11 怒りの流れ着く場所
ゲールラは瓦礫の中から素早く立ち上がる。その顔は冷静そのものでこちらの力量を図っているようであった。
槍を構えるテルを制して前に出るエルエイル。
「ここは私に任せてもらいます」
「痛っ………少しだけだぞ」
テルはそういうと少しだけ下がった。しかし槍は手放す気にはならない。隙があればゲールラに突き込む覚悟だからだ。
エルエイルは左半身に構え左手を前に見せつけるように構える。
「ふっ」
「はあっ!!!」
最小限の呼吸に最小限の動作であるエルエイルに対し、大きな気合の声と同時に突き込むゲールラ。
ヤリの穂先をギリギリでかわし、反撃のために内側に潜り込むエルエイル。近付いてきた拳を槍の柄でふせいだり石突で反撃を行うゲールラ。
テルの動きとは違い、エルエイルは攻撃のための最小限の避けを選択できる。ゲールラは遠距離特化の槍であるにもかかわらずオールレンジでの戦い方を心得ている。
その結果、
バキィン
「ぐ」
エルエイルのボディーブローがゲールラに深々とつきささると、そのまま部屋端まで吹き飛ばされていく。
再び立ち上がったゲーラルは再度何度か打ち合うもののまたもやエルエイルの拳を受けて吹き飛ばされていた。
拳が当たる直前に自分から後ろに吹き飛んでいるとはいえダメージが蓄積していくゲールラであった。
ゲールラが憎々しげにつぶやく。
「まさか、薄い民を味方につけるとはな。あそこまでタコス軍に悪感情を植え付けておけば、タコス軍に味方をしないと踏んでいたのだが」
「そんなことのために薄い民を襲ったのか」
「当たり前だ。集団を機能させないようにするには信頼にヒビを入れるのが一番だからな」
憎々しげに歪んだ顔のゲールラの言葉に、それまでの一本芯の入った言葉でないことに気づいたテルは尋ねた。
「ビゼンの言葉か?」
「ああ、あいつは戦いというものをよくわかっている。どんなに汚いと思っている手段でも戦争というものは勝てば正しいのだ」
それは真理なのだろう。歴史というのは勝者の歴史であり、都合の悪いところは何も記載されない、もしくは改竄される。
甘いと言われるかもしれないがテルとしてはそんな言葉は聞きたくはなかったのだが。
「おまえ、急に小さくなったな」
「なに?」
「さっきまで自分の言葉でしっかり喋っていたのにさ。借り物の言葉じゃ届いて来ないぞ」
テルは口からノエを出した。さっきまで急な戦いだったので逃すタイミングを逃していたのだ。ノエはテルが頭を叩かれたショックで目を回していた。そんなノエを苦内に引き渡す。
「結構離れていろ」
「わかりました」
苦内は影に身を潜ませる。
それを見届けてからテルは戦っているゲールラに語りかける。
「俺が弱いっていうのはその通りだ。おかげでおまえに刺された肩が痛いよ」
それでもしっかりと槍を握りしめるテル。一瞬の隙しかないことは理解している。その隙を逃すわけにはいかない。
「ダゴンがいかに強かろうとも軍人であるおまえは戦わなければならなかった。それが嫌ならば軍をやめればよかっただけだ。おまえほどのやつなら他の軍隊でも雇ってもらえるだろう。それをしなかった時点で、言い訳を言うな」
エルエイルは目前のゲールラと戦いに集中している。ゲールラも聞こえているのかもしれないがテルの言葉に口を挟む余裕はなさそうだ。
「兄弟たちは実力でその地位に登りつめただけだ。嘆くなら自分たちの努力の足りなさだろう。文句を言う場所を間違えるな」
怒りがふつふつと湧いて来ているテルの肩の傷は、興奮により血が止まっていた。
「あとタコスをあんまり舐めるな。あいつは夢に向かってなんの気負いもなく全力で走れる凄いやつだ。俺たち兄弟がどうこうできるようなやつじゃない」
前に進みでるテル。その目は休憩室の扉を少し見てからゲールラを見据える。
「最後に! 俺たちの兄弟を牢屋に入れてボロボロにしておいて、威張ってんじゃねぇよ!!! エルエイル、放電しろおお!!!」
「おおおおおぉぉぉぉ!!!!」
バヂッ!!!
あたりが真っ白になる。その視界の中でテルはゲールラの姿を捉える。まだ麻痺で動かない体に無理をしてゆっくりと漂うテル。
ゲールラは完全に意識がないながらも槍をテルの方へ向け出した。さすがは将軍職にいただけのことはあるのだろう。漂っているだけのテルにとってはその槍を避けることはできない。
バシッ
エルエイルがゲールラの槍を叩き落とした。
テルはエルエイルを見る。自分がとどめを刺していいのかと尋ねるように。エルエイルはうなずくと言った。
「村では事情も聞かず殴ったからな。その詫びで、譲ってやる」
ありがたいことだった。
テルの漂っていた体が、足が地面につく。
タッ
その一瞬の感覚で体の麻痺が全て解ける。
テルは槍をしっかりと握り直すと、未だ電撃で意識のないゲールラへ槍を突き入れた。
ブシュッ
辺りに血の臭いと血の赤い花が咲いた。
彼が裏切らなければポリフェルでの戦闘もなかったのだ。怒りは収まらない。
薄い民たちの生気のない顔を思い出しながら、五十六の苦労を思いながら、ポリフェルで拷問された兵士たちを思い出しながら、何度も何度も槍を突き入れた。
ドシュッブシュッ……
ザクッドシュッ……
どれくらい経ったのか。
やがて、怒りで真っ赤になったのか、流れた血で真っ赤になったのかわからなくなるくらい赤い視界で、ようやく冷静になったテルは休憩室の部屋を開けた。
ゲールラの死体は放っておいた。
テル達が休憩室で見たのは、部屋の中央で1m四方の小さな檻に入れられて監禁されている五十六の姿であった。
「五十六、大丈夫か?」
「兄さん?」
テルの声に顔を上げた五十六に、テルは涙が出そうになった。
五十六には右目と右腕が付いていなかったのだ。




