32.幼馴染としての溺愛?
「この異様なザワツキはそーいう事ね……」
優は食堂のテーブルでお弁当を突きながら、斜め向かいに座っている康太の顔をじっと見る。
こうしている今この時も、前後左右から私たちの事を観察する女子達の視線が消える事はない。
「そ、そーなの!」
私は優に昨日の一部始終を話した。
その上であくまでも『恋人ごっこ』なんだという事をコソコソ声で強調する。
「だってさぁ、ビックリしたんだよ? 朝教室の前歩いてるあんた達を見かけたと思ったら、ぴったりギューっと手を繋いでて二度見したわよ! 柚子、最近放課後は水泳の練習だったし、休み時間は疲れて寝てるしさぁ。あんまり話出来ないうちに二人ともとうとう本当に付き合い出しちゃったかと思った」
あははと笑いながら卵焼きを箸で摘む優。
途端に康太の手がスッと私の口元に触れた。
「ご飯粒付いてる」
それを私たちの目の前でパクッと食べる。
優の箸から卵焼きが転がり落ちた。
「こ、これも……恋人ごっこってやつ?」
赤面しながらプルプルと震えている。
「いや、別に。自然だけど?」
飄々と言って除ける康太。
「自然じゃあ、ないよね!?」
しどろもどろになりながら私が突っ込む。
「何度かあっただろ? こういうの」
「それ、幼稚園の時とかでしょ?!」
正面に座っている康太の視線が、しつこい位に私の心に絡みつく。
ドッドッと速さを増す鼓動をとても冷静にコントロールできない。
「……なんかさ、康太こんなキャラだっけ?」
優の目が点になっている。
「俺が柚子の本当の彼氏になりきってるだけ。柚子も、もっと俺の彼女として集中しろよ」
じっと見つめて来る瞳から逃げられない。
「……あんた……なんか悪いもんでも食ったの?」
優は呆れながら康太の表情を伺う。
その横で私は今日何度訪れたか、数えることも出来なくなった動悸を抑えきれずにいた。
だって。
誰にも見えないテーブルの下で膝と膝がコツコツと触れて来るから。
ハグだってしてるんだから身体の一部がほんの少し触れるくらい、なんて事ないのに。
どうしてこんなに熱くなるのよ……
◇◆◇◆
「しっかし康太……別人格出現してたね」
放課後優が私の席の後ろで笑いを含めながらため息をつく。
「『恋人ごっこ』に怖いくらいノリノリなんだよね……。なんかさ、私は康太の事ごっことか関係なく好きだし、急にあんな風に来られるとどうしたらいいか戸惑っちゃってさ」
嬉しいはずなのに、それと同じくらい好きになり過ぎて『恋人ごっこ』が終わっちゃった後の寂しさを想像するだけで……怖い。
「乙女だなぁ! あのノリに乗っかっとけばいいじゃん。もしかしたら本当に恋人になっちゃうかもよ?」
優が面白そうに微笑む。
「ずっと幼馴染でさ、何が起こっても馴れ合いな感じが出て、もし付き合うことになっても特別何か変わるわけじゃないって思ってたんだけど……想像以上に心臓爆発しそうになってる」
かぁと赤くなってるのが分かる。
「可愛いなぁ、柚子ちゃんは!」
優が私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「でもさ、あんまりふざけてる感じしないんだよね。今の康太見てると、普段の康太の方が不思議と嘘っぽく見えたりして」
ウフフと笑う。
「それはないでしょ? 今の方が本当の康太だなんて」
どうしたらそんな風に見えるのよ?
どっからどう見たって今日の康太はどこかおかしい。
「うーん、私の勘違いかな? でもさ、どっちにしたって大事にされてるよね柚子は。自分の立場なんて考えずに幼馴染の恋人になりきるなんて、普通の男ならなかなか出来ないよ?」
腕組みしながら強く私に語りかける。
「そうだよね……」
幼馴染だからって……優しすぎるよ。
「康太が東海林先輩に少しでも恋心抱いてんなら尚更じゃない? こんな幼馴染の事溺愛してたら、康太の方が彼女なんて作るの無理だって!」
プハハ!と呆れ笑いしながらもどこか嬉しそうな優。
東海林先輩……
そうか。色々あって薄らいでたけど康太は東海林先輩の事好きなんだったっけ。
申し訳ない事しちゃってるな。
こんな嘘まみれの『恋人ごっこ』なんて康太にとって何にもいい事ないはずなのに。
「もう一回、ちゃんと話してみる。康太に無理させたくないし」
「無理? そうは見えないけどなぁ。いいんじゃない? もう暫く恋人気分楽しんだって。長い間片想いしてきたんだからさ。バチ当たんないって!」
優の言葉に甘えたい。
本音はもうちょっと、康太の彼女でいたいよ。
康太……私、どうしたらいいの?




