41 お茶飲み
41 お茶飲み
「来たわね、ホワイトさん」
ドロシーがにやにやしながら迎えに出てきた。
その顔を見た瞬間、ああ、今日は、からかわれる日だなと悟る。
「やめて。マーシーでいいって言ってるでしょ」
わたしは肩をすくめて答えるけど、ドロシーはまるで聞いていない。
「だって、お貴族様の家を買って引っ越したんだもの」
わざとらしく言ってくる。
「それは商売がうまくいっただけ。たまたまよ」
「畏まりました、ホワイト様」
ぺこりと深く頭を下げる仕草までつけてくる。
「もう、意地悪いうなら……」
わたしは腕を組んで、少しだけもったいぶってから言った。
「とっておきの噂話、してあ・げ・な・い」
ぴたりと動きが止まる。
「ごめんなさい、マーシー」
「許して」
「聞きたい」
「お願い」
ドロシーだけじゃない。部屋の中にいたアビー、ケティ、ミリーまで一斉に頭を下げてきた。
その必死さに、思わず笑ってしまう。
「もう、しょうがないわね」
今日は、こうやっていつもの顔ぶれで集まるお茶の時間だ。
ドロシーの家の居間は、昔から変わらない。少し狭くて、でも落ち着く場所。焼きたてのお菓子の甘い匂いと、紅茶の香りが混ざっている。
お茶会なんて気取ったものじゃない。ただの集まり。でも、だからこそ気が楽で、心地いい。
カップを手に取りながら、わたしは話し始めた。
「それがね。この間、隣の国の王子様が来て園遊会があったでしょ」
「うんうん」
アビーが身を乗り出す。
「そのとき、継子いじめの話を聞いたって言ったでしょ」
「言ってたわね」
ミリーが指を立てて思い出す。
「それがね、継子じゃなかったの」
一拍おいて、わざとゆっくり言う。
「実の娘だったのよ」
「え?」
四人の声がきれいに揃った。
「実の娘に古着を着せてたって話?」
ミリーが眉をひそめる。
「それそれって言いたいけど、違うの」
わたしはカップを置いて、さらに声を落とした。
「古着じゃなかったのよ」
「は?」
「なに?」
「どういうこと?」
「買ってたってこと?」
質問が一斉に飛んでくる。
わたしはゆっくり首を振った。
「買ってたんじゃないの。作ってたの」
一瞬、沈黙して、お互いの顔を見ていた。
それから「は?」「なにそれ」「意味わからない」
「その人馬鹿なの?」
四人の反応が、まるで合わせたみたいに揃う。
思わず笑いそうになるのをこらえる。
そう、その反応が欲しかった。
「でしょ? おかしいでしょ?」
わたしはテーブルに身を乗り出した。
自然と四人も同じように前のめりになる。
「それでね。わたし、その仕立て屋に行ったの」
「行ったのね」
ドロシーの目がきらきらしている。
「予約して、ちゃんと時間も取って」
「うんうん」
「そしたらね。その人たちが来たの」
「えぇ?」
「来たって?」
「すごい偶然よね」
四人の視線が一気に集まる。
「店の奥の部屋で待ってたのよ。わたしとルビーが着いたときには、もう座ってて」
あのときの空気を思い出す。
重たい沈黙。ぴりっとした空気。
「正直、思ったの。あちゃ、予約してても後回しにされるのかなって」
「そりゃ思うわね」
ケティがうなずく。
「でもね、違ったの」
わたしは少し誇らしく言った。
「ちゃんと、わたしの方を先に案内してくれたのよ」
「え?」
「じゃあ、その人たち待たされたの?」
「そう。待たされてたの」
「継子いじめの人が?」
「だから、実の子ね」
「それそれ」
くすくすと笑いが漏れる。
「でね」
わたしは声をさらに落とした。
「怒って帰っちゃったの」
「帰ったの?」
ドロシーが目を丸くする。
「ええ。店の人がね、『予約がないので順番です』って、きっぱり言ったの」
あのときの店員の落ち着いた声を思い出す。
「そしたら、顔真っ赤にして」
「うわぁ」
「でも無理なんだって」
「当然よね」
「最後にね、『騒がせて申し訳ありません』って、こっちに謝られたの」
「ふーーん……」
四人が一斉に腕を組んで考え込む。
しばらくの沈黙を楽しむ。
それから、ドロシーが顔を上げた。
「で?」
にやりと笑う。
「どんな人だった?」
四人の視線がまた揃う。
期待に応えましょう。
わたしは少しだけ息をついて、あのときの光景を思い浮かべた。
「そうね」
ゆっくりと言葉を選びながら、続けた。
「一言で言うなら……」
カップに残った紅茶が、わずかに揺れる。
「自分が一番だって、疑ってない顔をしてたわ」
その瞬間、四人の顔に同じ理解の色が広がった。
そして、
「うわぁ……」
小さなため息と一緒に、また笑いがこぼれた。
いつも読んでいただきありがとうございます!
誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。
とても助かっております。
楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。
それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。




