11 期待と疑惑
「……」
「我が自己紹介したというのに、無視とは何事だ? 我はお主の態度で少し胸が痛いぞ」
どうぞどうぞ、ご勝手に心を痛めて下さいな。私は緑菜の取り巻きとの目力の戦いに忙しいんです。
後ろで私を睨んでいるのは、さっきも述べたように緑菜の取り巻きのお嬢様方だ。目元がキッと上がり私に対しての威嚇心をむき出しにしている。
緑菜は攻略対象で、適正属性は“土”。彼は比較的早い生まれで言葉も達者。確か伯爵の御子息だったはずで、それゆえに女子園児から早くも狙われている。しかも、彼はお顔が大変整っているので、私でもお嬢様方から狙われるのも分かる。
そんな後ろの方々の熱い視線にも気付かないほどトンチンカンな緑菜は私から魔法指南書を奪い、中身を見ると眉間に皺を寄せる。
考えるそぶりをすると緑菜はその本を乱暴に私の鞄にしまった。あ、それ年代ものなんで高いんですけど……。
そして、未だに私に魔法について問い詰めている。
「のう、お主? その目はやっぱり呪われた刻印とかが刻まれているのか、はたまた魔法の発動で暴走したものなのか? 頼む、この通りだ。我に免じて教えてくれはしないか」
私は顔を引き攣らせて微笑む。彼の言っていることは前者も正しく、後者は限りなく正解に近い。ただの厨二発言だろうが、その厨二要素が備わっている私はどうなるのだろうか。
考えるだけで頭が痛くなり、こめかみを押さえる。
目の前には何故か土下座をして私の目を見せろと頼み込む……いや脅迫する緑菜がいる。
「この髪は前髪を切るのを忘れていただけですわ。そんなオプションなどついておりません、ご期待に沿えず申し訳ありません」
前髪をお納得がいかない緑菜は黙り込む。すると、緑菜は何かをブツブツと唱え始めた。
私が首を傾げていると彼の口元は弧を描いた。
「そうか。ならよい」
流石は伯爵の息子、といったところだろうか。これ以上付き纏うのは迷惑だと察し、己から身を引いた。
思わずほぉ、という感嘆の声を漏らしてしまったがこれは仕方のないことだろう。
「ならば、我と友達にならないか? 残念なことに我には友達というものが存在しなくてな。転入してきたお主なら友達になれると思うんだ」
はにかみながらに友達、という言葉を強調する緑菜。おばさんにとっては可愛らしいお願いしか聞こえません。
だけど、私は四歳児! 四年しか生きていない、あくまで四歳を突き通すのだ。
何より貴方には後ろに目つきの悪いお友達が沢山いるではありませんか。
「ええ、喜んで。これからよろしくお願いしますわ」
いや、確かに関わりたくはありませんが少し、少しだけ友達が欲しいとも思っていたのだ。
口が勝手に動いたんです。そんな私達を見て桜ちゃんが歯ぎしりをしている。きっと緑菜と話したいのだが、私に先陣をきられて嫉妬しているのか。
仕方ない、友人のために出会いの場を作ってやりましょう。
(素直じゃありませんね)
(うるさいよ、水。利発な園児は自分の心を表にださないの)
ふ、と笑う水。少しだけ声色が楽しそうだ。そんな水の笑い声に浸りながら私は本に視線を落とした。それ以降私に話しかける強者はいなかった。
そんなこんなで帰宅時間になった。主に本ばっかり読んでいたが、今日は先生の話で驚いたことがある。この魔法学院の幼稚所、初等部、中等部、高等部まとめてゴールデンウィークに社交パーティーが行われるらしい。
縁を深めて、お偉いさんに媚を売る大人が想像できるが初めてのことなのでわくわくする。
主にダンスを踊ったり、中等部以降からパートナーというものも組めるので告白イベントが見境なく発生しそうだ。
パートナーというのは、男子生徒がペアリングならぬペアブレスレッドを女子生徒に直接手渡すことで成立する。組んだその相手以外とは踊れない恐ろしい条約があるのだが利点もある。そうなれば二人は学校公認のカップルになれるのだ。
組めなかった者は組めなかった者同士色んな人と踊ったり友情を深めることができる。先生もそうだったらしいが寂しくはなかったんだぞ、と力説していた。……先生が涙目であったのは触れないであげようと思う。
私は幼稚所なので関係ないが、毎年会場でいきなりペアリングを差し出すという者がいるらしいのでそれを考えるとニヤニヤする。若い盛りの過ちってとても心がときめきますよね! 後はバイキング目的で参加するだけだが、楽しみではある。
「遥ちゃん遥ちゃん!」
「あら、何かご用時でも?」
やたらとハイテンションに話しかけてくる桜ちゃん。
「あのね…私と一緒にダンスパーティーに行きませんか?」
なにこの子。可愛い。
頬を赤らめて、俯く彼女は小動物を思わせる。そういうのは私じゃなくて殿方に、殿方にやってくれよ!
私は首を縦にふった。何故、と問われれば間違いなくこう答えるつもりだ。
(姫様は群れるのが嫌いでしょう、何故なのです?)
(勿論、気分に決まってるじゃん!)
(…愚問でしたわ)
「やった! 遥ちゃんのエスコート楽しみ!」
桜ちゃんはスキップ気味に帰りのリムジンに乗っていった。え、ちょっと待って。私男装をしなくてはならないのですか。
はっきり言って利益はないが彼女の笑顔が見られるのであれば私は喜んで男装でもしよう。初めての友達というものは何よりも大切だから。
「白崎さん、ちょっとお話があるの。いいかしら?」
「はい?」
ニヤニヤをひきしめ、先生に呼ばれて反射的に返事をした。
何かやらかしただろうか。否、そんなはずはない。
よく分からないまま長い廊下を先生と、とぼとぼ歩いていった。




