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春の避暑地で  作者: 朝山 みどり


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29 様子がおかしい

29 様子がおかしい


夜会の会場は、いつも通り眩い光と音楽に満ちていた。

シャンデリアの光が宝石のように揺れ、笑い声とグラスの触れ合う音が絶え間なく広がっている。


それなのに。


今日は、なんとなく、ちぐはぐだった。


「ねえ、今の曲、素敵だと思わない?」


隣に立つ友人に、わざと明るい声で話しかける。

いつもなら、ここで話が弾むはずなのに。


彼女はちょっと周りを見て、小さな声で


「あ、ええ、そうね……素敵だわ」


言葉は返ってきたけれど、どこか上の空だ。

そのまま彼女は落ち着かない様子で周囲を見回し、小さく息を吐いた。


「……あ、あちらに叔母が来ているから、失礼するわ」


どうしたって言うの?


仲間になりたがって、いつもわたしの後ろをついて歩き、ちょっとした冗談にも大笑いしていたのに……


彼女は人混みの中へと紛れていった。


まぁ、いいけど。


だけど、取り残された感覚に、胸の奥がじわりと冷える。


今日は、集まるお友だちが少ない。

その分、わたしたちは大きな声で笑い、いつも以上に場を盛り上げた。


けれど、輪の中にいる仲間たちも、どこか距離を取っている。


「どうしたの? なんだかみんな、静かじゃない?」


わたしが声をかけても、誰もはっきりとは答えない。


「いえ、別に……」

「少し疲れているだけよ」


そう言いながら、視線は合わない。


その中でも――


友人のなかで一番、お金持ちで身分も高い三人は、最初に挨拶をした後、三人で壁際で固まって動かなかった。


最初は三人でなにやら、深刻に話していたけど、今は三人で笑っている。


どうして、こちらに来ないのだろう。


来ないなら、こちらから行ってあげようと思ったけど、甘やかしてはいけない。


向こうから、こちらに来るのが筋よね。



いつも中心にいるのは、わたしたちよ。


新時代のわたしたちは、誰よりも目立って、誰よりも先を行く存在でいなければならない。

そうでなければ意味がない。


なのに。


――おかしいわ。


胸の奥に、不快なざわめきが広がる。


いつもなら、わたしとテリウス様が並んで現れれば、自然と視線が集まる。

羨望と嫉妬が入り混じった、あの甘い空気。


「お似合いの二人ね」

「さすがだわ」


そんな囁きが、まるで祝福のように降り注いでいた。


けれど今日は違う。


視線が――通り過ぎていく。


まるで、存在しないかのように。


「ねえ、テリウス様……何かおかしくありません?」


隣に立つ彼に、小声で問いかける。


彼はわずかに眉をひそめ、周囲を見渡した。


「……ああ。妙だな」


低く抑えた声。

その表情には、わずかな苛立ちが滲んでいる。


そのとき。


「……やはり、妹さんの方は」

「比べると、ねえ……」


耳に入ってきた囁き声に、体がぴたりと止まった。


「……今、なんて?」


振り返ると、会話をしていた令嬢たちは慌てて口を閉ざし、視線を逸らす。


空気が、明らかに変わっている。


胸の奥が強く脈打つ。


ふと、ホールの奥――人だかりができている場所に視線を向けた。


ざわめきの中心。


人々が自然と道を空けている、その先に――


信じられない光景があった。


「……お姉様?」


思わず声が漏れる。


そこに立っていたのは、間違いなくお姉様だった。


地味で、暗くて、壁際に立っているのがお似合いだったはずの人。


それが、まるで別人のように、洗練された装いで微笑んでいる。


ドレスは上品でありながら目を引き、立ち居振る舞いには無駄がない。


その姿は、誰よりも自然に空間に溶け込みながら、確実に中心に立っていた。


そして、その隣には――


「アレクサンダー様……」


彼が、影のように寄り添っている。


守るように。

支えるように。




なにが起きているの?

どうして、あそこにいるの?

どうして、取り囲まれているの?


誰かが小声で言った。


「本当に美しいわ……」

「いままでの衣装は、多分」

「えぇ、みなもそう言ってる」

「あそこで、ご令息たちが悩んでいたわね」

「うん、なんか、可愛い意見で笑えたわ」




わたしは一歩、踏み出そうとしたけど――止まった。


足が、動かない。


まるで、見えない何かに押しとどめられているみたいに。


視線だけが、お姉様から離れない。


その微笑みが。


あまりにも、余裕に満ちていて――


ぞくり、と背筋が冷えた。


いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

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