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魔女はペン先と黒インクにて集う  作者: wicker-man
統の章
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統王、語り止まず

「文化の統一は想像を遥かに超えて大変だった! 言語と経済という根幹を押さえ続けたおかげで多少の無茶は利いたが、轍の規格一つ合わせるにも大変でな。今の大トカゲ車は一頭曳きが基本だが、かつては多頭曳きが普通だった。そうすると、どうなると思う?」

「えっと、わかりません」


すっかり昼食も平らげ、飲み物をちびちびと進めながら熱っぽく語る。


あれから、話題は戦史、統治、昔話と来て、再び統治の話に戻っていた。

昼食会が始まってより、既に一時間は軽く経過していた。

しかし、妻たちもまだまだ雑談に勤しみ、子供らには飽きて子守と遊ぶ者や、兄弟姉妹同士で食後のお茶など啜りながら会話を楽しむ者がいた。


「馬車を使う地域と大トカゲ車を使う地域で、轍の幅がまるで異なるということだよ。馬は胴の下へ足を伸ばしているから幅を取らないが、トカゲは胴の横へ足を伸ばしている。必然、多頭曳きの大トカゲ車は横幅を取り、轍も広い。しかも、大トカゲと馬それぞれの文化圏の中でも更に国や部族、小地域ごとに轍の幅は微妙に異なる。まあそれはしっかりと数字を定めて改修工事を行えば済むことだが、大トカゲと馬という違いは如何ともし難い」


大トカゲ車を使うのは主に東や南の地域。それ以外は殆どが馬車である。

もし大トカゲ車を廃止して馬車で統一した場合、大トカゲの飼育と運用に関する事業は殆どが倒れるだろう。

馬車屋や馬飼に鞍替えしても、積み重ねた歴史を投げ捨てて全く新しい未経験の動物を扱うのである。

そんな彼らが、他地域から流入するであろう馬業者の、蓄積済みの経験と設備力に叶うわけがない。

吸収ではなく追放に近い形で文化と市場が推移し、困窮と禍根の芽を成すは必至であろう。


「しかし、解決というのは常に意外より来たるものだ。デルグンドラ諸侯の……確かボノハウロだったか? 余った大トカゲを売り込みに来たのだ。彼らは野生の大トカゲを捕まえて飼うだけで、積極的に繁殖させてはいない。捕まえすぎた大トカゲはこれまで食料にしていたらしいが、目端の利く奴は、俺なら買い取ってくれると思ったらしい。まあ、その目論見は見事に当たるのだがな」

「というと?」

「デルグンドラ諸侯とは幾度も矛を交えた。大トカゲを使った大胆な戦術に驚かされたよ。初めは、彼らが加減を知らないまま、乱暴に、雑に扱っているのだろうと思っていたが、少し気になってな。魔道士会に調べさせてみたら、ディゴ荒野の大トカゲは寒冷地に適応した特殊な循環器系を持っていて、一頭で二頭分の力が出せるというのだ。東や南の温暖地域で使われている大トカゲが、寒いディゴ荒野でも用いられている理由にもっと早く気付くべきだったよ」


外見上に大きな違いがないために、通常種と同種と思われていたディゴ荒野地方の大トカゲ。

今では"ディゴルニカ・ハーバン・ハウロ・デグストス"という独自の種として確立している。

巷での俗称は、単に"ディゴ種"であるが。


「ディゴ種なら、一頭だけで変わらぬ働きができる。一頭曳きなら、車の規格は馬車に合わせられるからな。温暖な地域で運用する場合、給水と休憩をこまめに挟む必要はあるものの、おかげで街道筋の宿場政策とも合致させられた。新たな飼育法の確立には魔道士会を使ったが、上手く地元の業者と連携して、新たな流通産業として定着してくれたよ」


実際、魔道士会による物流への寄与は大きい。

全世界的な情報源を持ち、一応は同じ規則を共有する支部を1000年にも渡って、各地に有し続けていたという蓄積の利点。

魔女王国という一拠点に長年根を下ろし、つい数十年前に開放されたばかりの魔女協会には持ち得ぬ利であった。


「他にも色々……おっと」


飲み物が空になったのに気付き、会話が中断される。

その時ついでに、思いの外時間が経過していたことにも気付いた。

子供や孫らの様子からも、潮時だと判断し立ち上がる。


「今日の昼食はこれにて解散としよう。あとは通例通りにしてくれ」


通例とは、この場に留まり食事や会話を楽しんでも良し、各々の日課や用事に励んでも良し。つまりは自由時間だ。

妻たちは皆、それぞれの作法に則った礼を返すと、すぐさまその言葉を実行に移す。

今日は統王が長居をしたため、結局全員が席を立った。


「またね、コードラン」

「後で会いましょう」

「またね、あなた」

「じゃあまた、晩ごはんの時にね」

「天の思議に感謝します」

「では統王様、失礼しまする」


退室する妻たち全員が統王に声をかける。

中には抱擁する者、キスする者、祈りを捧げる者、武人としての礼を取る者までいる。

その一つ一つに彼は応え、丁寧に全員を送り出していた。


「では、お父さま」

「失礼します」

「ばぁばい」

「約束忘れないでね!」

「ごちそうさまですお祖父様」


子供や孫らの挨拶にも向き合い、礼と愛を尽くして対応している。

転んだ孫を自ら抱き上げて乳母に手渡すことも二度あった。


そうして、彼は家族の中では最後に退室した。

後片付けを始めた使用人らを残し、クロスを伴って。


「いやあ、賑やかでしたね。いつもああなんですか?」

「ああ、できる限り食卓を共にするようにしている。俺も、愛に飢えてたのかもな」


王子時代は戦と野営続き。家を乗っ取ってからは地盤固めに奔走し、その後は魔界統一事業と統治の並行作業。

それが済んだ後は現界に侵攻、全てを征服するまで戦い続けた。

その間、愛する者らと一緒にゆっくり食卓を囲む日々すら送れなかったのだろう。

統王になり、改革を進め、それが定着し安定している今が、彼という個人にとって最も幸せな時期なのかもしれない。


「統王様、つかぬことをお訊ねしますが」


ずっと温めていた疑問がある。一笑に付されるかもしれない、ある意味ではくだらない問いだ。

しかし、あまりにも日常的な食卓の風景を見てしまった。王には似つかわしくないほどの、牧歌的でありふれた昼食。

その様を見ていて、くだらない質問が具体像を強め彫刻のように着実に彫り上がっていくのを感じていた。

ならば、訊かずにはいられないのだ。クロス・フォーリーズであるが故に。




「どうして、世界を統一なさろうと思ったのですか?」




やはり、くだらない質問だったかもしれない。

統王はまともに反応せず、沈黙と、静かなる歩みのみを返している。

しかし歩みは神妙で、先ほどまで見せていた夫、父、祖父としての表情は消えていた。

遠い彼方を見つめるような、冷たさと温かさを同時に感じるような、複雑な表情を見せていた。


ああ、答えてもらえるんだな──


クロスは直感し、自らも押し黙って隣を歩いた。

相手が話し、答え始めてくれるのを待つために。






そして、統王は3分後にようやく口を開いた。




「"魔女問答"について話してやろう」

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