勇者召喚したら車椅子のオッサンが来た。最強だった。
この一話は絶対無二の一話なり
されば心身を挙げてご一読されたし
パピィ・プぺポ王女は召還魔方陣に向かって必死に念じていた
「テニス選手来い!テニス選手来い!できれば私好みの、ニヒルな年下イケメン王子枠が来ますよーに!」
なお、この魔法陣の召還者ボーナスは翻訳機能のみであり、勇者は召還後自力のみで闘わなくてはならない。
しかしそんなタフな条件にも関わらず王国は過去に二度、異世界から召還したテニス選手によって救われていた。
テニス
それは異世界のメジャースポーツ
相手のコートにボールを叩き込み得点を重ね先に六ゲームを先取するか、相手にボールを叩き込んでKOすることで決着となる。最強チームを結成せよ。
かの競技でハイレベルな試合に勝つには、さまざまな能力を高水準で備えている必要がある。
例えば、短距離走者の瞬発力、長距離走者の持久力、軍師のような戦略眼、格闘家並の反射神経と動体視力、修験者並みのメンタル、医師に匹敵するコンディション管理技術、人知を超えた必殺技などだ。
それはそのまま、勇者として必要な能力でもあった。
一度目はランダムに勇者召還した際の偶然だった。
二度目は条件に「テニス選手」と設定しての必然だった。
一度目に召喚された男は後に「太陽神」と呼ばれた。
彼のポジティブなエネルギーは周囲の心を温め、また「もっと熱くなれよ!」とラケットを振る摩擦熱で上級魔法を超える業炎を産みだすことができた。
二度目に召喚された男は、本名と能力を合わせて「エア・ケイ」と呼ばれる人気者だった。
彼は空気の刃を飛ばしたり、敵のまわりの酸素を無くしたり、空を飛んだりすることだってできた。
二度あることは三度ある。
再び世界が魔王の脅威にさらされた今、プぺポ王国は再び異世界からテニス選手を呼び、ともに戦ってもらおうと考えていた。
召還には多大な魔法石が必要となる一発勝負。頼むから成功してくれ。
かくして願いは聞き届けられる。
召還魔方陣からズズズと、まず男の顔が出てきた。イケオジだ。
次に上半身、よく鍛えられているようだ。よし、ラケットも持っている。
最後に下半身……車いすに乗っていた。
「嘘でしょ……」
終わった。魔王は精強だ。
勇者の助力なしではとても勝てない。
「ここは……ああ、これが異世界召喚と言うやつか。まさか俺が呼ばれるとは」
「え!?この世界についてご存じなんですか?」
「ああ、ここはプぺポ王国と言う所だろう。君たちが『太陽神』と呼んでいる男とは、少々交流があってね。」
そうなのか、そういえば「エア・ケイ」も召喚された時、「その太陽神は、たぶん僕の先生です」とか言っていたらしい。凄いな、太陽神の人脈。
「太陽神様のご友人でしたか。しかし、脚の悪い方を死地に召喚してしまい申し訳ありません……せめて国力が尽きるまでは王宮にて守護させて頂きます……」
「いやいや何を言っているんだい、俺も戦うよ。」
与えられた命なんだ。どんな時もあきらめずに生きていこう。
そのために呼んだんだろう。
良いことをいうイケオジ。しかしパピィは「無茶だわ」と思う。
確かに、上半身はよく鍛えられているようだ。しかし、あらゆる武術の基本は剛健な下半身である。腕の3倍ある脚の力を使えない男が戦場に立てるものか。
と、そこで
ドゴオォーンという轟音とともに壁が壊され、敵が現れた
「きゃあ!あ、あなたは魔王!?」
「その通り、召還魔方陣の秘密を探るべく、昨日から大臣に化けてこの国に潜伏していたが、秘密裏に勇者が召喚されたのを察知してやって来たぞー!」
「そ、そんな……今日から丸眼鏡が逆三角形になり肩帯がトゲトゲして靴先が尖がっていたのはイメチェンじゃなかったのね。大臣は無事なの?」
「変化に生き血が必要だったからまだ生きている。しかし今日、どうせ貴様らは召喚されたての勇者ともども、皆殺しになるのだー!」
過日召喚された2人の勇者は、召還当初18歳にも満たない青少年だった。それが、数か月に及ぶ戦いのなかで急速に成長していったのだ。
数か月とはツイストサーブが光る球にインフレするのに十分な時間である。男子3日あわざれば刮目してみよ。
そこで今代魔王は考えた。召還そのものをつぶす、もしくは召喚されたての未熟な勇者をその場で潰せばよいと。
完璧な作戦のはずであった。
「ほう……ということは、おまえを倒せば俺は晴れて元の世界に帰れるというわけだな。そちらから出向いてくれて、実にありがたい。大切な引退試合を明後日に控えていたんだ。」
強烈なプレッシャーを感じ、魔王がばっと振り返ると、そこには今代勇者がいた。
「な、なんだ驚かせおって。貴様、重病か何かで後遺症があるのだろう。今の状態で、何ができるというのだ。」
「お前に勝つくらいはできるさ」
戦いが始まった
結論から言おう。
今代勇者は、初代、二代目に負けず劣らず凄かった。そして、世界の命運をかけたビッグマッチは勇者側のワンサイドゲームで終わった。
まず、機動力が半端ではなかった。急加速、急ブレーキはもちろんのこと急激な方向転換に、座ったままの姿勢で膝も使わずに大きく跳躍までこなす。人間賛歌は「勇気」の賛歌!
そして、上半身の力だけですさまじいサーブを放っていた。
脚の力は腕の3倍、それは普段人間が脚の力で移動しているからッ!ならば普段腕の力で移動しているアスリートの腕力は、常人の三倍以上の力があっても何ら不思議ではないッッ!何万本も打ってきた俺のサーブは、1080式まであるぞぉー!
「ば、馬鹿な……」
地をなめる魔王には2つの誤算があった。
今代勇者が経験豊富なおっさんだっこと。
そして「車いすテニス」にて異世界最強だったことだ。
なぜわが国からは貴方のような選手が出てこないのでしょう
なにを言っているんだ、NipponにはKuniedaがいるじゃないか
サンキュー、フェデラー
「あ、ありがとうございました」
「これでお別れかな」
光に包まれ、勇者はゆっくりと消えていく。
そして
「あ、あの!引退試合頑張ってください」
「大丈夫 俺 最強だから」
そう断言して、元の世界へと帰っていった。
かくして世界はまた救われた。
なお、今回の件で年下ニヒル王子好きだった王女の性癖は「車いすフェチ」「アスリートフェチ」「イケオジフェチ」「最強フェチ」に書き換えられ、生涯治ることはなかったという。
今日、この話を書いたことで確定したことがある!
俺は楽しんでもらう話を書くために生まれてきた。
そして「いいね」や「ポイント」や「素敵な感想」をもらうために投稿しました。