マッチを擦って
マッチ棒が擦れて発火する瞬間、そこにはいつも小さな蜥蜴がいた。
マリィが最初にそれに気づいたのは、七つの冬を越した頃だった。暖炉に火を入れるよう言いつけられ、恐る恐るマッチを擦った。硫黄の匂いが鼻をつき、小さな炎がゆらめく。その炎の中に、彼女は確かに見た。朱色の鱗を持つ、手のひらほどの蜥蜴が尾をくるりと巻いて笑うように揺れていたのだ。
「サラマンダー」
祖母がそう呼んでいたのを思い出した。火の精霊。炎の中に棲み、炎とともに在る者。
マリィはそれからというもの機会あるごとにマッチを擦った。暖炉の火起こし、蝋燭の点火母の煙草の火付けまで買って出た。擦るたびに、炎の中の蜥蜴は現れた。彼女が手を近づけても熱くない。むしろ、火照った指先がすっと冷えるような、奇妙な心地よさがあった。
十歳の春、マリィは自分の中に別の熱があることに気づいた。指先に意識を集中すると、そこからじわりと温かさが滲む。それはマッチの炎とは似て非なる、もっと内側から湧き上がる熱だった。
パイロキネシス。炎を操る力。
彼女は誰にも言わなかった。村の者たちは魔法使いを畏れ、同時に軽んじていた。ましてや、マッチを擦るだけで精霊を呼ぶなどと言えば、笑い者にされるか気味悪がられるかのどちらかだった。
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マリィが十五歳になった頃には、彼女の指先から小さな炎を灯すことができるようになっていた。蝋燭の芯にそっと触れれば、一瞬で火が移る。薪の隙間に指を差し入れれば、乾いた木がぱちぱちと音を立てて燃え始める。便利なことこの上なかったが、彼女はそれを人前で使わなかった。
ただ、一人きりの夜だけ彼女は練習した。
マッチを十本同時に擦る。最初は指がもつれ、何本も折った。パイロキネシスで一気に着火しようとすれば、炎が暴れて顔を焦がした。何度も失敗を重ね、掌に火傷の痕が増えた。
それでも彼女は諦めなかった。なぜなら、マッチの炎の中に見える蜥蜴が、一本のときよりも十本のときのほうが、ほんの少しだけ大きくなることに気づいていたからだ。蜥蜴は炎の数に応じて育つ。ならば、もっと多くの炎を一度に生み出せば、もっと大きなサラマンダーが現れるのではないか。
ある夜、マリィは百本のマッチを束ねた。パイロキネシスで一気に着火する。炎がぼうと立ち上り、部屋の空気が歪んだ。蜥蜴は現れたが、手のひらほどから少し大きくなった程度だった。百本のマッチでは、瞬間的な火力が足りないのだ。マッチ一本の炎はせいぜい数百度。百本束ねても、瞬時に全てを燃やし尽くすには至らない。同時に点火できなければ、炎は順に燃え広がるだけで瞬間的な高温にはならない。
マリィは知らず知らずのうちに、炎の精霊召喚の条件に近づいていた。瞬間的に千度程度の炎を生じさせること。それができれば、高位のサラマンダーが現れる。しかし千度の炎など、並の魔法使いには起こせない。ましてや、魔力を残さず全て炎に変換するなど、至難の業だった。
マッチを摩ることによりサラマンダーを召喚することが可能であることを発見した。
更に習得したパイロキネシスにより多数のマッチを点火することで高位の炎の精霊召喚に成功する。
※ただ多数のマッチを摩るのでは、同時に点火できないため高位の精霊は召喚出来ない。
・炎の精霊召喚
瞬間的に1000度程度の炎を生じさせることでサラマンダーの召喚が可能となる。
1000度の炎は、高位の魔法使いでなければ起こせず、普通の魔法使いには召喚は出来ないとされている。
更にその炎には魔力が残っていてはならず、魔力の全てを炎に変換することは至難の業なのである。




