最終話『あなたはいつまでも大切な親友。』
▽△▽
誰かの視点。
▽△▽
――アタシは誰だ?
そう思いながらこの数か月間、いやそろそろ1年か?
その間、ずっと歩き続けている。
アタシには片腕がない。
何とか片腕でできる仕事を転々としながら今日も食いつないでいる。
いつかはわからないけどアタシは誰かの墓所に倒れていた。
そのあと病院に緊急搬送されて、退院後、フラフラと『名無し』として様々な施設を転々とし生活することになった。
まれに怖くなって外に出たくなくなる。
誰か大切な人がいた気がする。
何か大切なことを教えてくれた人がいる気がする。
心の奥底からきらめく何かを……。
――入居している施設から就業場所へ向かうために駅前を今日も通る。
この街には昔大きな球体っぽい施設があったらしい。
名前もわからないこの都市のコンビニへ立ち寄り、お昼休みに食べる予定のおにぎりを買う。
スマホも何もないから暇つぶし用の雑誌も買う。
会社にはしゃべる人もいない。
これが一番だ。
雑誌の表紙にはみたことのあるような、ないような人が表紙を飾っていて。
『新人モデル特集!大家族の長女が進める最新ネイル!』
と書いている。
緑髪の美人で綺麗な人が爪を見せている。
記憶の無くす前のアタシはこういうことをしていたんだろうか?
そう思いながら雑誌をかごに入れて支払う。
▽△▽
駅前まで行くと何やら騒がしく、誰かが何かのビラを配っている。
「お願いします!」
どうせ、募金か何かだろう。
結構距離があるのに、よく通る綺麗な声だな。
「お願いします!!大切な友達を探してます!
友達を!私の大切な友達を!見かけたら教えてください!
探しています!お願いします!」
「大切な友達を探してますみ!お願いしますみ!」
面倒ごとそうだ、関わるのはよそう。
そう思いながらビラを配ってるどこかの誰かを無視して、職場へ向かう。
しかし、さっきの声。
どこかで聞いたことがある気がする。
▽△▽
――正午。
コールセンターでのお客様の対応につかれて、休憩室でゆっくりおにぎりを食べる。
片腕でもできる仕事は限られていて、どうしようもない。
重しを扱いながら、朝に購入した雑誌をめくっていると表紙を飾ったナイスバディな人のページが目を引く。
今シーズンデビューの新人モデルらしく、アタシとはかけ離れた世界で今シーズンおすすめコーデが載っている。
プロフィールには大家族の長女らしく、その兄弟の中には昨日テレビでやっていた化学賞を受賞した学者もいるらしい。
ただそのページのインタビューには目を引く言葉があった。
それは今朝、駅前で言っていた言葉だ。
『Q.なぜこの活動をされたのですか?
A.大切な友達を探しているっしょ。
あいつに早く戻ってきてほしいからやってるっしょ。』
大切な友達……。
駅前以前にも誰かに言われていた気がする。
でも思い出せず、思わず雑誌を閉じる。
暇なのであたりを見渡していると隣にいる社員がゲームの大会の動画を見ている。
誰かが優勝したのか、興奮気味だ。
ちらっと画面を見ていると。
『天星のナイトマリア!チャンピョン!e-spots界の新星!新たなる時代の到来!』
というテロップと誰だかわからない青い髪の少女が見える。
昔のアタシはこういう趣味を持っていたのだろうか……?
思い出せないけど……。
人のスマホをあまりじろじろ覗くのはよくないな……。
思わず、さっと目を反らす。
さぁ、午後からも頑張らなきゃ……。
……。
▽△▽
――帰宅時刻。
疲れた。
なんだかひどい疲れだ。
クレーム対応も楽じゃないね。
そう思って、トボトボ帰る。
駅は騒がしいから避けて帰ろう。
近道がてら路地裏に入る。
なんだかとてもお腹に食べるものが食べたい。
――ラーメンにでもしようかな?
「おうおう!そこねーちゃん!ちょっと止まれや!」
「へ?」
アタシは振り返ると、いつの間にか4、5人くらいのガラの悪い巨漢がアタシを取り囲んでいた。
「ねーちゃんずいぶんとうつむいているけど、どーしたんだ?」
「え?あ……。」
「ちょいとぼくちゃん達、おかねにこまっててさぁ~!」
「ここさ!俺らの縄張りだから通行料をくれないかなぁ~!!」
カ、カツアゲ!?
アタシじゃあ敵いそうにない!
大柄の男達がアタシへ迫ってくる!
「別に金がねぇってんのならいい仕事紹介するよォ~!」
男の1人がアタシの腕を掴む。
「あ?あんた片腕がねぇのか!こりゃ傑作だな!」
下品な笑い声が路地裏にこだましていく。
「は、放して!放してください!」
「いいねぇ~!片腕がねぇ弱い女のそういう顔はそそるねぇ!!」
「い、いや!誰かた、助けて!」
怖い、怖い!
「さぁ通行料を払ってもらおうか!」
――誰か!
――――お願い、助けて……!
「さぁ祈りは済んだか?あんたはこれから」
「高達流闘術ッ!!」
そのわずかな一瞬、目で巨漢の後ろに立っていたその人のことを追う。
長い髪を揺らして、金魚のような目で拳を固めてカツアゲをしていた奴を殴り飛ばしていた。
「壱匹目ッ!!」
アタシは、知っている。
いつか……いや、いつも隣にいた。
「デメキンッ!!」
その少女は流れるような動きで拳を放ち。
泳ぐように陸を蹴り、天を渡る。
戦闘などは無く、蹂躙しか亡い。
通るとこ、巨獣の死体の山が生まれる。
森羅万象を食らい滅ぼす”最上”の赤き魚。
真実の姿は少女であり、青春を愛するもの。
――その少女を人は"血濡れセーラー服の赤金魚"と呼んだ。
アタシの大切な。
――――大切な親友だ。
「やっと、やっと……!
見つけた!」
その少女の名前はヒトメ。
高達ひとめ。
「ヒ、ヒーちゃん!!」
「待たせたね!イチちゃん!!」
ヒーちゃんは涙を拭きとり、いつものたくましい背中を見せて今日も向かっていく。
カツアゲの1人はどさりと倒れ込んで、ほかがヒーちゃんへ向かっていく。
「なんだテメェ!!やっちまえ!みんな!!」
「あーもう!感動の再会がめちゃくちゃ!
相手にならないのよ!!悪いけどねぇ!!
さぁ!入院何か月がいい!?」
ヒーちゃんはカツアゲの腹へ、きつい一発をお見舞いにして、別のカツアゲの顔面を崩壊させ、残りには手と足の骨を折って、路地裏に絶叫がこだまする。
「いよっしゃあああああああああ!!
ようやくイチちゃんが見つかったァァ!!」
いつか見たことがある気がする。
アタシも思わず大粒の涙がアスファルトへ落ちる。
彼女は右腕を天へ向かって振り上げて、歯を見せて笑い感極まって泣いている。
そしてこう言うんだ。
◇◇◇
「そして私は、敵の存在を鮮やかに処理し、対象は無力化したァ!」
◇◇◇
いろんな記憶が消えていても、わかる。
彼女にずっと会いたかったことが。
ようやく、会えた。
ずっと会いたかった。
ずっと、ずっと……。
「よかった……本当によかった。」
愛を、
青春を、
あなたへのこのバカデカい超超超絶な大好きを。
諦めてなくって。
「諦めなくって良かった……!!」
「私もだよ!イチちゃん!!本当にっ諦めなくって良かった!!」
思わずヒーちゃんと抱き合う。
互いが泣き合いながら、笑い、愛情が確かにあるのがわかる。
それは『恋愛を超えた友愛の感情』だと確信できる。
◇◇◇
ああ、言い忘れてた。
これは誰の物語でもない。
きっと誰もが誰かと共にあるべき、物語。
どんな時でも一緒にいた少女の物語。
いや、正確にはすこしまぶしすぎる青春を歩いてきた。
そしてこれからも歩いていく、アタシ達の日々。
『諦めなかった物語』
――”大切な親友”の物語だ。
◇◇◇
「あなたはいつまでも大切な親友だよ。」
「うん……!」
笑って、アタシ達は少し長くなったけどラーメン屋に帰る。
少し店長さんに心配されてるかもだけど。
あの味をまた2人で食べて、一緒に笑うんだ。
――のれんをくぐり、2人で一歩を歩む。
「「ただいま。」」
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