出動準備
2032年6月16日2時33分、令和14年四国沖地震災統合任務部隊「JTF-黒潮」が編制された。その頃、高崎駐屯地では網干らが輸送計画を検討していた。
「決まったか、JTF。」
「出動は明朝6時だそうです。うちはもう少し後になりますが。」
「各線の状況は?」
新津がPCを見ながら情報を読み上げ、三島がそれをホワイトボードに貼られた路線図に書き込んでいく。
「東海道本線小田原以西運休。早川駅南方、湯河原駅構内で土砂崩れ、沼津から先は津波でまだ水が引かないようです。」
「中央本線酒折駅東方で土砂流入、飛んで多治見、高蔵寺駅間土砂流入及び路盤崩壊多数。定光寺駅構内では脱線事故も発生したとのこと。」
「中央線使えないのか、困ったな。」
「酒折のは復旧できるでしょうが多治見以南が困りますね。」
他にも身延線や飯田線で土砂崩れや地滑り、紀勢本線、牟岐線、日豊本線、日南線といった西日本の海沿いの路線はほとんど壊滅に近い被害を受けたと情報が上がっているが、これらは被害が深刻すぎて曖昧な情報しか入っていない。
「日本海経由なら、京都までは行けそうです。関西圏は阪和線及び山陽本線の一部区間を除き、明日始発から運転再開のようです。」
「なるほどな。そっちから回るか?」
「そうですね、中京圏も西からなら入りやすそうです。」
「しかし北陸は今豪雨ですよ。大丈夫かな。」
梅雨前線が、数時間前から北陸から首都圏にかけて大雨を降らせていた。ここ高崎でも、数時間前から屋根を叩く雨音が大きくなってきた。大きな雷が鳴った。
「あっ!えちごトキめき鉄道線梶屋敷駅東方で地滑り。国道8号と合わせて路盤が流失したそうです。」
新津が端末に届いた通知を見て声を上げた。
「…どうしようか。」
網干が呟いた。
「行けるところまで行きませんか?多治見なら貨物施設もあります。」
利府の発言に網干、新津、三島は頷いた。目標地点は多治見に決定した。
朝4時、輸送計画をまとめた利府は三島、網干に提出し、網干はこれを新橋とJR東日本へ送信した。新橋が統幕とJTF司令部、災害対策本部へ上申し、JRからの返事を待つばかりとなった。
「出れる前提で動こう。機関車出しとけ。それと横浜に連絡。」
EF510とDF200が出発前点検に入り、HD300が貨車を入れ換える。第12師団の各隊はここ高崎から、第1師団の各隊は埼玉県の新座貨物ターミナルと神奈川県の横浜羽沢駅から装備を載せる予定だ。これで3編成の列車が仕立てられる。他にも東京貨物ターミナルと根岸駅からの貨物列車も計画されているが、そちらはJR貨物の運行に自衛隊員が添乗する形になる。
「車掌車、出したの初めてだな。」
網干の言葉に利府が頷き、門司が感慨深そうに口を開く。
「ヨ10000形車掌車、ですね。車掌車がこの時代になって新規製造、実際に運用されるとは。」
国鉄貨物の衰退や貨車、機関車、入換システムの進歩と共に姿を消した車掌車だが、車内に座席があり6名ほどを輸送できることと、小型で民間企業の車両に連結させることができる点が防衛相の目に留まった。そして、自衛隊専用に新規設計されたのがこのヨ10000形である。
「一応シキの用意もしておいてくれ。」
「了解。」
網干の言うシキとは、シキ2000形特大貨車のことである。90式戦車の輸送にも対応した国内最大級の貨車で、これもまたヨ10000形と同様自衛隊専用だ。
「第12施設隊、1小隊到着しました!」
朝6時を回って少し経った頃、そう言いながら走ってきた士長と共に駐屯地のグラウンドへ向かうと、施設科の装備するドーザやバケットローダなどの重機が並んでいた。これらの機材を被災地へ運び、復旧作業の支援を行う予定だ。他にも野外炊具セットや野外入浴セットなど、必需品を多数被災地へ輸送する。東日本大震災では、自衛隊の入浴セットが被災者の心に力を与えたと言われている。12施設隊は近隣の新町駐屯地に駐屯していて展開が速い。
「ショベルから積もうか、始めるぞ。」
3 1/2tトラックから降ろされた重機を荷役線まで動かし、コキ100形コンテナ貨車へ次々と積み込んでいく。12師団のうち施設科、需品科、衛生科の大掛かりな装備はここから輸送することになっている。12施設隊の重機を積み終え、続いて第12後方支援隊の装備に取り掛かる。鉄道輸送隊と同居している12後方支援隊高崎駐屯地派遣隊は野外炊具セットや野外入浴セットを装備していないため、施設隊と同居する新町駐屯地の本隊から装備を輸送することになる。
「炊具セット載せるぞ、リフト寄せろ。」
「前オーライ、前オーライ、停まれ。」
コキ100形に次々と積み込まれた装備は、出発を今か今かと待っているように見えた。
「JRから連絡はまだか?」
網干が聞くと新津が首を横に振る。丁度その直後、新津の携帯に着信が入る。
「輸送計画自体は通りました。しかし、中央本線酒折駅の土砂流入の復旧作業をこちらでやってほしいと。」
「手が回ってないのか。了解。今からうちの装備出せるの?」
首都圏の輸送の混乱の対処に追われるJR東日本は、中央本線の復旧を鉄道輸送隊に委ねたいようだ。
「計画を一部変更。7時出発でマルタイとうちの重機を運ぶぞ。DFで行こう。」
網干の発言に三島と利府が青ざめ、そそくさと電話を手に隊舎へ戻った。そして門司が貨車を回し、稲沢がDF200へ乗り込んだ。鉄道輸送隊初の実戦が始まる。
次話、出動し中央本線の復旧に従事します。




