33.『恋人繋ぎ』
『恋人ごっこ』が始まってから早二週間。
毎日手を繋ぎながら、お昼を一緒に食べて、学校生活は女子達のやっかみに埋れそうになりながらも、なんとかその関係は続いている。
「寒くなったねぇ」
すっかり秋めいて肌に触れる風が冷たくなる。
今日は優が珍しく風邪で学校を休んだ。
昼休み人気のない体育館の裏のベンチで康太と二人お弁当を広げる。
「二人で昼休みって初めてじゃない?」
「そうだなぁ」
『恋人ごっこ』を始めてから大きく変わった事が一つだけある。
康太が突然家に遊びに来なくなった。
あれだけ夜中も窓伝いに、私の部屋に行き来してたし、ご飯も一緒に食べたりしていたのに。
学校生活で恋人のように振る舞っていても、二人きりの時間っていうものが殆どない。
朝の登校ですら、いろんな友達に冷やかされたり、女の子達の視線を浴びたりしながらなので、こんなにも誰も居ない空間が久しぶりすぎるのだ。
日常の他愛のない話をしながらお弁当を食べ終わる。
「まだ、結構時間あるな」
「そうだね」
どうも会話が続かない。
前は次から次へと色んな話題が溢れて沈黙なんか、全くならなかったのに。
「……康太さ、いつまで『恋人ごっこ』やるつもりなの?」
康太とぴったり手を繋いだり、身体の一部が触れるくらいの距離でいつも横にいられて本当は凄く嬉しい。
でも……心の中にどこか一線を引かれてしまったような気がして、最近の私はうまく本音で康太と話せなくなってしまっていた。
「……もう、嫌になった?」
少しの間を置いて康太の返事が返ってきた。
「全然嫌じゃないよ? ……嬉しい事いっぱいあったし……」
「例えば?」
間髪入れない康太の質問に戸惑ってしまう。
答えてしまったら……
自分の気持ちを伝えるのと同じことになっちゃわない?
「えと、……みんなに私は康太のおまけじゃないって伝わったこと……かな」
「それだけ……?」
無表情の康太の気持ちが読み取れない。
一体私にどんな答えを求めてるのよ?
私たちの間に流れる沈黙に、気まずさを思わせるような冷たい風がヒューと吹き抜ける。
「うぅ……寒い」
私は思わず腕を抱えた。
フワッと康太の匂いが上から降って来る。
「これ着てろよ。俺もう一着部室に置いてあるから」
康太の大きなジャージが肩にかかっていた。
「大丈夫だよ。康太が風邪ひいちゃう」
「いいから! ……彼氏の言うこと、ちゃんと聞けって」
そう言って引き寄せられた私は康太の胸にすっぽりと入り込む。
「……こうしてれば俺も寒くない」
優しい声……
本当はたくさんこうして欲しかった。
二人きりの時間がなくなったらこんなに寂しくなるなんて想像も出来なかった。
「康太……今日一緒に帰ろう?」
「部活だよ?」
そっと髪を撫でてくれる。
「待ってるから……」
離れたくないよ。
「分かった。ホームルーム終わったら迎えに行くから教室で待ってて。とっておきの席空けとくから」
「……とっておきの席?」
予鈴が鳴り響く。
「さ、戻るか!」
私にジャージを被せたまま康太が立ち上がる。
急に胸元が寒くなった。
「ほら」
差し出された大きな手をギュッと掴み立ち上がる。
指を絡ませた『恋人繋ぎ』……
いつか終わる日が来てしまうのも、また寂しすぎるよ。
どうしたらいいのか分からなくて……
康太の手を確かめるように深く握り直した。




