プロローグ
ロアと会ったのは、ほんの一週間前だ。ロアは酸性雨が降る中、身を守るものを何も身に付けていなかった俺を自分の家に来るようにと促た。
…出会ったときにはもう感じていたさ。ロアは俺たちとは何かが違ってるってこと。
ロアは俺を家に連れてきてまず最初に「シャワーでも浴びてきなよ。」と言った。
俺は言われた通りにシャワーを浴びることにした。
シャワーを浴びながら考えた。何であの人は俺を助けてくれたんだろう。俺はもう二週間もの間、住むところを探して彷徨っていた。
その間何人もの人に会ったが誰一人俺に話し掛ける人はいなかった。
―どうせ死ぬからだ。酸性雨の降る中何も身を守るものを身に付けずにいるなんて、尋常じゃないからだ。…なのになんであの人は…。
いくら考えたところで俺が本当の理由を見つけることは出来ないんだろうな…。そう思ったから考えるのをやめた。
俺は水の使いすぎは悪いと思い早々にシャワーを止めてお風呂場から出た。
「着替えだけど…」
ロアは声もかけずに脱衣所…らしきところに入ってきた。そりゃお前の家だし俺は男だけどさぁ!?
とっさに体を拭いていたタオルで体を覆い、しゃがみこんだ俺をロアは驚いた目で見ていた。
「…悪かった。次からは声をかけるよ。」
ほほ笑みながら言われた言葉も、その顔も作り物のようだった。鳥肌がたった。「いや…俺こそ悪かったよ。…着替え、貸してくれるなら…貸してほしいな。」
鳥肌がたったまま言ったその言葉は自分でもはっきりとわかるほどに震えていて…そんな俺をロアがどう思ったのかはわからない。
ロアの服を着て台所…らしきところに行った。ロアは暖かいココアをいれてくれていた。
…この家は不思議だ。…というか変だ。どこもかしこも本だらけで、自分がいる場所が台所なのかさえわからないくらいに本にうめつくされている。
置いてある本がどういう本なのか題名を見ようとしたところへ、ロアが湯気をたてるココア持ってきて俺の前に置いた。
そして俺に椅子を差出し座るように言った。自分は積み重ねた本の上に座った。
「ありがと。」
さっきのこともあって、俺は正直早くロアの家を出ていきたいと思っていた。
ロアはまるで自分のことを警戒している猫にでも言うように言った。
「さっきも言ったけど…ずっとこの家に居てもいいんだよ。」
…わけわかんないよ。俺は赤の他人だぜ?今の時代…親が生き残るために自分の子供を殺すような、こんな時代に…誰だって自分が生き残ることで精一杯なこの時代に…一体何なんだよ。
「僕は一人暮しだから誰か一緒に住む人探してたんだ。」
それが本心なのかは疑わしかった。だいたいロアくらいの若い年で一人で暮らしていられるっていうのがすでに普通じゃないんだよ!
俺はロアが納得のいくような言葉をゆっくりと選びながら答えた。
「……俺は、行くべきとこがあるから…感謝はしてるよ。…でも、すぐにまた行かなくちゃいけない。」
ロアはしばらく黙ったままだった。俺はすぐにこの家を出て行ける。と安堵した。
でも、ロアがそんなに簡単に俺を帰すはずがなかったんだ。
「そっか…。でも…とりあえず、今日はここで休んでいくといいよ。寝るところもあるし。」
ロアの笑顔を見て、また鳥肌がたった。断り切ることが出来ずに、俺は嫌々ロアの家に泊まることになった。
それから一週間、俺はロアの家から出させてもらっていない。
ロアは俺たちとは何かが違うんだ。…俺はそんなロアが恐い。
一週間たった今でもロアとは打ち解けられずにいる。