番外編 なぜ蓮は犬に好かれるのか(そして蒼真もだいたい好かれる)
本編とは関係のないほのぼのとしたお話です!
昼下がり——
屋敷の庭。
「……かわいい〜!」
陽葵がしゃがみ込み、目を輝かせる。
庭に迷い込んできた一匹の犬。
人懐っこいのか、尻尾を振りながら辺りを見回している。
「野良か?」
少し離れたところで蒼真が呟く。
その時だった。
犬が、ぴたりと動きを止める。
そして——
一直線に駆け出した。
向かった先は。
「……?」
黒瀬蓮。
「えっ」
陽葵の声が漏れる。
犬は迷いなく蓮の足元に駆け寄ると——
尻尾をこれでもかと振りながら、体を擦り寄せた。
「……」
蓮は、少しだけ目を瞬かせる。
「……どうしました」
落ち着いた声。
だがその瞬間、犬はさらにテンションを上げた。
「は???」
蒼真の素っ頓狂な声が響く。
「いやなんでだよ」
犬は蓮の足元にぴったりと寄り添い、
その場に座り込むと、じっと見上げた。
まるで——
「撫でていいぞ」と言わんばかりに。
蓮は少しだけ間を置いてから、
そっとその頭に手を置いた。
優しく、ゆっくりと撫でる。
その瞬間。
犬は安心したように目を細めた。
「……すごい」
陽葵がぽつりと呟く。
「なんでこんな懐いてんの?」
蒼真が腕を組みながら眉をひそめる。
「餌でも持ってんじゃねぇの?」
「持っていない」
即答。
その時だった。
もう一匹。
さらにもう一匹。
いつの間にか、庭に犬が増えていた。
「増えてんだけど!?」
気がつけば——
蓮の周りには犬、犬、犬。
完全に囲まれていた。
「……」
蓮は静かに立っている。
その足元で、犬たちは満足そうにくつろいでいた。
「なんだこの光景……」
蒼真が引いた顔で呟く。
「……怖くないんだね、この人」
陽葵の一言。
「え?」
蒼真が聞き返す。
「この人、怖くないから。安心して寄ってきてるんだと思う」
その言葉に、少しだけ沈黙が落ちた。
「……」
蓮は何も言わない。
ただ、変わらず犬の頭を撫でていた。
「……昔から、動物だけは寄ってきます」
ぽつりと、そう呟く。
「へぇ」
蒼真が鼻で笑う。
「人より好かれてんじゃねぇか」
その時。
一匹の犬が、蒼真に向かって勢いよく飛びついた。
「うおっ!?」
そのまま、じゃれつく。
噛む、引っ張る、飛び跳ねる。
「ちょ、待て待て待て元気すぎだろお前!」
蒼真は笑いながら犬を受け止める。
「ははっ、いいな!お前!」
さらにもう一匹。
そしてもう一匹。
「おい増えんな!」
気がつけば、蒼真の周りも犬だらけだった。
「……騒がしい」
蓮がぼそりと呟く。
「うるせぇな!こっちは人気者なんだよ!」
「遊ばれているだけです」
「はぁ!?」
陽葵は、くすっと笑った。
「2人とも好かれてるけど、違うね」
「まぁ俺は楽しい担当だからな」
蒼真がドヤ顔で言う。
「……落ち着きがないだけです」
蓮、即座に切る。
「てめぇ……!」
その時だった。
一匹の犬が、すっと蓮の膝の上に乗った。
「……」
蒼真、固まる。
「……は?」
犬はそのまま、蓮の膝の上で丸くなった。
完全にくつろいでいる。
「……勝負あったな」
蓮が静かに呟く。
「待て待て待て待て」
蒼真が慌てて立ち上がる。
「それはズルいだろ!!」
陽葵は楽しそうに笑った。
「どっちも優しい人だね」
その言葉に、2人は一瞬だけ言葉を失う。
犬たちは、そんな2人の間に自然と集まり——
静かに、くつろいでいた。
――動物は、すべてを見抜いている。




