9 モニタリング セレナーデ
(今話、作者からの前書きが長いです。読み飛ばしていただいても構いません)
31万pv越えです。
あと、先日は初めて小説家になろうのランキングにも載りました。(もしかしたら注目度ランキングに今週いっぱいはいるかも)
そして今月11日で、星よきいてくれは八周年になります。
長く読んでくださる方も、昨日読み始めてくれた方も、読者の皆様の応援に感謝いたします。
(あとこれは厚かましいので次話の投稿のタイミングで消す話題なのですが!)
今回のことでブックマークがニュッ!と増えたので、この機会に評価ボタンぽちぽちしてくれたらうれしいな~……なんて。
ハイファンタジージャンルのランキングにも、一度くらい載ってみたいな~……なんて。
ハイファンタジーは、日間ランクインの下限が35~38ポイントほどなので、月に一度10点評価がいただけるくらいの本作には、狭き門なのです。
もちろん忖度のない評価で構いません。
お時間がありましたら、ポチポチとお願いいたします。
載れなくても、絵なり番外編なり描くんで……リクエストもありましたら、Xのリプや感想欄で受け付けています。
カラーイラストでもカップリングでもホワットIfな話でも夢小説でも何でも書くんで、見たいものありましたらお気軽にぜひ……!
長々と失礼しました!
今章クライマックスの本編をお楽しみください。
「そろそろ時間ね」
ふと瞬きをして、エリカが言った。
ヒースは、ブツブツと数字を呟きながら新しい知識についていくのに必死なミス・グリーンと顔を寄せて、同じモニターの数値とコードを睨んでいた。
チラリと肩越しに振り返ると「あんたも忙しい人だよね」と、呆れがにじんだ笑い声で言う。
「まあ実際、本番が近いから時間はないんだけど。あの人によろしく」
「あの人」の「あ」の時点で、ヒースの目はすでにモニターへ戻っている。エリカは思わず笑った。
部屋を出て、小部屋に入り、そこにあるマットレスだけの寝台に横たわる。
「行ってくるわね」
◇
北西部ドロシー領の沿岸部に、その町はある。
内海を隔てて山脈がそびえるマリア領を拝むその土地は、野原と乾いた冬がある。
ドロシー領は、海層特異点があるサラ領、港があるサーナガーン島とも、さほど遠くない。
港からの物品の多くは南部へと運ばれていくが、北部に流れる物流はこのドロシー領を経由して、北西から北東へ左回りに巡っていくのである。
農地を耕し、丘陵で羊を飼い、織物産業でささやかに栄えた田舎町。
木と煉瓦でできた家々の赤く塗られた屋根は、丘を縫うような道を留める小洒落たマチ針のように見える。
丘と空の間を滑るようにして、ミケは滑空し、その町を視界に納めた。うっすらと霧がかかり、家々の輪郭が灰色に霞みはじめている、その町を。
丘を歩く羊と羊飼いが、街の手前でこちらを丸い目で見つめている。
冬を迎えるためにふわふわの毛を蓄えた、よく肥えた白い羊に囲まれて、黒髪を肩口で短く切りそろえた茶色い肌の若い男が、黒目がちの青い瞳でこちらを見つめていた。
ふと、男が無造作に手を上げる。
その指先は、ミケを指していた。
「―――――っ!? 」
ミケは、即座に降下を選んだ。とくに理由はない。予感のようなものがあっただけだ。
頭の上を、風を切る金属音と火花が降り注ぐ。
赤く熱せられた円盤がふたつ、不協和音を立ててぶつかりあい、そこにあったはずのミケの首を狙っていた。
二枚の円盤は散会し、回転しながらジグザグに飛行を続けるミケの体を追う。
羊飼いはまだこちらを見ている。
(――――『選ばれしもの』か! )
『悪魔』アリスとつるんでいる『選ばれしもの』といえば、『吊るされた男』だ。
まさに、その考えに至ったその瞬間。
羊飼いの体が白熱し、燃え上がった。円盤が引き寄せられるように戻っていく。
ミケもまた、クロシュカ・ジュニアが握ったままの『冥王星』を引き寄せた。
これで、ジュニアも分かったはずである。
アリスのふたりの護衛のうちのもう一人。
―――――『燃える男』がここにいると。
瞬きの間に、ミケの前に燃え盛る顔が出現した。表皮を焙る熱波が空気を揺らめかせる。
ミケは慌てて空を背に飛ぶようにして距離を取った。燃える拳が空を切る。
炎そのものになって白く揺らめく髪。その頭上と足の下では、銀の円盤が彼の上下を挟むようにして回転している。
(――――もしや、『星』と同じような機能か……? )
速い。
まるで流星のようだ。
空に、何筋もの光の軌跡が描かれた。
ミケはグン、と降下する。丘を舐めるように滑空する。
そう。こちらへやってくるあの裸の巨躯が、視界に入らぬように。
「助太刀いたぁあ――――す!!! 」
ボウッ!
人が、人を殴ったとは思えぬ音がした。
◇
龍人同士の死合いは、混迷を極めていた。
枯れたヘザーに覆われた丘は耕され、早くもその様相を変えている。
蒼い星雲を体に纏ったクロシュカと、赤い星雲を手足に纏ったハクロは、互いの衣装が土埃に覆われているにも関わらず、その血はほとんど流れていなかった。
しかし、疲労しているのはクロシュカただ一人。
首の前に垂れてきた長い三つ編みを後ろに跳ねのけながら、クロシュカは大きく息をする。
エリカ・クロックフォードの魔力を食み、かつてに近づいたとしても、その胸はまだ薄い。せいぜいが、十六、七の青年であった。
「認めなさい。あなたは私よりも強くない」
憐れむような声で、ハクロは言う。
「あなたは弱くはない。ただ……強くないだけ」
「……イラつく理屈じゃのお」
拳をより強く握りこみ、緑の瞳が怒りで強さを増した。舌戦が成功したハクロは、よりやる気を出したクロシュカに笑みを深めた。
―――――それを見ているものがいる。
半分凍り付いたような土の上で、白い息が細く風になびく。
闘争が始まるのを待ってから近付き、ハクロに悟られぬほどの距離と位置を慎重に探り、身を潜めて血闘を見守るその影は、望遠鏡を手に体を土の上に体を横たえていた。
麦粒ほどの小さな影でしかないが、彼女ほどの動体視力であるならば、どのような攻防を繰り広げているのかを把握するのには十分である。
目を細め、彼女は機を狙っていた。
それはまるで、獲物を狩る雌獅子の如く。
―――――さらに、それを見ているものがいる。
それは空を飛ぶ燕だった。
それは丘にたたずむ羊だった。
それは安楽椅子に座る少女だった。
見ている。
待っている。
――――その時を。
「お隣、いいかしら」
アリスは瞬いた。
金色の瞳が、瞼の下で青に戻る。
『聞き間違いかしら』という顔で、「聞き間違いかしら」と口にした。
「では、ここにいるわたしの姿は見間違い? 」
女は、小首をかしげて少し笑うと、椅子を持ってきて彼女の隣に座った。
背後で扉が閉まる音がする。『隠者』が一言も発さずに姿を消すと、ここは真にかつての友がふたり肩を並べているだけになる。
「……こんな、簡単に? 」
「居場所さえわかればいつでも会いに来られるわ。だってこの国は、わたしが作ったわたしの国だもの」
エリカ・クロックフォードは窓の外を見ながら穏やかに微笑んだ。
村の外、丘の向こうの灰色の空に、不自然な光の筋が何度も引かれては消えていく。
遠く、壁が軋むほどの轟音が締め切った室内にも届いている。
「わたしはこの国を、あなたのための国として三千年かけて整えてきた。この第十八海層に生きる人。魔力に満ちたすべての土地。星の動きもあなたの居場所を教えてくれる。わたしが作った、あなたのための檻になる」
「……いい魔女っぷりね。勇者さま」
悪魔は笑った。
「―――――この勝負、わたしの勝ち」
「捕まっちゃったぁ」
―――――この上なく晴れ晴れと笑った。




