赤かった。
「なぁなぁ進藤」
「……何」
「プレゼントさぁ、やっぱ進藤が選んだものなら何でも嬉しいと思うぞ?」
「……あ、そ」
「まぁ、一番欲しいのは『Cuvinte』だろうけどさ」
「か……?く、び?何、それ」
訳のわからなそうな進藤に微笑み、俺はポケットに入っていた小さな二つの箱を取り出し進藤に手渡した。去年の分と今年の分。進藤が驚いたように目を見開く。
「メリークリスマス、進藤」
俺は満足げに一人店の中うろついていた。今進藤はいない。何故なら進藤は今、俺へのクリスマスプレゼントを一人選びに行っているから。
何を買ってくるのか。そんな事どうだって良かった。進藤のあの俺への気持ちが一番のクリスマスプレゼントだったから。
「……なんてなっ!!」
でれでれと一人進藤の俺への想いに浸っていたら「可愛い子ね」と声をかけられる。振り返るとそこには女性が一人。
「あの子、可愛いわね」
赤い艶やかな唇が動く。
「え、と……、あの」
あの子、とは進藤のことだろうか。分からずに俺が視線だけその人に向けていると、その人は俺を見て静かに微笑む。一瞬、瞬きしたその人の瞳が赤く光ったような気がした。
「手を、離しちゃ駄目よ?」
「え、あ……はい」
くすりと笑い、その人は一人立ち去っていった。




