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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
詰合編 Diverse Am încercat
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「そうだ、かき氷にしよう」 vorbesc.夏イベ企画


第二夜「そうだ、かき氷にしよう」

vorbesc.ナオト(三人称?)


『夏と言えば?リコがまたよく分からない事を言ってくる。またいつもの嘘だろう。だが、今日のリコは一味違うらしい。かき氷を食べよう』




「夏ねっ!!」

「……そうだな」


病院の白いベッドの上。

蝉の鳴き声がけたたましく鳴り響く中、ベッドに腰かける嘘つきなリコが珍しくまともな発言をする。ぐっ、とガッツポーズを決めて『嘘』じゃない言葉を使うリコに多少驚くナオト。すぐに口を開く事が出来ず、コンマ数秒ほどリコに対する返事が遅れてしまった事に対し、リコは口を尖らせ眉間に皺を寄せ始める。

が、そんなリコの表情はすぐにいつもの偉そうな態度と不敵な表情に戻り、そしていつものように「夏と言えば?」と微妙にどうでもいい事をナオトに問いかけるのだった。


「ナオト君、夏と言えば何だと思う?」

「…………」


夏と言えばと言われても。

今年の夏は既に幾日も二人で過ごしてきているナオトとリコ。そんな今更になって、リコは一体ナオトから夏について何を聞きたいと言うのか。ナオトは考えるがすぐに諦めてしまう。そして、一人窓の向こうの青い景色へと視線を向け、夏の眩しさに目を細める。ここ最近、リコに関してはかなり諦めぐせが付いて来てしまっているナオトである。


「分からないの?ナオト君」

「暑さ、か」


夏は暑い。

照り付ける太陽が室内にも暑さを連れてくる。冷房がかかっているにも関わらず、暑さは視界からでもやってくるようだ。

そんな夏の季節の当たり前の様な事を言ってのければリコはぱぁっ、と顔を輝かせ、ビシッ!とナオトを指差す。


「そうなのよナオト君っ。大正解!!君は天才だっ!!」

「…………」


台詞の様なそのリコの言葉。また何かからの引用だろうか。そんな事を思いつつ、ナオトは自分を指差すリコを黙って見返す。リコは目が見えない。それなのに的確にナオトのいる位置を指差す。熟練された技だ。それともナオトの定位置を記憶しているのか。


「夏は暑い!だからこそ、涼しさが重要な鍵になってくるのよ」

「そうか」


リコの発言の意味を理解していないナオトだったが、それでもリコに「そうか」とだけ返しておいた。何も返事をせず黙り込めばリコが怒り出す事を知っているからだ。だが、適当な返事をしても怒られる時は怒られるのでこの見極めが重要な分かれ目となってくる。

今回はこれで正解だった様で、リコはその顔に笑顔を絶やさない。


「だからね、ナオト君。明日はかき氷機を持ってきてね」

「かき氷機?」


久しぶりにリコがまともな発言をしたと思ったらこれだ。何だってかき氷『機』なのだろうか。ナオトはリコを訝しむ。食べたいのだろうか。


「リコ、かき氷が食べたいのなら買ってくればいいだろう」


かき氷機を持ってこさせ、一から作って食べようとする所がまぁリコらしいと言えばリコらしいのだが、そもそも病院内でかき氷機などをゴリゴリしいては騒音で怒られるのではないだろうか。もしかしたら既に病院から許可は取ってあるのかもしれないが。


「ナオト君ってば本当に分からず屋さんね。頭を柔らかくしてよーっく考えてみて」


ふふん、と偉そうに立ち上がり手を腰に当て仁王立ちするリコ。よく考えた所で多分自分の考えは変わらないだろうな、とこの時のナオトは少なからずも思っていた。


「ナオト君。この病院ね、氷で出来てるじゃない?」

「山崎は何処だ」


ナオトはすぐに病院関係者である看護師山崎の名前を呼ぶ。この病院が氷で出来ている訳がない。

珍しくまともな発言をするリコだなと思ったが、やはりリコはリコだった。嘘つきリコ。その口から出る言葉の半分以上が嘘八百な女。


「ナオト君……、もしかして知らなかったの?」

「知ってるも何も嘘だろう」

「……ナオト君」


驚愕の表情で口に手を当てナオトを見るリコ。演技達者である。


「ナオト君。嘘じゃないわ。証拠だってあるのよ」

「証拠?」


今までにリコが『嘘』に対して『証拠』などと言ってきた事があっただろうか。いつもなら「嘘じゃないわ」の一言で貫き通す所、今回リコは『証拠』を呈示すると言う。


「この病院、どうして涼しいと思う?」

「冷房が効いているからだろう」

「甘いわね」


ちっちっちっ、と人差し指を左右に振る。そんな姿も何処か演技臭いリコ。


「冷房はね、カムフラージュなの。本当はね、この病院が氷で出来ているからこんなにもここは涼しいのよ?」

「……まさかそれが証拠だとか言わないよな」


眉間に皺でナオトがリコを見返す。だが、リコはきょとんとした表情で「そうよ」と一言。


「明確な証拠がすぐ目の前に。さぁ、ナオト君。信じられないと言うのならそこの壁をぶち破って見なさいよ」

「出来るわけないだろ」


当たり前だ。

壁を破壊しようものなら、器物破損で訴えられる。訴えられはしなくても、修理代なり何なりの請求はされる。ナオトはそこまでの高額な資金を持ってはいないのだ。


「出来ないのに信じないだなんて……。ナオト君ってばいつからそんな駄目男になったの?」

「……この病院が氷で出来ているなら何故溶けだしてこない」


駄目男発言に気を悪くしたのか、ナオトが反撃するかのようにリコに問い詰める。最早意地と意地とのぶつかり合いのようだ。

だが、リコは当たり前のようにこう口にする。


「簡単な事よ。コンクリートで固められてしまっているからよ。可哀想な氷」

「…………」


コンクリートで固められている氷が果たして冷涼をもたらすだろうか。だが、リコは引かないだろう。そしてこうなったら、ナオトも引くわけにはいかない。リコの嘘を簡単に「信じた」とは言わない。


「分かった」


ナオトが歩き出し壁に向かう。そして、一枚の壁の前でピタリと足を止める。


「ナオト君?」

「壁を破壊する」


破壊して中に氷がない事を確認するらしい。破壊した後、どうなるかは今ナオトの中で問題ではないらしい。リコの嘘を看破できるかどうかが重要なのだ。


「……別に私は止めないけど、何で破壊するの?」

「拳」


拳で殴って破壊。

吸血鬼であるナオトにしてみれば、それはとても容易い事だ。むしろ破壊し過ぎないかどうかの力加減の方が難しい。もし入れすぎてしまえば、この病院が崩れる原因となりえるだろう。


「…………」


最近、こう言った力業の様な仕事はしていないナオト。力の入れ方を思い出しつつ、自身の力を制御しつつ、破壊し過ぎない様にナオトは拳に力を入れる。

そして、振りかぶり壁に穴を開けようとした所でガラリと病室のドアが開かれた。


「リコちゃん、ナオトさん、かき氷持ってき……って、きゃーっ!!何やってんですかナオトさんっ!!」


看護師の山崎だった。






―――――――――


「ナオトさん」

「すまない……」


ナオトは素直に謝る。壁に穴は空かなかった。寸でのところで看護師山崎が入ってきたお陰である。


「そんな話、嘘に決まってるじゃないですか。何で真に受けるんですか」

「真に受けたわけじゃないんだが……」


信じていた訳ではない。

ただただ意地になっただけなのだ。


「あははははははっ、しかもナオト君ってば拳で壁に穴を空けようとするなんて。空手有段者とかなの?」


けらけら笑い、山崎が持ってきたかき氷を食べるリコ。ナオトは頭が冷えたらしく、先程までの自分の行動を悔いていた。逆にリコは心底楽しそうである。


「リコちゃんもそんな悪質な嘘ついて」


山崎がリコをたしなめる。そんな山崎にリコは「嘘じゃないわ」と一言。


「ね、ナオト君。この病院の氷で作ったかき氷、美味しいでしょ?」

「……そうだな」


リコの手にはかき氷。

ナオトの手にもかき氷。

山崎が持ってきてくれた二つのかき氷は、今二人の手の中にある。

シャリシャリなかき氷。夏の風物詩だ。


「謎は全て解けた」


リコが笑う。

何が謎だったのかよく分からない。


「mission accomplished」


その後小さく溢したリコの英語のあまりの発音の良さにしばし驚くナオト。


「次は流しそうめんね!ナオト君」


にこっ、と微笑むリコ。


「…………」

「冷やし中華も始めなくちゃだわっ」


リコの奇行はまだまだ続くらしい。


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