42 王子も大変らしい。
王子様と話をしよう。
プリウス様(笑)の態度の変化に対して、驚いたのは俺だけだったようだ、タチアナさんたダーパル様以下、周囲にいる使用人さんや護衛の人達も呆れてこそいるが、動揺はない。そもそもやんごとなき御方としか聞かされてなかったけど、まさか王子、それもこんなのだぞ?
「しかしさあ、アレはなんだったの、超怖かったんだけど。」
そして何より当人が軽い。肘をついて姿勢を崩し、斜めに身体を傾けながらへらへらと話す姿は王子には見えないなー。
「スカル殿、申し訳ないが・・・こうなるとしばらくは戻らんのだ。このままで頼む。」
とダーパル様に言われて、俺はコホンと咳払いをし、説明を開始する。
事前の打ち合わせで、最初は俺が説明し、ロッド様の依頼などについて必要があればタチアナさんに補足してもらうことになっている。
『ふふふ、お主の説明で誤解なく進むと言いがのー。』
「こほん、では、畏れながら説明させていただきますねー。」
許可は出たし、言質もとってある。なので、俺は一歩前にでた。事前にロッド様と出会っていたせいか、不思議と緊張はしない、気づけばいつもの口調で俺は語り始めることができた。
「とりあえず、しがない傭兵なので―、至らぬところがが多々あると思いますがー。」
「気にしない、気にしない、俺も似たようなものだし。」
「ええっとー。まず、プリウス様や、ロッド様を襲っていた脅威は、「呪い」と言われるもので、隣国、チェレパーフスピナ宗主国がっ。」
『かかか、やはりのー。』
ある国の名前を挙げた瞬間に、膨れ上がった魔力と熱量に目が眩む。一瞬だけ瞬きをしたあと、俺の視界は炎に包まれていた。魔力によって生み出された青い炎。
「なんだ!」
「スカルさん!」
突然の出来事に悲鳴が上がるが、声が聞こえるということは一先ず猶予があるのだろう。狙われているのはきっと俺だけだ。込められた魔力の量を考えると楽観はできないが、不思議と熱さを感じない。ともあれ、足元から広がる青い炎は数秒とたたずに俺を焼き尽くし、そのまま部屋中に広がるだろう。
『威力は素晴らしいが、制御が甘いのー。』
だがそれは正しく魔法が発動していたらの話だ。必殺の殺意で投げ込まれた魔法は見えない何かに包み込まれ小さく圧縮され、そのまま握りつぶされた。
「・・・お見事。」
『ふふふ、容易きこと。お主はそのまま超然としておればよい。」
やったのは、俺の背後に隠れるエミリーさんです。彼女が魔法を撃ち消し、ついでに犯人を念動で取り押さえていた。まるで先ほどの呪いのように、まるで最初からなかったかのような見事な魔法。何をやったのかはまったくわかりません。
『ははは、不意打ちのつもちだったんじゃったんだろうが、わっちの前にでは子供のお遊戯よ。』
耳元で高笑いするのやめてくれないかなー。
なお、エミリーの声はタチアナさんにも届いていないっぽいので、気をつけないと危ない人になってしまう。
『もう大丈夫じゃ、下手人は手の内じゃ。魔法も使えんはずじゃ。』
「捕まえましたー。」
俺の言葉に反応し、部屋にいた1人の魔法使いが捕縛された。押し返すように魔法を防いだおかげか、周囲の護衛達にも、炎の発生源がその男であることはすぐにわかったらしい。
「フレッド、まさかお前が。」
「な、何のことですか、私はそこの魔法使いが陛下を害そうとしたから。」
「それで、部屋ごとか、流石に騙されんぞ。」
同僚らしき魔法使いによって捕縛される。だが、我らがエミリーさんはその同僚ごと犯人の下半身を氷漬けして縫い留めた。。
「な、なにを。」
『拙い演技じゃのー。お主、やったれ。』
「はいはいー。」
身動きの取れない相手に対して俺はゆるくリムーブを放つ。ただのリムーブであり害がないことは、明らか。だというのに、魔法使いたちの身体に届くと、何かが割れる音がして、2人の胸元から黒い鎖が生える。
「なっ。」
「ひいい、なぜだ、なぜ我らに呪いが。」
「はい、言質いただきした。」
自身にまきつく黒い呪い。その存在に目を見開き身体を震わせる2人と他数名。護衛や使用人たちが黒い鎖にからめとられて倒れしまう。
『やはり潜んでおったな。わっちの予想通りよ。』
「そだねー。」
思った以上に多くてびっくりだ。広がる光景は先ほどと比べるとささやかな物であるが、それでも1人1人が動けなくなるレベルで呪われている。
ここまでの流れは応接室で待っている間に3人で相談し、ダーパル様にもこっそり伝えていたことだ。
『状況は分かった、わっちの存在はこのまま秘匿し、こやつの功績ということで通すんじゃな。』
「すみません、エミリーさんの存在は我々にとっての切り札になるので、秘匿したいと。」
『それは構わぬ。わっちの知恵や能力は、こやつはいてこそじゃから、わっちの力はスカルの力と言っても間違ってはおらん。それよりもお主はいいのか。かなり目立つことになるぞ。』
「それこそ、今更だねー。」
かつて王都を大混乱に陥れたエミリーの存在は危険すぎる。なので、実績を積み上げて信頼を得るまでは秘匿したいというロッド様たちの戦略は理解できる。
そもそも霊を連れ歩いている魔法使いなんてものは信用できない。余計なトラブルを避けるために手を組んでから、エミリーの存在は隠していたわけなので、そこは今更変わらないだろう。
『じゃあ、今回はそうもいかんと思うぞ。』
「なんでー。」
『お主、自分の存在が、黒幕どもからどれほど危険視されるかわからぬわけでもあるまい。』
「ああ、やっぱりー。」
打ち合わせの段階で、なんとなく予想はついていた。王子に呪いを仕掛けるような輩は、よほど腕に自信があるか、狂信的な存在のどちからだろう。何より、あの呪いの配置は、内部に協力者がいなければ成立しないレベルだった。
『現状、それを見抜けるのはわっちとお主のみ。いや、向こうからすればお主だけじゃ。ならば、わかるな。』
「不敬を問うか、事故に見せかけて口封じだねー。」
『そうなるのー。まあ、そうなってもお主の安全はわっちのほうでなんとかするが。』
「状況の説明はどうにかするさー。」
とか打ち合わせをしていた。結果として呪いを元の持ち主に返してあげたわけだが・・・。
結果は、この惨状である。
「ああ、た、助けてくれ。」
「いや、いやだ、とって、これとってー。」
便利な道具と思っていた呪いにまとわりつかれて恐怖に顔をゆがめる内通者たち。
自分の職務や信念にどれほど忠実かは知らない。だが、あの恐怖と痛みを超えてまで尽くそうとは思わないだろうって。
「捕らえろ。縛り上げて、すべて吐き出させろ。」
「た、たひゅ。」
「だったらすべて話すんだな。」
むしろ、呪いで苦しむ元同僚たちを冷静に縛り上げていく離れの人達が怖い。もっと驚くとか、説明を求める場面ではないのか?
『これだけの事態な上辺境での前例もある。あの国の手の者が紛れ込んでいる可能性も考えておったのじゃろう。なれば、そう言う時の対応も心得ているというわけじゃ。』
「そうかねー。」
『しかもあれじゃ。お主が見事に呪いを祓ったから下手人も判断に困っておったのじゃろう。本来ならば呪いの余波で起こる混乱に乗じて逃げ出すのじゃが、今回はその隙がなかった。』
「充分混乱は起きてるよねー。」
『あまりにきれいに収まったから、逃げたら犯人とすぐばれてしまうじゃろ?だからこそ、ギリギリまで見極めたい、あるいは今後障害になりそうなお主を排除したいとも思っていたのかもしれん。最悪失敗しても怪しい動きをしていたから攻撃したで済む。身元がバレるような証拠などは普段から残しておらんかったじゃろうし。』
「すごいジレンマだねー。」
呪いの恐ろしいところは奇病や霊障と誤認されてしまうことだ。その存在がほとんど知られていないからこそ、通常の祓いや魔法では対策できないし、証拠も残らない。
今だって、彼らの自供がなければ立証はできないだろう。それこそ彼らが真に任務忠実ならばこのまま、口を閉じ、呪いによって命が消えるに任せればいい。
「は、話す。」
「全部、話すからーこれとって。」
だが、呪いにさらされたことで、彼らの心はあっさりと折れた。
『まあ、知らずに使っていればそうなるわな。よくわからなんものを、よくわからないままに使うからああなるんだ。』
「自業自得だねー。」
そうそう、なかなかにハードな状況だったが、プリウス様は動ぜず椅子に座って状況を見守っていた。その姿はなかなか立派だったよ。
エミリー『呪いはメンタルに左右するから、よほどのことがない限り、心が折れます。』
スカル「ご利用は計画的に。」
なんだかんだ、スピード解決な展開。




