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侯爵夫人はときめきたい!後半(マリー視点)


侯爵のリリーへの態度に改善は望めないと悟ったマリーは、せめてリリーの心の拠り所であるアランと遊ぶ時間だけは何としても確保しようと、マリーはリリーの自由時間とアランが庭園にいる時間を合わせた。そのせいで、リリーとアランが合っている時間が何となく分かってしまうマリーはかなりの頻度で二人をこっそりと見守っていた。


「奥様、さすがに覗きは…」


居合わせたメイドが呆れた顔をする。


「私だって良くないって分かってるのよ?でも、どうしても気になっちゃうし、今の私にはこれしか癒しがないの!」


年々気難しくなる夫に、成長と共に腹黒さが増していく娘、息子を次期侯爵にとすり寄ってくる貴族達。周りの人間関係がグログロなマリーにとって、二人を見守のが唯一澄んだな空気を吸える瞬間だった。


「それに、最近リリーもアランのこと意識し始めてない?」


ニヤニヤが抑えられない顔でマリーは言う。


「それは、そうなんですよね」


メイドも少し口元を緩めた。

最近アランが吹っ切れてきたのか、顔が近づいたりしても動揺せず、リリーの服や髪型にも『似合ってる』『綺麗だ』と臆さず感想を言うようになり、逆に言われた側のリリーが顔を赤くするようになっているのだ。


「この意識してた方が相手から意識され出す逆転劇がいいのよね」

「わかります」


メイドがうんうんと頷く。

このまま二人を見守ろう、そして二人が両思いになったら一緒に生きていけるようにしてあげれるくらいの力をつけようとマリーは侯爵夫人としての仕事に力を入れ始めた。


しかし、ある日を境にリリーとアランはどんどん余所余所しくなり、ついには全く口をきかなくなってしまった。

「リリーとアランは喧嘩でもしたのかしら?」


急に余所余所しくなってしまった二人を不思議に思ったマリーはメイドに聞いた。


「わかりません。ただ、あの気まずそうな雰囲気はどちらかが告白してフラれたのかと…」

「ああ…」


たしかに、言われてみれば花街でも良く起こっていた告白が上手くいかなかった時のギクシャクに似ていた。


「リリー様には婚約者がおられますし、気を遣ったアランが断った可能性も、リリー様が断った可能性もあります」

「婚約者ねえ…王太子だったかしら?禄に会いにも来ないのに本当に結婚するつもり?」

「まあ、王家との契約ですからねえ」


リリーの婚約はマリーが侯爵家に来る前に結ばれていたらしい。平民出身のマリーには貴族社会の婚約という制度は頭では理解できても、心では受け入れ難いものだった。


「でも、アイラが侯爵家に来るまではリリーは一人っ子だったんでしょう?なんで旦那様はリリーを他所に嫁がせようとしたのかしら」

「詳しくはないですが、王家からの強い要望だとか…」


メイドの言葉にリリーは考え込む。


「王家側からなのね。なら、王太子の弱みか婚約者としての欠点を握れば婚約解消できるわね」

「奥様、目が本気過ぎますよ…」


微笑みながら恐ろしいことを言い出すマリーを見たメイドは「アイラ様の性格は絶対奥様似だ」と思った。


もちろん、その時はあくまで冗談に考えていたのだが、チャンスはあっさりと訪れた。


「王太子様、アイラ様に粉かけてますね」

「噂には聞いていたけど、本当に女には目がないのねえ」


侯爵家に出入りするようになったアルバートがアイラにアプローチを始めたのだ。


「リリー様が殿下にあまり関心がないので気を引こうともしてるんでしょうが…」

「逆効果よね」


アルバートがアイラに親しげに話しかけ、ほぼ口説いているような言葉を発する程、リリーの中から『婚約者としてちゃんと向き合おう』という気持ちが薄れていっているのは傍目から見れば明らかである。


「ただ、婚約解消するには決定打が足りないのよね」


メイドとマリーが考え込んでいるとバンと大きな音を立ててドアが開いた。


「話は聞かせてもらったわ!」

「ノックしなさい!」


入ってきたのはアイラである。


「私に良い考えがあるの」


目を輝かせて告げるアイラを見て「もう後には引けない」と悟ったマリーはアイラの作戦に協力することに決めたのだった。


***


それから約一年ほどかけて、マリー達はリリーとアルバートの婚約解消に成功した。

誤算といえば、侯爵がその婚約解消に驚くほど腹を立ててアルバートを殴りかけた事だが、アイラの腹パンにより気絶して事なきを得た。

その後、しばらく侯爵は寝込んでしまったが、やがて元通りに戻りアイラの王太子との結婚に向けてキビキビと働き出した。


「奥様、こちらを」


アイラの結婚式の招待者リストを確認していると、執事が一通の手紙をマリーに差し出した。

『親愛なるマリー様』で始まるその手紙は、マリーとアイラを恨んでこの家から出ていったであろうリリーからのものだった。

手紙には、婚約解消のためにマリーが尽力したことを執事から聞いたこと、マリーがリリーと仲良くしようとしていたのに気づけなかった事への謝罪、アランとは仲良くやっていることなどが書かれていた。


『マリー様が私を想って行動して下さった全てとことに感謝しています。もし、マリー様が何かの困難に直面したら全力でお力になりますからご連絡ください。

私の二人目のお母様がマリー様で良かったです。』


マリーは目頭が熱くなるのを感じた。


リリーにとっても、アイラにとっても自分が良い母親だったとは思えない。嘘をついてこの家に入って、リリーを苦しめて、アイラだってちゃんと恋をして結婚したかったかもしれない。


(それなのに、この子達は…)


王太子との婚約が決まった時にアイラはマリーの元を訪れて言ったのだ。


「お母さん、この家に連れてきてくれてありがとう。私はちゃんと幸せになるわ」


リリーもアイラもほんの数年前まではリボンを取り合って泣くような子達だったのに、子供の成長はあっという間だと痛感する。


「あーあ、唯一の楽しみがなくなっちゃったわね」


マリーは涙を誤魔化すように大きく伸びをした。


「楽しみって、覗きですか?」

「失礼ね、見守りと言ってちょうだい」


メイドは苦笑した。


「そういえば、コックのリュークとメイドのミミはいい感じ?」

「全然楽しみなくなってないじゃないですか…」


結婚式の準備やら後継者の選定やらで相変わらずマリーは忙しいのである。だから心に潤いが必要なのだ。


「いいじゃない。私みたいなおばさんだってときめきたいのよ」


メイドはいつも通りため息をついた。


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