もどかしさ
だぁーーー
何だってこんな時に寝てなくちゃいけないんだよ。
ちくちょ〜。
試合で負けても涙流した事なんてないっていうのに。
悔しくって悔しくって。
ベットに顔を押しつけて、大声で泣きわめいた。
調子良かっただよ、負ける気しなかったんだよ。
それなのになんだってこんな時に『おたふく』なんてなっちまうんだ。
もうすぐ、試合が始まる時間。
あいつらが頑張ってくれたら、きっと次の……その次の試合には出れるから。
コンコンと控えめにノックされたドアから母さんが顔を覗かせて
「何か食べれそう?」
と。
顔なんてあげれなくて、ベットに顔を押し付けたまま
「いらない」
とそれだけ、言ってみた。きっと今顔をあげたら目が真っ赤だろうから。
母さんと言えどこの顔を見せるのはちょっと恥ずかいと思ったんだ。
まぶたが重たくて仕方ない。
「これ、ここに置いておくから酸っぱくないから大丈夫だと思うよ」
コトリと物を置く音の後に静かにドアが閉められた。
ゆっくりとベットから身体をはがすとそこには、スポーツ飲料メーカーの栄養ドリンクのゼリーが置いてあった。
昨日よりはずっとましになったもののまだ、唾を飲み込むと下あごと上あごの付け根がキーンとして。腹が減っているのに食べられない辛さを始めって知った。
だけど、そんな事より試合に出られない方の辛さは何倍もあるわけで……
何だってまぁこんな事に。何度言ったわからない呟き。横目でゼリーをちらっと睨むけれど、起き上がる気力も無くて、私は再びベットにダイブしたのだった。
母さんの登場で涙は引っ込んだものの、悔しい気持ちが収まる事はない。
自分が悪いって分かっているけれど、どうしようもないのだ。
何処にもぶつけられない思いをどうしたらいいのだろう。
いつもだったらこんな時、思いっきりバットを振り回すのに今はそれさえもできないときたもんだ。身体もまなっちまうよ、なっ。
目を瞑って深く深呼吸すると、時計の秒針が耳につく。
窓の外は、試合にもってこいのスカッとした青空。
ほんと、何でこんな日に寝てなくちゃならないんだか……
まだ一回の裏くらいか? かんな打ったかなぁ。他のやつらは?
そう思ったら、いてもたってもいられなくって。
今度こそベットから立ち上がって、階段を駆け降りた。
母さん驚いた顔をしてこっちをみているけれど、一直線に洗面台に向かって顔を見た。
これくらいなら、解らないんじゃないか?
首を右に左に捻って顎のラインを確認する。
いけるかも――。
そう思った瞬間、バシッという音と共に後頭部に衝撃が……
「いけるわけないでしょ、全くもう」
仁王立ちした母さんだった。
「だって」
食い下がってみたけれど
「だってもくそもない、おたふくは外出禁止だっていうの。解らない子ね」
そういって首根っこを掴まれて階段下に強制的に連れられてきてしまった。
「やっぱり駄目?」
自分にしてはしおらしく言ってはみたけれど、目の前には無言で私を睨む母さん。
ガクッと肩を落とし、ゆっくりと足をあげ階段を踏みしめた。
遠くから見てるだけでも駄目なのか?
往生際悪く、そう心で呟くと
「行くまでに人にうつす可能性だってあるでしょ、早く治りたいのだったら大人しくしていなさい」
エスパーかと思った。
ほんと、しぶしぶと足を運びまた自分の部屋に戻ってきてしまった。
やる事ねぇっていうの。
さっき置かれた、ゼリーをきゅっと口の中に捻りいれた。
こんなんじゃちっともお腹いっぱいにならないっていうの。