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コメディ、その他+α(短編)

勇者召喚したら現役引退12年目のベテランお姉さまが来た。日出る国の伝説だった。

作者: いのりん

過日、別作品に頂いた感想を拝読して、どうしても書きたくなったお話です。

 聖歴2008年


 ラリー・ルレーロ王子は、海を隔てて交流のある友好国から習っていた召還魔法陣に向かい、必死に念じていた。

 



「テニス選手来い!強いテニス選手来い!」




 なお、この魔法陣の召還者ボーナスは翻訳機能のみであり、勇者は召還後自力のみで闘わなくてはならない。

 

 しかしそんなタフな条件にも関わらずこの世界は過去に二度、異世界から召還したテニス選手によって救われていた。






 テニス


 それは異世界のメジャースポーツ




 相手のコートにボールを叩き込み得点を重ね先に六ゲームを先取するか、相手にボールを叩き込んでKOすることで決着となる。最強チームを結成せよ。








 かの競技でハイレベルな試合に勝つには、さまざまな能力を高水準で備えている必要がある。




 例えば、短距離走者の瞬発力、長距離走者の持久力、軍師のような戦略眼、格闘家並の反射神経と動体視力、修験者並みのメンタル、医師に匹敵するコンディション管理技術、人知を超えた必殺技などだ。


 それはそのまま、勇者として必要な能力でもあった。




 一度目はランダムに勇者召還した際の偶然だった。


 二度目は条件に「テニス選手」と設定しての必然だった。




 一度目に召喚された男は後に「太陽神」と呼ばれた。


 彼のポジティブなエネルギーは周囲の心を温め、また「もっと熱くなれよ!」とラケットを振る摩擦熱で上級魔法を超える業炎を産みだすことができた。




 二度目に召喚された男は、本名と能力を合わせて「エア・ケイ」と呼ばれる人気者だった。


 彼は空気の刃を飛ばしたり、敵のまわりの酸素を無くしたり、空を飛んだりすることだってできた。






 二度あることは三度ある。


 再び世界が魔王の脅威にさらされた今、ルレーロ王国は再び異世界からテニス選手を呼び、ともに戦ってもらおうと考えていた。




 召還は多大な魔法石が必要となる。

 一発勝負。頼むから成功してくれ。

 


 かくして願いは聞き届けられる。

 召還魔法陣から現れた勇者を見て、


「嘘だろ……」


 ラリー王子は絶望の表情を浮かべた。



 なにせ現れた人物は、もし外見どうりなら自分の母親と同じくらい年を重ねており、


「ここは……あら、これってまさか異世界召喚と言うやつ?まさか私が呼ばれるとはねー」


 そして女性だったのだから。





 召喚された女性はこの世界について知っていた。どうやら『太陽神』と、少々交流があるらしい。

 そういえば「エア・ケイ」も召喚された時、「その太陽神は、たぶん僕の先生です」とか言っていたという。

 凄いな、太陽神の人脈。



 もしかして、と一縷の望みを託して聞いてみたが、やはり彼女はテニス選手ではないらしい。


「いやあ、12年くらい前まではバリバリやっていたんだけどねー」


 いや、なくなったという方が正確か。しかしまあ、結果は変わるまい。


 なにせ彼女は、遠い日々を懐かしむ顔をして満足気に語ったのだから。


 引退直前はとにかくもう疲れてた。本当にテニスが、それこそ嫌いだった。

 現役引退後はさまざまな習い事に挑戦した。お茶、ペン習字、料理、着付け、ぬか漬けも漬けた。あと美白に目覚めたときもあった。「それまでできなかったことを全部やった」と。


 最後に「肌はまた黒いけどね」と悪戯っぽく笑い、話を纏めた彼女。

 つらい戦いも、楽しい経験も、沢山してきたことが伺われた。

 目尻のほんの小さな笑い皺は、年齢相応の色気と愛嬌を感じさせる。


 同世代の小娘にはないオトナ女性の魅力にドキッとするラリーだった。




 が、ラリーの初恋が始まったことなど今はどうでもいい。





 世界は終わった。魔王は精強だ。


 勇者の助力なしではとても勝てない。




「太陽神様のご友人でしたか。しかし、とっくに引退していた女性を死地に召喚してしまい、申し訳ありません……せめて国力が尽きるまでは王宮にて守護させて頂きます……」


「いやいや何を言っているの、私も戦うわよ。」



 努力は報われないことも多々ある…でも努力しなければ何も変わらない。


 そのために呼んだのでしょう?



 部屋に用意してあったテニスラケットを手に取りつつ、良いことをいうベテランお姉さま。

 しかしラリーは「無茶だ」と思う。


 確かに、先程伺った年齢の割にエネルギッシュで若々しくみえる。しかし、武人のピークと言うのは短いものだ、女性ならなおさら。

 例えば精鋭の女騎士であっても、30を超えようものなら、毎日過酷な訓練を続けて何とか衰えを食い止められれば万々歳。

 そこにきて彼女は引退し、12年も経った30代後半の女性だ。なにより先ほど、「引退直前はとにかくもう疲れてた」「本当にテニスが、それこそ嫌いだった。」という言葉を聞いた。


 もしかしたら原始、彼女は太陽だったのかのしれない。

 しかし時の流れと共に、太陽は壮大な夕日となり、いずれ沈むのが世界の理だ。

 沈んだ太陽を今更、再び戦場になど立たせられるものか。


 彼女はなおも何かを言おうとするが、自分の結論は変わらないないだろう。



 と、そこで、


 ドゴオォーンという轟音とともに壁が壊され、敵が現れた。




「うわあ!お、おまえは魔王!?」


「その通り、召還魔法陣の秘密を探るべく、昨日から大臣に化けてこの国に潜伏していたが、秘密裏に勇者が召喚されたのを察知してやって来たぞー!」


「そ、そんな……今日から丸眼鏡が逆三角形になり肩帯がトゲトゲして靴先が尖がっていたのはイメチェンじゃなかったのか。本物の大臣はどうした?」


「変化に生き血が必要だったからまだ生きている。しかし今日、どうせ貴様らは召喚されたての勇者ともども、皆殺しになるのだー!」




 過日召喚された2人の勇者は、召還当初18歳にも満たない青少年だった。それが、数か月に及ぶ戦いのなかで急速に成長していったのだ。


 数か月とはツイストサーブが光る球にインフレするのに十分な時間である。男子3日あわざれば刮目してみよ。




 そこで今代魔王は考えた。召還そのものをつぶす、もしくは召喚されたての未熟な勇者をその場で潰せばよいと。


 完璧な作戦のはずであった。




「なるほど……ということは、貴方を倒せば私は晴れて元の世界に帰れるというわけね。そちらから出向いてくれて、実にありがたいわ。帰りが遅くなると夫が心配するし、大切な記者会見を来月に控えてもいたのよ。」




 強烈なプレッシャーを感じ、魔王がばっと振り返ると、そこには今代勇者がいた。




「な、なんだ驚かせおって。貴様、おそらくテニス選手としてのピークは過ぎているだろう。今の状態で、何ができるというのだ。」


「きっとアナタに勝つくらいはできるわよ」






 戦いが始まった。





 結論から言おう。



 今代勇者は、初代、二代目に負けず劣らず強かった。

 そして、世界の命運をかけたビッグマッチは勇者側の6-0で終わった。


「ライジングショット!」

「ぐおおぉぉ!ば、馬鹿な……」


 膝をつく魔王には2つの誤算があった。




 今代勇者が経験豊富なベテランだっこと。


 そして引退して12年経っても尚、アスリートの強靭な肉体を維持していたことだ。


 なんでも、夫が“じゃあ運動したらダメだからね”って仕事行った瞬間に腹筋始めたりしていたらしい。どうやら、超一流アスリートという人種は体を鍛えることが歯磨きのように習慣化しているようだ。


「それでちょこっとチャリティー大会や全日本選手権に出るぐらいのはずが、ランキングがついてきちゃったから、また海外行き始めたらスイッチ入っちゃった」


 そういって笑う彼女。

 先ほど言っていた予定とは、なんと12年ぶりに現役復帰するための記者会見だそうだ。


 人生経験の浅い王子にはまだ理解できないが、彼女は一度嫌いになろうとも、テニスを「愛している」のだった。



「なるほど、貴様が強いのは認めよう。」


 口から血を滲ませながら呟く魔王。

 しかし、どこかまだ余裕がある。




「「ならばこそ、余も真の力を見せてやろう!」」


 なんと魔王が2体に分裂した!

 そして、姿もなんかこう、先ほどよりも強そうに変わっている。


 この試合は1セット取れば終わりではかった。2セットを先取せねばならぬ、3セットマッチだったのだ。





 2セット目が始まる。





 戦いは一進一退となった。

 しかし、どうやら魔王が若干優勢なようだ。


「ライジングキャノン!」


「ぐわーー!!」

「無駄ムダぁ!」


 彼女の攻撃は通っている。今だって魔王の胸の中心のコアっぽい部分を、確かに撃ち抜き大穴を開けた。


 しかし、再生してしまう。どこを攻撃しても。そして、2体の波状攻撃が徐々に彼女の体力を削り始めていた。


「やるわね......なるほど、さては貴方『2体同時に倒さないと撃破できない』タイプの能力者ね」

「「ほう、見ぬいたか。この短時間で見抜くとは流石だな。なぜわかった。」」

「経験ね。例えば混合ダブルスの世界には、同時に首を切らないと倒せないタイプの兄妹ペアがいるわ」


 ラリー王子は驚き、じゃあ倒せないじゃんと絶望した。


「「ははは、凄いな異世界!だが秘密が分かったところで一人ではどうすることもできまい。私の勝利は揺るがぬ、切り札は最後まで温存していた方が勝つ」」

「そうね、同意するわ。貴方の勝利は揺るがない……という部分以外にね!」


 そういって『気』を開放する彼女。

 そして温存していた切り札を発動した。





「もっと熱くなれよおぉぉぉー!」




「た、太陽神様!?」


 王子は信じられない物を見た。

 かつて世界を救った太陽神。精密画となり各国で崇拝の対象となっているその人が、彼女の隣に突然現れたのだ。


「「な、なんだと!?貴様、なぜ英霊を使役できるのだ!魔法陣に召喚者特典はないはずだぞ!」」

「いやねえ、れっきとしたテニスの技よ」


 そう、王子も魔王も驚いているが、これには種も仕掛けもある。

 既存の技術を組み合わせた、テニスの応用技なのだ。


 テニスには、手前にボールを落とす『ドロップ』、後方に落とす『ロブ』、2人になる『分身』、別人になる『イリュージョン』など、様々な技がある。


 後方の2つは、少々高度な技術だが、アマの中学生にも使えるものはおり、彼女も使用可能だった。


 もちろん、その程度では怪物ぞろいのプロテニス界で生き残ることなどできない。

 しかし、彼女世界の強豪相手に戦うことができた。


 なぜか。


『分身』、『イリュージョン』


 二つの高等技術を組み合わせ、幻ともいえる奥義を繰り出すことが出来たからだ。

 それは『分身』したうちの一体が『イリュージョン』を行うことで、疑似的に太陽の英霊を召喚する技。



 過日、その技はそのまま、日出る国の少女の二つ名にもなった。

 世界中の強豪を次々と撃破し、世界ランクを駆け昇った彼女はこう呼ばれた。


 『ライジング・サン』


 それが彼女の『必殺技』である。




「超・ライジング!」

「竹になろう!!!バンブー!!!」


「「ぐわああああーー!!」」



 『太陽神』と『ライジング・サン』

 かつて世界中を驚愕させた伝説の2人の必殺技が、同時に魔王達のコアを打ち抜いた!

 ゲームセットウォンバイ 2-0 ゲームトゥ ライジング・サン 


 世界の危機は去ったのだ!





「あ、ありがとうございました」


「これでお別れかしら」




 光に包まれ、勇者はゆっくりと消えていく。




 そして




「あ、あの!復帰戦、頑張ってください」


「ありがとう。若い子たちにもいい刺激を与えられるように、頑張るわ!」




 少女の様に爛漫な笑顔で宣言して、元の世界へと帰っていった。



 かくして世界はまた救われた。




 

 なお、これは余談だが



 異世界帰りのライジング・サンは復帰後、「大会で優勝」を皮切りに「15歳の少女と組みダブルス優勝」や、史上初の「40歳台で世界トップ10選手を撃破」を達成するなど、大活躍することとなった。太陽はまた昇ったのだ。


 そして、今回の件で、『年下のオドオド系病弱少女好き』だった王子の性癖は「年上フェチ」、「サバサバ女フェチ」、「アスリートフェチ」に書き換えられ、生涯治ることはなかったという。

あとがき


失恋や別れはウケが悪そうだし冒険要素もあるので、ジャンルは「ファンタジー」とどちらにしようか迷いました。

しかし結局「異世界恋愛」にしました。何せ、魅力的な年上女性との出会い、そして多大な影響を受けた上での切ない別れがある本作。そして王子の甘酸っぱく切ない禁断の初恋……はい、どう見ても異世界恋愛ですね!


いや、すみません。書き上げて投稿の際に「いや、流石に恋愛は…やはりファンタジーか?」と思いつつジャンル直し忘れました。先程ランキング確認して発覚……かたじけない。


※現在はファンタジーに修正しています


そんな本作にもかかわらずポイントをくだった&これから下さる皆様にはジャイアント感謝!次回作への励みになっています。お礼に私、今度こそキチンとした恋愛話書くから……



素敵な感想を多数頂いた同じ世界線のお話はこちら↓

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― 新着の感想 ―
凄いw スポーツに興味が薄い私でも普通に面白いww やっぱりにテニヌは偉大だなぁ。まだまだだね。 つーか、ぎゅう○郎と堕○の兄妹、異世界(じゃなくて日本か。…本当に日本か??)にテニスプレイヤーとし…
タグの「太陽神」の時点で面白そうだと思って覗いた私は偉い。めちゃくちゃ楽しかったです! そしてテニヌ入ってるwもう私が大爆笑である。 とりあえず太陽神の音MADを久しぶりに見たくなりましたw
絶対テニスじゃなくて『テニヌ』選手を召喚してるでしょ!! 勇者の世界ではボールが物理法則の反則をする軌道になったり、ダブルスでパートナーが裏切って「3対1や」とかしてるでしょ!? ブラックホールを発生…
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