3 引力★
今年はじめての更新になりました。遅れてすみません!
あとがきに、いただいたファンアートをめっっっちゃくちゃ載せています。
ページが重いかもしれません。
世界的にそうであるように、この二十年では、大いなる変革の『うねり』があった。
長らく神秘に包まれていたフェルヴィン皇国では、皇子たちの留学がそれだったし、『魔法使いの国』においては廃嫡された皇太子が起こした内乱と、古典趣味の老人たちが皮肉気に『上層趣味』と称した技術改革が、『うねり』によって引き起こされていた。
ステラ・アイリスは、そんな『うねり』の申し子ともいえる人物の一人である。
ヴァイオレットの通う『ラヴリュス魔術学院』の卒業生だ。
母は子爵家令嬢、父は平民のフェルヴィン人で、たぐいまれな体格がそれをあらわしている。
生まれてすぐに母の生家である子爵家で、子女として養育されることになったステラは、学院にて破天荒な逸話を残した。
特に、上層ではすでに定着しているラジオ文化を取り入れた昼休みの校内放送は、自身が企画立案、司会を務めて人気を博し、卒業後はその人気と成功を使って、国内全土に娯楽放送を広めるために活動。多くの学院卒業生からの支援を受けながら、十年かけて『アイリス放送局』を設立、初代局長に就任した。新聞の見出しから引用するなら、『若者たちの革命家』。
いわば陽王エドワルド派が推進する『革新派』で、旗印の一人となっている貴族だ。
『陰王派』こと『保守派』は、古い体制の貴族が中心になっているため、ステラのような、貴種に属しながらも民衆の支持を受けているというのは、それだけ特別で、重要な人物ということになる。
「でもアタシは、自分では中立派寄りのつもりなんだよねェ。だってアタシの同窓には、陰王アイリーンがいて、その夫と、従者筆頭のライト夫妻は可愛い後輩なんだから。たしかに先輩には陽王エドワルドがいるわけだけど、あの世代の学生ならみんなそうだろ? アタシはむしろ、のちのち『陰王派』って呼ばれるやつらと仲良しだった。
それが何の因果か、『革新派』の旗印にされてる。大人の世界ってのはさ、複雑で困っちまうよねェ。アハハハハ」
自動車の向かいに座るステラは、蛇のように笑いながら、口の端でパイプをふかした。
緊張するヴァイオレットとアルヴィンは、この車はどこに行くのだろうと考える。
ステラについていくと決めたのはヴァイオレットで、アルヴィンは『もしも』の時には天井を破ってみせようとソワソワしていた。
「パピー、あんたのオツムでも分かってるだろ? 『革新派』こと陽王派と、『保守派』こと陰王派。どっちがどうヤバくて、『どっちか』に決めるのがいかに難しいか」
「どっちも次の世代のことは考えてない……って、学校だとみんな言ってます。
革新派みたいに科学と魔術を混ぜて考えると、神秘が薄れて魔法は衰える。でも、保守派みたいに魔法を守るために国を閉じれば世界の国から置いていかれて、戦争や外交で負けるって」
「さすが魔術の最先端の名門校! アンタみたいな下級生でも、魔法がどう衰えていくか分かってるんだ!
アタシの世代でもそうだったよ。旧皇太子の内乱の前だった。いろんな貴族子息や子女が、元皇太子の戦争準備について、いち早く噂したもんさ。まだ国内のどの新聞社も掴んでやしなかった情報が、ゴロゴロ噂に上がってた。宮中と同じくらいの速さでね! ラブリュスはそういう場所だから、名門はこぞって子供を通わせる。それだけの利益があるからなのさ」
ステラは革張りのシートをパンパン叩いた。
「アタシはラブリュスのその校風が好きさ! あの学院を構成するすべてのものを愛してるし、尊敬してる。アタシ自身も、卒業生として誇れる行いをしたい。愛しのアイリーンや、可愛いプリンセス・シオン、フランクとミイの素敵な子供たちの味方でありたい! 未来があるのは、陰王派や陽王派なんてくくりじゃなくって、アンタたち若者たちの、それぞれの幸せの中だと信じてる! 」
ヴァイオレットは気圧されて、目をパチクリさせた。買ったばかりのスカートを握りしめて、意を決して口を開く。
「でも、ステラおばさまは、うちには来てくださらなかったわ。サマンサ領主館に訪問されたのは、両親の結婚式でだけ。おばさまは確かに毎年二回カードをくれたけど、そんなの貴族はみんなやってる社交辞令だと思ってた」
「子供たちに年末のプレゼントも贈ってた」
「五歳の木馬まででしょう? 」
「ほんとうの魔女は六歳になったら修業を始めるものさ。おまえのお兄様には、いまだに毎年贈っているよ。おまえのご両親は息子にプレゼントも贈ってやれないからね。かわりに、アイリーンの友として贈ってた。子供へのプレゼントは祝福のあかしになる。実をいうと、ライト家との交流を秘密にしてきたのは、サリヴァンとの繋がりを作るためだ。ウチの放送局が、革新派に属しているのもね。
言ったろう? アタシはアイリーンとライト家という『個人』が好きで、守りたいのさ。それが明るい未来に繋がると信じてる」
ヴァイオレットは頭を振った。
「そんなの、お兄様がいないここでは証明のしようがないことよ。この最新式の自動車が到着したら、陽王陛下の近衛兵たちが待ち構えてるかもしれないって、そう思ってる」
「いやに慎重だ。もっと直感的な娘だと訊いていたのに、意外だねぇ」
「待っているだけです。神様はあたしに何をさせるために、この車に乗せたのか」
ヴァイオレットは、ジッとステラを見た。ステラは煙を吐き、値踏みするようにヴァイオレットと見つめ合う。
「神様っていうのは、陰王のことかい」
「そんなの分かんないわ。ただ、あたしには良くしてくれる神様がいるってことだけ分かってるの。あたしを大空に誘ってくださって、友達がいるところまで導いてくれた神様が。今もジッと見守ってくださっていると感じるの」
「……あれまぁ、話には聞いてたけど、驚いたねぇ。いっぱしに大昔の魔女みたいなことを言いやがる。そりゃまったく、古の巫女様が言うことだよ。おとぎ話の中にいる、偉大な魔法使いたちが口をそろえて信じた指針だ。アンタは大地や大気に宿る神々の声が聴けるんだねェ。それでも陰王が選んだのはサリヴァンのほうなんだから、神々の考えることは本当に分からないもんだよ」
アルヴィンは、(おや)と思った。ステラの眼差しが変わったように思ったからだ。目を細めてヴァイオレットを見つめる瞳は、優しい大人の――――姉や兄が、自分に向けるものだった。
「あたしの子供じゃないけどね、誇らしいことだよ。実をいうと、あんたの父親には、このままアタシの屋敷であんたを匿うように言われてた。アンタは言われた進路を逸らして進むハメになったし、ラブリュスでは山火事が起こり、亡霊どもが目撃されて……当然、アタシもそうするべきだと思った。でも気が変わったよ」
ステラはシートを二人分占領していた体を、まっすぐに座りなおした。
「――――エドワルド陛下に謁見できるって言ったら、アンタはどうする? 」
アルヴィンは、無い背筋がゾクリとした。
まるでステラに、神さまがそう言わせたように感じたからだ。
『運命だわ』と、今までの道中で、ヴァイオレットは何度も口にした。『導かれている』とも。
そういえば、『ステラ』は『星』という意味だった。
(……『星』も彼女も、ヴァイオレットのもとに導かれている。それは神の手によって……? )
ヴァイオレットは言った。
「……行くわ。もちろんよ」
◇
汽笛の音と煙が、雨が降り出した大気に伸びた。
ハイヒールを鳴らしてホームを歩くステラは、目にも鮮やかなブルーのタイを巻き、オレンジ色のドレスを着ている。
細長い身体を折りたたむようにして汽車のドアをくぐる彼女を追って、トランクを抱えたヴァイオレットと侍従のふりをしたアルヴィンは、堂々と『王都行き』に乗り込んだ。
コンパーメントに乗り込んで、車窓の景色が動き出すと、アルヴィンはこっそりヴァイオレットにメモを見せた。
『僕、汽車に乗るのは初めてなんだ』
「……だと思った! なら楽しむべきよね! 」
ヴァイオレットは窓を開けると、見えはじめた青白い城壁の線を指差し、「あれが王都アリスよ」と、目をきらきらさせて言った。
今回のお話で、『星よきいてくれ』シリーズ累計五十万文字になりました。10万文字ごとに、うまい『区切り』を作れたらなぁと思います。『次巻へ続く!』みたいな。
第二部の三章ラストは、それにふさわしい終わりにできたのではないでしょうか。ドキドキワクワクな『次巻へ続く!』をできていたら嬉しいです。
では、さぼりにさぼりまくって、とんでもない量になったファンアートをご紹介させてください。
みなさま、ご紹介遅れてすみません!
なんと、『私の妻と、沖田くん』『僕らは数字に踊らされている』『鉱石家の人々』などなどの、九籐朋さまよりいただきました!この原画、実は我が家にあるのですよ……もらっちゃいましたよ……うふふ……(*´艸`*)
ごんのすけさんからいただきました!
ごんのすけさん、『精霊と共に地に満ちよ、竜と共に空を駆けよ――そして“知識”は人へと宿る――』『山下水と呼ぶには熱く、』『僕の親友はとってもおいしい』などなどなど、本格ファンタジーにBLに百合にと、めちゃくちゃ精力的なのです。(わたしは『僕の親友はとってもおいしい』が好きなのです。おすすめファンタジー! )
いつも考察をワクワクしながら拝見しているので、Twitterで検索してみてくださいね。
二次創作小説もいただいております。学パロですよ!
星よ聞いてくれ:IF 多元宇宙に輝く星よ、君たちに幸あれ!(https://novelup.plus/story/778201387)
志茂塚ゆりさんからいただきました!アルヴィンとミケのあのシーンが蘇る……。
ゆりさんの『月下のアトリエ』はとてもとても好きなファンタジー作品です。
入鹿なつさんからいただきました!麗しきダッチェス……!
なつさんの『白金のイヴは四大元素を従える』、大好きなファンタジー世界を感じる、ヒロイックなロマンス小説です。おすすめ!
い~~っぱいあります!きりしまさんからいただきました!たぶんまだフォルダにあるのですが、どれを載せてどれを載せてないのかももう分かりません!
めちゃくちゃありました……。
『星よきいてくれ』は、びっくりするほどファンアートをいただいたりして、この作品は私にとっての財産だなぁとしみじみ思います。
今まで読んでくださっているたくさんの読者様、そしてこれから出会う読者様に、大きな感謝を。ありがとうございます。
これからも『星よきいてくれ』応援のほど、よろしくお願いいたします。頑張ります。




