31.甘々な康太?
「康太の彼女……か」
布団の中に入ってもイマイチ想像できない私たちの恋人な風景。
カップルってそもそも、いつもどんな会話をして、どんな風に過ごしてるんだろう?
あぁ、普段康太との距離が近過ぎて、どうしてもうまく想像できないっ!!
康太はそういうの、ちゃんと知ってるの……?
「どうしよう……上手くできるかな……」
緊張してなかなか眠れない。
思い余ってスマホで『高校生カップル』なんてワードで検索しちゃってる自分が情けない。
赤面しながら検索結果に目を通して……
(やっぱりデートとか、手を繋いだりとか……?)
(いや、デートは学校外の事だから恋人のフリする必要はないのか??)
ああでもない、こうでもないとベットの上でのたうち回る。
「もう分かんないっ!!」
興奮状態が収まらぬまま、ようやく眠りに着く頃には、朝日が顔を出していた……
◇◆◇◆
「柚子!! 起きろ!!」
ガッシガッシと身体を揺さぶられると視界に明るい光が差し込んでくる。
「あれ……? もう朝……?」
「もう朝だよ。ったく迎えに来いとか自分で言っといて寝坊すんなよ!」
聞き覚えのある声に驚きバサバサの頭でガバッと起き上がる。
「康太っ!? え? 今何時?!」
「出る時間10分前!」
冷静な声とは裏腹に、全身に焦りの血が駆け巡った。
「嘘でしょ? やばいっ!!!」
呆れた視線を感じながらも康太を部屋から追い出し、大急ぎで着替える。
「早くしろよ!」
ドアの向こうから煽りの言葉をぶつけられながらも必死で髪をとかした。
目の前にこの前買った色付きリップ……
結局使われる出番もなく静かに鏡の前に佇んでいる。
(もう、つけられるのは……今くらいかな)
そう思ってそっと唇に乗せてみた。
艶々と朝日を受けながら鏡の中で煌めいている。
(康太の選んでくれた色……綺麗……)
嬉しくて時間を忘れてしまう。
「おい、まだかっ? もう本当に遅刻するぞ?!」
康太の色気のないノックで現実に引き戻された。
戦場跡みたいになった部屋をみてため息をつく。
こんな酷い部屋を見て女を感じる男の人がいたら逆に凄いよね……
結局こうなっちゃう。
それでも私はこんなバタバタした時間も嫌いじゃない。
どんな自分でも受け入れてくれる康太に包まれているような気がして。
もう、いつも通り……で、いいのかな……
これ以上近づいた世界なんて想像もできないよ。
「ごめんね。起こしてくれてありがと」
それにしてもしばらく康太と離れてたからかな?
髪の毛もバッチリ決まってるし、何だか今日はいつもよりかっこよく見える……?
「ほら、行くぞ」
階段を駆け下りて玄関を出る。
ママの『いってらっしゃい』を聞き終えた後に大きく朝の空気を吸い込んだ。
「あぁ……いい天気!」
大きく伸びをして新鮮な空気をいっぱい身体の中に取り入れる。
「……ん?」
康太の真っ直ぐな視線を感じて振り向いた。
「……行こう。ほら」
康太が私の手を握った。
初めてなわけじゃない。
たまに手を取ることもあったけど……
「……康太?」
「いいだろ? 今柚子は俺の彼女なんだから。俺の好きなようにしたい」
ボワッと顔から火が出る音、聞こえてない??
康太の口からそんな言葉……
どっか頭でも打っちゃったの?!
「いいけど……、いいの?」
逆に聞いちゃうよ……!
今は誰も見てないし、カップルのフリするのは学校着いてからでもいいんだよ?!
「そのリップ……やっぱり似合ってる」
フワッと優しく微笑んだ。
「……そう?」
待って待って!!
ちょっと気持ちが追いつかないっ!!
本当の彼氏でも言わないようなそんな甘々なセリフ……
この恋人設定に何でそんなにノリノリなのよ……!?
「あ……ありがと。なんか照れる」
あははと笑っても恥ずかし過ぎて康太の顔が見れない。
「今日、昼休み二人で弁当食わない?」
「いいけど……あ、でも優が一人になっちゃうかも」
「じゃ、優も誘おうぜ」
「……え? うん」
(夢……?)
ほっぺたをこれでもかとギューっと引っ張る。
「イタタ……」
「大丈夫か?」
そっと康太が手を繋いだ反対の手で私の頬に触れる。
「だ、大丈夫だよっ!! 夢じゃなかった!」
「は? 夢なわけねぇだろ」
どうしたのよ……?!
康太じゃないみたいじゃない。
「ねぇ、康太、無理してない? いつも通りで大丈夫だよ?」
「無理なんかしてない。柚子は……俺の彼女でいるの……嫌か?」
仔犬のような潤んだ瞳……
そのセリフ、本当にわたしに向けて言ってるの?
どうしちゃったのよ、康太ぁぁ!!




