第2節 ― 無名死者受付所の夜番
無名死者受付所は、死者名記録庁の裏手にあった。
正面から見れば、死者名記録庁は白い石壁と黒い尖塔を持つ荘厳な建物である。
だが裏へ回ると、景色は少し変わる。
荷車の跡が残る石畳。
夜間搬入口の鉄扉。
雨よけの黒い庇。
壁際に並べられた空の棺台。
番号札だけが結ばれた小さな木箱。
そこは、名のある死者が通る正面玄関ではない。
身元のわからない死者。
名札の欠けた遺品。
戦場から運ばれた骨片。
川辺で見つかった指輪。
誰のものとも知れない髪束。
葬送される前に、まず「誰だったのか」を待つものたち。
そうしたものが、最初に置かれる場所だった。
リシェは、黒い鉄扉の前で一度足を止めた。
扉には、記録庁正面と同じ言葉が刻まれている。
――死者を名なしに捨ててはならない。
だが、無名死者受付所の扉に刻まれたその文字は、正面玄関のものよりずっと古く、ところどころ擦れていた。
毎日のように荷車がぶつかり、雨に濡れた手袋が触れ、徹夜明けの職員が額を押しつけてため息をつくからだ。
リシェは胸元の調査帳を抱え直し、鉄扉を押した。
ぎい、と重い音がする。
中は、外よりもさらに冷えていた。
無名死者受付所の空気には、インクと古い木材、冷めた茶、湿った布、それからわずかな香料の匂いが混じっている。
壁一面に、札棚が並んでいた。
小さな白札。
黒札。
灰色の仮札。
番号だけの札。
文字が途中で切れた札。
何かを書こうとして、結局空白のままになった札。
それらが、壁の端から端まで吊られている。
一つひとつが、誰かの代わりだった。
受付所の中央には長い机があり、その上には死者搬入簿、遺品確認簿、未照合名簿、仮札箱、封蝋、印章、使い古された手袋が積まれていた。
そして、その書類の山に半分埋もれるようにして、一人の男が机に突っ伏して寝ていた。
灰茶色の髪は、寝癖で片側だけ跳ねている。
黒い受付官用の外套は肩からずり落ち、襟元はだらしなく開いていた。
片手には冷めきった茶の入った杯。
もう片方の手には、食べかけの焼き菓子。
その焼き菓子には、齧った跡が二つあった。
一つは人間の歯形。
もう一つは、なぜか小さな丸いへこみだった。
リシェはそれを見て、少しだけ眉をひそめた。
「……また机で寝ています」
男は動かなかった。
リシェは机の前に立ち、軽く咳払いをした。
「ルゼさん」
反応はない。
リシェはもう一度、少しだけ声を強めた。
「ルゼ=カロウさん。勤務中です」
机に突っ伏したまま、男が低く答えた。
「死者は急がない。俺も急がない」
「生者の書類は急ぎます」
「じゃあ生者が悪い」
「その理屈を主任に提出しますか」
「やめろ。紙に残すな。俺が死んだあと墓碑に刻まれる」
ようやく、ルゼ=カロウは顔を上げた。
二十四、五歳ほどの男だった。
目の下には深い隈があり、寝起きのせいで瞳は半分閉じている。
だが、その瞳の色は濁った琥珀のように妙に印象的だった。
彼は口元についた菓子の欠片を親指で払うと、冷めた茶を一口飲み、すぐに顔をしかめた。
「まずい」
「冷めていますから」
「茶は冷めても茶だろ」
「勤務中に寝ていた人間が、茶にだけ厳格にならないでください」
「俺は死者には誠実だ。茶にはわがままだ」
「生者には?」
ルゼは少し考えた。
「相手による」
「最低限、勤務相手には誠実でいてください」
「善処する。で、ベルレイン嬢。朝っぱらから夜番の城に何の用だ」
リシェは静かに調査帳を机に置いた。
「空白墓地で異常葬送が発生しました」
ルゼの眠そうな瞼が、ほんの少しだけ上がった。
「異常葬送?」
「空欄の棺です」
リシェは、オルヴァ主任から預かった白い葬送札を取り出した。
その瞬間、ルゼの顔から眠気が消えた。
空気が変わった。
彼は、茶杯も焼き菓子もその場に置いた。
だらしなく開いていた襟元を片手で直し、机の引き出しを開ける。
中から、新しい黒手袋を取り出した。
リシェはその動作を見て、声を落とす。
「……触れるのですか」
「触れない」
ルゼは手袋をはめながら答えた。
「触れないために、替える」
彼は白い葬送札を直接取らず、銀の小さな挟み具で持ち上げた。
いつもの雑な態度からは想像できないほど、動きは丁寧だった。
札の表面を見て、裏返し、端に鼻を近づける。
墨の匂いを確かめるように、ほんの少しだけ息を吸う。
そして、低く呟いた。
「……これ、どこで拾った」
「空白墓地です」
「誰が持ってきた」
「葬列案内人です。棺は搬入済みですか」
ルゼは答えず、もう一度札を見た。
白い札。
何も書かれていない。
しかし、ただの未記入ではない。
リシェにもわかる。
そこには、名前を書かなかった空白ではなく、名前を受け付けない空白があった。
ルゼは挟み具ごと札を机の上に置き、指先で机を二度叩いた。
「悪いことは言わねえ。記録庁の帳にそのまま入れるな」
「理由を」
「帳のほうが名前を持っていかれる」
リシェは目を細めた。
「帳が、ですか」
「死者名簿は、強い。強すぎる。普通の無名なら、仮札を与えれば帳が受け止める。だがこれは違う」
ルゼは札を見下ろしたまま、声を落とした。
「空白が先に口を開けてる。名を入れようとしたら、入れた側まで食われる」
リシェの指先が、わずかに冷えた。
前にで触れたときも、同じ感覚があった。
紙に触れているのに、触れたという記録だけが薄れていくような感覚。
「棺を見せてください」
「来い」
ルゼは椅子を蹴るように立ち上がった。
外套の裾が机の上の書類を巻き込み、数枚が床に落ちる。
リシェは反射的に拾おうとした。
だが、ルゼのほうが早かった。
彼は落ちた札を、片手ではなく両手で拾った。
番号札の角を揃え、埃を払い、棚の正しい位置へ戻す。
その動作だけは、眠そうな態度とも、乱雑な机ともまるで違っていた。
リシェはそれを見逃さなかった。
「書類は落としても怒らないのに、札は怒るのですね」
ルゼは振り返らずに言った。
「書類は生者が書き直せる。札は、死者が待ってる」
それだけ言うと、受付所の奥へ進んだ。
リシェは一拍遅れて、その背を追った。
奥の保管室は、さらに冷えていた。
壁際には仮棺が並び、棚には遺品箱が積まれている。
箱にはそれぞれ番号があり、中には布切れ、靴片、壊れた腕輪、焦げた祈祷札、名前の欠けた身分証などが収められていた。
名を失ったものたちは、どれも静かだった。
けれど、静かすぎるものには、特有の重さがある。
リシェはいつも、この部屋に来ると少し呼吸が浅くなる。
死者の声が聞こえるわけではない。
むしろ、ここにある多くのものは、声になる前の状態で止まっている。
誰かに呼ばれるのを待っている。
誰かに探されるのを待っている。
誰かが、まだ自分を忘れていないことを待っている。
「足元、気をつけろ」
ルゼが言った。
リシェが視線を落とすと、小さな木箱が通路の端に置かれていた。
中には、空の仮札が束で入っている。
「なぜ床に」
「棚が足りない」
「整理してください」
「整理した結果、床になった」
「それは整理とは呼びません」
「呼び名は大事だぞ、記録官」
「今その話を私にしますか」
ルゼは肩をすくめた。
保管室の最奥に、問題の棺が置かれていた。
黒布は外されている。
棺の蓋も開いたままだった。
内側には白い布が敷かれているが、そこには遺体の沈みも、重みの跡もない。
ただ、内側の木に刻まれた引っ掻き傷だけが、やけに生々しかった。
リシェは棺の前で立ち止まった。
その瞬間、耳の奥が少しだけ痛んだ。
声ではない。
叫びでもない。
ただ、何かが記録される直前で引き裂かれたような、鋭い空気の震え。
彼女は無意識に、腰の死者名簿へ手を伸ばした。
ルゼが言う。
「開くな」
リシェの手が止まる。
「まだ何もしていません」
「しようとした顔だった」
「顔でわかるのですか」
「記録官は、困ると帳を開く。菓子好きが困ると袋を開けるのと同じだ」
「同列にしないでください」
「似たようなもんだ。どっちも中身に頼る」
リシェは少しだけ言い返そうとして、やめた。
ルゼは棺の側面にしゃがみ込み、そこに結ばれた小さな仮札を示した。
「これだ」
リシェは札を見た。
番号ではなかった。
そこには、ルゼの雑な字で一言だけ書かれていた。
――星屑。
リシェはゆっくりと視線を上げた。
「ルゼさん」
「何だ」
「勝手に仮名をつけないでください」
「仮名じゃない。仮札名だ」
「言い換えても規則違反です」
「規則は、番号を与えろとは言ってる。番号以外を与えるなとは言ってない」
「詭弁です」
「現場では詭弁も毛布になる」
ルゼは札を指先で軽く弾いた。
「空白のまま置くよりはいい。空白は、死者を冷やす」
その声には、軽さがなかった。
リシェは何も言えなくなる。
ルゼは、死者を雑に扱う男ではない。
机で寝る。
茶に文句を言う。
書類は散らかす。
生者にはだらしない。
けれど、死者にだけは違う。
この男は、名前のない死者を番号だけで放置することに耐えられないのだ。
「星屑、ですか」
リシェは小さく呟いた。
「なぜ、その名に」
ルゼは棺の中を見た。
「空っぽの棺に、花が一輪だけ残ってた。白い花弁が崩れて、棺の底に散ってた。朝霧の中で見たら、星の欠片みたいだった」
「詩人ですね」
「やめろ。死んだあと変な異名で記録される」
「札番詩人ルゼ」
「燃やすぞ、その記録」
リシェはほんの少しだけ口元を緩めた。
だが、すぐに表情を戻した。
「仮札名は、正式記録には載せません」
「載せるな。俺も載せる気はない」
「では、なぜ」
ルゼは棺から目を離さずに答えた。
「今夜だけでも、呼び名があったほうがいいだろ」
受付所の冷気が、少しだけ重くなる。
リシェはその言葉の意味を考えた。
今夜だけの呼び名。
正式な名ではない。
墓碑に刻まれる名でもない。
死者名簿に残る名でもない。
けれど、完全な空白ではない。
誰かが、そこに何かがいると認めるための小さな印。
「ルゼさんは」
リシェは静かに尋ねた。
「空白が怖いのですか」
ルゼの横顔が、ほんの一瞬だけ動きを止めた。
それは、問いが的を外したからではない。
むしろ、近すぎたからだとリシェには思えた。
ルゼはすぐにいつもの調子に戻る。
「怖いものだらけだ。未処理書類、主任の説教、冷めた茶、給料日前の酒場の勘定」
「今、最後だけ具体的でした」
「切実だからな」
「答えになっていません」
「答える義務は受付範囲外だ」
ルゼは立ち上がり、棺の内側を指した。
「見ろ。傷の向き」
リシェは棺に近づいた。
引っ掻き傷は、確かに内側から外へ向かっているように見える。
けれど、よく見ると少し違った。
爪で引っかいたというより、文字を刻もうとして失敗した痕に似ている。
縦線。
横線。
斜めに裂けた痕。
途中で折れた曲線。
「文字……?」
リシェは呟いた。
「そう見えるか」
「はい。でも、文字になる前に崩れています」
「俺もそう思った」
ルゼは棺の縁に手を置きかけ、直前で止めた。
代わりに、挟み具で白布の端を持ち上げる。
布の下には、木目に沿って薄い灰色の粉が残っていた。
「花粉では?」
リシェが問う。
「一部はな。だがこれは別だ」
ルゼは小瓶を取り出し、粉を少量だけ入れた。
「灰化許可院で使う灰に似てる。だが、匂いが違う」
「匂い?」
「ウル=マリスの灰は、もっと熱の匂いがする。これは冷たい」
リシェは眉を寄せた。
「灰が冷たい、ですか」
「正確には、燃えた感じがしない。焼いたんじゃない。抜いたあとに残った粉だ」
「名を?」
ルゼは答えなかった。
答えないことが、答えだった。
リシェは棺を見下ろした。
空欄の葬送札。
空の棺。
内側に残る文字未満の傷。
冷たい灰。
そして、鳴るはずのない眠りの鐘。
何かが、この棺から死者を奪った。
遺体ではない。
名を。
記録されるはずだった何かを。
そのとき、受付所の奥から小さな音がした。
かたり。
札棚の一角で、白い仮札が揺れていた。
リシェとルゼが同時に振り向く。
風はない。
受付所の扉は閉まっている。
札は一枚だけ揺れていた。
番号の書かれていない、空の仮札。
ルゼの顔が険しくなる。
「触るな」
リシェは頷き、ゆっくりと札棚へ近づいた。
揺れている札は、他の札と同じ白木でできている。
だが、表面がわずかに黒ずんでいた。
墨ではない。
焦げでもない。
白が、内側から痩せていくような黒ずみだった。
リシェの耳の奥で、また何かが震えた。
今度は、ほんの少しだけ声に近かった。
――お……
リシェは息を止める。
「聞こえたか」
背後でルゼが言う。
「まだ、声ではありません」
「じゃあ、何だ」
「声になる前のものです」
「厄介な返事だな」
「私もそう思います」
リシェは札に触れようとして、直前で手を止めた。
オルヴァ主任の言葉が頭をよぎる。
空白は、沈黙とは違う。
沈黙にはまだ意志がある。
だが空白は、意志ごと削る。
リシェは手を引いた。
「これは、終名聴取の前に準備が必要です」
「賢明だ」
「ただし、記録庁の帳には入れません」
「もっと賢明だ」
リシェは振り返った。
「ルゼさん」
「何だ」
「この件に、空名会が関わっている可能性はありますか」
ルゼの顔から、ほんのわずかに表情が消えた。
それは一瞬だった。
だが、リシェは見逃さなかった。
ルゼはいつものように肩をすくめようとして、途中でやめた。
「名前を消す連中は、空名会だけじゃない」
「では、空名会ではないと?」
「そうも言ってない」
「はっきりしてください」
「はっきりさせるには、まだ札が足りない」
ルゼは棚の仮札を見上げた。
「だが、ひとつだけ言える」
「何ですか」
「これは善意の顔をして来る類いのやつだ」
リシェは黙る。
善意の顔。
その言葉は、空欄の棺よりも不気味だった。
悪意なら、拒める。
暴力なら、止められる。
だが、救いの言葉で近づいてくるものは、もっと深く入り込む。
死者にも。
生者にも。
ルゼは棺のそばへ戻り、星屑と書かれた仮札を見下ろした。
「記録官」
「はい」
「この棺を、空白墓地へ戻す前に、もう一度だけ現場を見ろ。棺だけ見てても駄目だ。棺が通った道と、葬列にいた連中を見ろ」
「参列者の証言は取ります」
「証言だけじゃなくて、忘れ方を見ろ」
「忘れ方」
「人は、忘れるときにも癖が出る。顔から忘れるやつ。声から忘れるやつ。名前だけ忘れるやつ。悲しみだけ残るやつ」
ルゼは指で仮札を押さえた。
「今回の連中は、たぶん名前から抜かれてる」
リシェはその言葉を調査帳に書き留めた。
――名前から抜かれている。
文字を書いた瞬間、インクがわずかに滲んだ。
リシェは眉をひそめる。
ルゼも見た。
「ほらな」
「まだ何も聞いていません」
「聞く前から、向こうが聞いてるんだろ」
受付所の冷気が、ひときわ深くなった。
リシェは調査帳を閉じた。
「空白墓地へ向かいます」
「一人でか」
「職務です」
「職務って言葉は便利だな。死にに行くときまで使える」
「縁起が悪い言い方はやめてください」
「死者名記録官がそれを言うのか」
「生きている間は気にします」
ルゼは鼻で笑った。
「なら、これを持ってけ」
彼は机の引き出しから、小さな仮札を一枚取り出した。
何も書かれていない白札だった。
ただし、端に小さな銀の留め具がついている。
「これは?」
「迷子札」
「私は迷子ではありません」
「死者に引っ張られた記録官は、だいたい迷子になる」
「経験談ですか」
ルゼは答えず、札をリシェの調査帳に挟んだ。
「もし自分の名前が遠くなったら、それを握って自分で名乗れ」
「自分の名前が遠くなる、とは」
「そのままの意味だ」
ルゼは少しだけ目を伏せた。
「呼ばれない名前は、案外すぐ冷える」
リシェは、胸の奥に小さな違和感を覚えた。
ルゼの言葉は、ただの知識ではない。
彼は、それをどこかで経験している。
あるいは、誰かをそうして失ったことがある。
だが、今は踏み込むべきではないと思った。
「お借りします」
「返せよ。備品じゃない。私物だ」
「大切なものですか」
ルゼは少し考えた。
「大切だったかもしれないものだ」
その答えに、リシェは何も返せなかった。
受付所の奥で、星屑と書かれた仮札が、かすかに揺れた。
まるで、その呼び名を嫌がるように。
あるいは、呼ばれたことに気づいたように。
リシェは棺を振り返る。
空っぽの棺。
内側に刻まれた文字未満の傷。
冷たい灰。
星屑という仮札。
そこに死者はいない。
けれど、何かは確かに残っている。
リシェは静かに息を吸った。
「行ってきます」
ルゼは机に戻りながら手を振った。
「死者が急がなくても、生者は急げ」
「さきほどと違うことを言っています」
「状況が変わった」
「勤務態度も変えてください」
「それは別件だ」
リシェは少しだけ呆れた顔をし、受付所の扉へ向かった。
背後で、ルゼが椅子に腰を下ろす音がした。
茶杯を持ち上げ、冷めきった茶をまた飲んで、また顔をしかめる。
「やっぱりまずい」
「淹れ直してください」
「死者は急がない」
「茶は急いだほうがいいです」
扉を開ける直前、リシェはそう言い残した。
外の朝の光が、受付所の冷たい床に細く差し込む。
リシェが出ていったあと、ルゼはしばらくその扉を見ていた。
それから、机の上に置かれた白い葬送札へ視線を落とす。
空欄。
何も書かれていない。
ルゼは低く呟いた。
「……空白のままじゃ、寒いだろ」
彼は新しい白札を一枚取り出し、筆を持った。
少し迷ってから、もう一度、同じ仮札名を書く。
星屑。
その文字が乾く前に、受付所のどこかで、小さく木が軋んだ。
ルゼは顔を上げた。
棺の中には、やはり誰もいない。
けれど、内側の傷のひとつが、さっきより少しだけ深くなっていた。




