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凸凹トリオ結成です

 


 凜はちょっぴり前髪の焦げたレオンハルトとその隣りでレオンハルトに半目を向けるシルヴィオを向かいに、仔犬サイズに縮んだアルヴィスを膝に乗せながら右横に座り直したシリウスを見やる。

 それに気付いたシリウスは心得たように説明を再開した。


「此度の件を国はかなり重く受け止めている、とは言いましたが現在南部支部で連絡の取れる高ランク冒険者は此処にいる三名のみになります。ですから南部代表(コルテアル)支部からはあなた方への指名依頼ですね」

「いや、ちょっと待ってくれ」


 大人しく説明を聞いていたシルヴィオが待ったを掛け、ちらりと凛の方を窺いながら口を開いた。


「俺と金獅子(レオンハルト)はAランクとしてギルド条約の規定で招集されたのはわかる。しかしクルスは…」


 そこまで言ってこの場にいる全員が言いたいことを察した。

 シリウスが凜の方へ説明していないのか、していいのかと視線を投げてくるので一拍考えた後に頷いて見せる。

 そう言われてみればガルフとシリウスには登録当日にランクバレしているし、レオンハルトには成り行きで自分から暴露したが、シルヴィオは登録の次の日ぐらいには武器の新調のために東部の街、ドロスへ行くと聞いていたので凜の活動状況を詳しくは知らないようだった。

 なので現時点で凜のランクを把握しているのはこの三名を除けばいつも依頼の処理を担当してくれている受付のお兄さんぐらいだ。

 素材の解体班にもなんとなく高ランクだと認識されてはいるようだが、解体責任者の親方、ジルトラントがきっちりと指導してくれているようでそういう探りも吹聴も一切されていない。


「それについては問題ありません。リンさんはSランク冒険者ですので」

「…は?」


 個人情報を吹聴されるのを好まないと知っているシリウスは極々最低限の事実を述べるに留まったが、余分な説明を一切省いた言葉はシルヴィオを余計に混乱させたらしく、シルヴィオの視線は凛とシリウスをひたすら行き来している。

 その様子を見て流石に…と思った凛が補足すべく口を開く。


「新規登録だと思ってたんですけど、かなり昔の登録情報が残ってて…魔力情報の一致で本人と認定されたんです」

「昔の…?いや、しかし「クルス・リン」という名のSランクは聞いたことが…」


 混乱したまま考え込むシルヴィオをレオンハルトが横から肘で突く。

 冒険者同士のそういった詮索は御法度が暗黙的かつ絶対のルール。

 つまり止めとけ、ということだ。

 横槍が入ってハッとしたのか、シルヴィオは一言詫びて凛から視線を外した。


「まあ、そういうことですので実力に問題ないとご理解頂けたところで…受諾はどうしますか?」


 規定に基づいた国からの招集とはいえ、緊急性の低いものに関しては冒険者に選択権がある。

 招集は強制だが受けるかどうかは冒険者次第、ということだ。

 凛は膝の上でご満悦な様子のアルヴィスをちらりと一瞥してから頷いて見せる。


「私は受けようと思います」

「俺も噂を聞いて気になっていたんだ」

「いいぜ、面白そーだからな!」


 息が合っているのか、いないのか…同時に三者三様の言葉を返して三人のリリアース行きが決定した。














 準備があるから、とリリアース行きは明日の早朝に出発ということに決まった。

 本来ならば市場であれこれ買い込んで準備するところだが、アイテムボックス持ちの凛は今すぐにでも夜逃げ出来るレベルで準備万端だ。

 レオンハルトも近頃はコルテアルから遠出せずにストーカー行為に励んでいたので、非常食などの備蓄は自前のアイテムボックスに詰まったままで減っていないと言っていた。

 シルヴィオもボックス持ちで、ソロだと必須なのだと言う。

 普段の言動はともかく、購入すると割りと値の張るアイテムボックス持ちだと聞くと流石にAランクか、と実感が湧く。

 シルヴィオは今朝早くにトロデから戻って来たらしく、消耗品が少々心許ないのだそうで、ギルドを出たところで買い出しに行く、と言ってレオンハルトの首裏を引き摺りながら去っていった。

 この時間に買い物できるのかと聞いてみたら、冒険者関係の店は一部遅くまで営業しているところがあるのだとか。

 と言うわけで特にやることのなくなった凛は宿に戻って少し遅めの夕食を摂っていた。のだが…。


「なんで居るんですか?」

「おう!うめぇな、ここの飯!」


 そう、この宿は一階が食堂になっていて、街でも評判な…。


 って違う!!


「シルヴィオさんが引き摺って行ってくれたのに…」


 最近の素行(ストーカー行為)を受付のお兄さんに耳打ちされたシルヴィオが気を遣って引き離してくれたというのに、どういう訳か向かいの席で食事しているレオンハルト。

 ちなみにアルヴィスは食事処ということもあって人型で凛の横で料理を取り分けたり、肉を骨から外したり甲斐甲斐しく食事の世話をしていた。

 精霊の食事は主に魔力なので大気中の魔素を取り込むか、契約精霊であれば契約者からの供給で賄っている。

 その為アルヴィスに食事という概念はあまりないが、やたらと凛の世話を焼きたがるので最近はずっとこんな感じだ。

 凛も初めは恥ずかしい、と遠慮していたが耳と尻尾だけ獣化してあからさまに悄気げた様子を見せつけられ、最終的にあざとさに敗北を喫した。

 今となっては横から差し出されたフォークに刺さった肉を何も考えずに咀嚼出来るようにまでなっている。


「野郎の買い物に付き合ってもつまんねぇだろうがよ」

「いや、だからってなんでストーカーである必要が…」


 もはや失礼かと思って口にしなかったストーカー(直接的な単語)までハッキリ言うところまで呆れ果てていた。


「ま、いいじゃねぇか。パーティじゃねぇとはいえ、暫くは行動を共にすることになるんだ。もーちょい観察しとこうと思ってよ!」


 こそこそされるのもアレだが、こうもオープンに付け回します宣言されるのもどうなんだろうか、と据わった目を向けてみるが、これと言って効果もなく流された。

 好奇心のままに動いてはいるようだが、最低限の線引はしている…のか野生の勘なのか、本当に嫌なことはしてこないので強硬手段に出るのも戸惑われる。

 ちらりと横目でアルヴィスを覗ってももはや居ないものとして扱っているようだった。

 シルヴィオ相手だと傍に寄るのも嫌がるのに、破格の対応と言っていいかもしれない。


「(いや、逆にシルヴィオさんがもの凄く嫌い…?)」


 今のところアルヴィスが過剰反応するのはシルヴィオとレオンハルトだけで、シリウスやガルフに威嚇してみせたことは一度もない。


「(レオンハルトさんは付き纏われて嫌なんだろうけど…シルヴィオさんはなんでだろ?)」


 初対面の時は魔物のことでパニックになって若干記憶が飛んでるので、その時に何かあったのかと思っているが、アルヴィスが話したがらないので無理に聞き出したりはしていない。

 でもまあ、依頼の関係で暫くは強制的に関わることになるのだから、もう少し様子を見てもいいのかもしれない。









 様子を見た結果、数分後のレオンハルトは凜の料理を一口横取りしてアルヴィスから雷を食らっていた。物理的に。

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