番外編 天音---空の名を持つ男 3
—あれから10数年。
蒼真は連盟の執事として、一ノ瀬陽葵の専属執事となっていた。
今日は澪の命日だ。
澪の墓には蒼真が先に来ていた。
蒼真の添えた花の隣に自分の花を添える。
澪の好きなすずらんだ。
花を添え、目を閉じ、澪と話をする。
澪を失ったあと、蒼真が笑顔を見せてから私の力は変わっていた。
—全てを見通す力。
守る契約が失われ、変わりに未来や知らない場所が分かるようになっていた。
未来、と言っても人の運命は見えない。
それはその人の行き方で変わっていくからだろう。
—澪、蒼真は覚悟を決めて来たようだ。
—君の隣に行ったら、抱きしめてやってくれ。
「さて、どうする?」
「とりあえず、どっか話せるところ」
蒼真の話は見通す力でだいたいの事はわかっている。
他の人には聞かれたくないだろう。
車のエンジンをかけると蒼真は「どこ行けばいい?」と聞く。
「神代の別荘に行きましょう」
「…神代…ね」
蒼真は別荘にあれ以来、行きたがらなくなった。
それはそうだろう…。
だが、だからこそ、あの場所で蒼真の話を聞く必要がある。
「限界を超えて守るって、命掛けるってことじゃん。だからさ…」
「もしもの時、おれは守るために死ぬ」
蒼真の覚悟だ。
澪にも、俺は聞いて欲しかった。
1人で聞くのは辛かった。
でも、蒼真は自分の守るものの為にその道を選んだ。
怒ることも、嘆くことも、俺はしない。
蒼真、澪の名付けた通りの真っ直ぐな男に育ってくれたね。
—ありがとう。
立ち上がり、窓から庭を見る蒼真の背中を見ながら
俺は呟いた。
「……お前は、俺よりちゃんと生きろよ」
蒼真には聞こえていないだろう。
それでも…。
「呑まないか?」
「いや、俺は運転が…」
「大和を呼ぶ」
親父が橘さんを大和と呼ぶのを聞いたのは久しぶりだった。
ああ…この人、やっぱり辛いんだ。と蒼真は思った。
完璧に見えて、1人酒を飲んではずっと静かに泣いていたのを俺は知っている。
「…いや、やっぱり、いい」
せっかくだし、飲もうかとも思ったが…。
ここ最近の親父は飲むと年のせいか泣き上戸でめんどくさい。
「シラフで付き合うわ」
ニッと俺は笑った。
素の親父に戻る時、悲しみも苦しみも、覚悟も背負う親父と俺はそのままの俺で居たかった。
だって、俺も本気で飲むと泣くし、ベロベロで陽葵の元に帰りたくないし。
「来年は付き合え」
親父はそう言うと、ゆっくりと酒を飲み始めた。
—守ってきたものが覚悟を決め巣立つ時。
自分も、過去から旅立つ時なのかもしれない。
※天音編 END※




