9 強引な懇願
カッターと話し合った2日後、出発したドクタールファと入れ替えに、苦内は情報を手に入れて戻ってきていた。
「イソボン砦にゲールラ元将軍がいました。また、牢屋に五十六様が捕らえられていました。五十六様は重傷を負っており早い治療が必要に見えました」
その報告にテルは思い出していた。
フラボン砦に連絡をしにきた兵士はボロボロになりながら五十六がかばってくれたといっていた。その結果五十六は拷問にでもかけられたのだろう。
兵士の連絡から日にちはだいぶ経っている。
すぐにでも助けにいかなければいけないだろう。
苦内の連絡を受けてテルはカッターとエルエイルを見る。
「どうか力を貸してくれないだろうか」
そういうテルにカッターは渋い顔を見せる。
「テル殿。以前も言った通り順序を通してもらいたい。ゲールラ将軍を殺すか我々の前に連れてきて納得のいく説明がない限り我々は動くことはできない」
村長の判断として当たり前のことである。個人ではたとえ認めていても、村人の長として軽々しい決断はできないのだから。
しかし、そう答えたカッターを正面に捉え、テルはまっすぐに見据えた。
「じゃあ言い方を変える。ゲールラを殺すために、俺に力をよこせ」
その言葉にカッターもエルエイルも眼を見張る。力を貸して欲しいと言っている側が力をよこせと言い出したのだ。無礼にもほどがあった。
「本当はお前たちを連れてポリフェルに戻らなければいけない。それが俺に下された命令だ。だが囚われた仲間がいる、なにより、許せない敵がいる。
ゲールラを殺すのに力がいるんだ」
テルはカッターに手を差し伸べる。
「もう一度言う。俺に力をよこせ」
それはあまりにも高い目線から見た懇願であった。だが、有無を言わさない強い思いがあった。
差し出された手を掴んで答えるカッター。
「わかりました。力を貸してあげましょう」
「私も元はといえばゲールラを倒したかったのですしね」
元々テルの持っていた強い想いは薄い民も持っていた想いなのだ。断る理由などなかった。
カッターとエルエイルは顔を見合わせた後、にっこりと笑ったのだった。
テルは理性では作戦通りポリフェルに行ったほうがいいことはわかっていた。しかし、心がイソボン砦へと、五十六の救助へと、ゲールラとの戦いへと向かっていた。
2日かけて薄い民の村から南下するとイソボン砦となる。薄い民の戦士たちは多くても100名もいない。それでも連れていくものをさらに厳選して、テルとエルエイル、案内役の苦内に3名の護衛でイソボン砦へ潜入することとなった。
まずは五十六の救出を優先したのである。五十六を救出した後ゲールラを倒せばいいのだ。その方針を決めると意外なことにエルエイルも薄い民の戦士も文句を言わずに頷いた。
「助けられるものを先に助けるのは当然のことでしょう」
簡単そうにいうエルエイルにテルは感謝した。純粋にありがとうと言うと、少しだけ照れながら感謝を受け止めてくれた。
100名に満たない兵士では、いかに薄い民が強くとも8000名近い兵士相手では絶対に勝てないこともある。
少人数で潜入してささっと五十六を助けることを目標にした。
思ったよりも雑然としているイソボン砦は建てられた時期がフラボン砦と同じである。また、目的も『カララトの外敵から守るための砦』という同じ目的なので構造も似ていた。
姉妹砦と呼ばれており同じような形をしている。
苦内の案内によりこっそりと入って行く救出隊。
あらかじめ苦内が潜入して、人の少ないところを通って五十六の閉じ込められている場所まで向かうのであった。
苦内が優秀なのか警備兵の誰にも会わずに進んで行くテルたち。
誰ともすれ違うこともなく潜入自体はスムーズに進んでいたが、エルエイルたち薄い民の戦士たちは体が大きいので通路を通る時少し窮屈そうであった。
「この部屋の奥です」
苦内が案内したのは広い会議室であった。入り口が妙に狭く改造してある。体の小さいテルや苦内は少し屈めば入れるが、体の大きいエルエイルなどは入るのに苦労しそうだ。
改造してある部分を壊せばいいのだろうが、物音で潜入がバレるわけにもいかない。
五十六が閉じ込められているのは、会議室の奥の小さい休憩室らしい。休憩室を改造して牢屋にしてあるのだ。
最初に苦内が影の状態で入り、次に体の小さいテルが会議室に入り込む。
「なんとかここまでこれたか」
テルは会議室を横切って休憩室の前にくると安堵の言葉を漏らした。なにせこの砦は8000名の兵士がいるのだ。見つかればタダでは済まない。
「そううまく行くわけあるまい」
テルの言葉に呼応するように影が現れる。
休憩室の扉の横に影になるように机があり、その奥に隠れていた人物が現れたのだ。流石に牢屋に閉じ込められているものに監視がつかないわけがない。
テルが慌てて槍で突きかかると軽く弾かれた。
「こんなやつがわしよりも重用されているとはな」
「お、お前は」
テルの怒りの導火線に火がつく。それは殺そうと思うほど怒っていた相手、ゲールラその人であった。




