第14話 新たな乙女
ギルドの中で流れるピアノの旋律は私達の耳の中へと染みるように流れてきた。その旋律を奏でる可憐な弾き手の少女に私は目を奪われる。
曲も終盤に差し掛かったと察した時、私はピアノの近くにあった椅子に腕を置いて彼女に話しかける。
鍵盤に目を向けている少女の横顔に私は声をかけた。
「ピアノ上手だね」
最後のフレーズを弾き終え、余韻に浸りうっとりとしていた乙女の顔は私の声が聞こえた瞬間に硬直する。
そして気がついたと同時に私に顔を向けた。
「え……あっ、さっきの!」
私の正体を知ると少女の落ち着いた雰囲気は一転し、動揺して表情と手振りが忙しくなる。
篭った声で彼女が発した最初の言葉は謝罪だった。
「さささ、さっきはごめんなさい! その、ええっと」
「ああ、良いの良いの。こっちこそ驚かせちゃってごめんね」
「あっ、そんな! ごめんなさい、街中で急に話しかけられたからどうすれば良いか分からなくて」
彼女から嫌悪感を抱かれている訳ではないと確認でき、言葉を交わすことにも成功した。
しかし会話はブツ切りで途絶え、微妙な空気が私達の間で流れてしまう。私も大人しい子との会話に慣れていなかったので、先程の彼女のように焦り始める。
でも即座に私の脳内にファーストコンタクトに相応しい新たな話題が降りてくる。
「な、名前」
「ふぇっ?」
「君の名前、なんて言うの?」
早出しのように質問したせいで声が震え、聞き方もぎこちなくなってしまう。
完全にしくじったと思ったが、彼女は嫌な顔はせずに答えてくれた。
「わ、私は……軽葉って、名前」
「軽葉ちゃんかぁ、可愛い名前だね。私は奏、よろしく軽葉ちゃんっ」
「よっ、よろしく、ね! 奏、ちゃん」
「ところで、軽葉ちゃんって……」
「かかっ、奏ちゃんって……」
「「──私と同じ、転生者だよねっ!?」」
思わず声がシンクロして同じことを尋ねていた。直後に顔を見合わせた私達は互いの存在を確信し、喜び合った。
「やっぱり! 思いっきり日本人の名前だもんね」
「奏ちゃんも、可愛い日本の名前だよね。でも、転生者の人、私以外にもいたんだ。セレナさんが教えてくれたけど、現実味があんまりなかったから」
「異世界に突然来て、その上に転生者が他にもいるなんて聞かされても、普通はそう思うよね〜」
「てっ、転生者が同じぐらいの歳の女の子で、それも奏ちゃんみたいな優しい子で良かった」
「えへへ〜」
私自身も歳の近い女の子、それも前の世界の出身の他人とは話すことが久しかった。
話していると、つい舞い上がってしまう。
「ところでだけど、軽葉ちゃんのピアノ上手だったよ〜。思わず聞き入っちゃった」
「そんなっ、私なんて全然だよ。でも嬉しい、そんな風に褒めてもらえたの、初めてなの」
「ホントに!? こんなに上手なのに」
「あんまり上手じゃないけど、セレナさんのお陰でここのピアノ奏者として働かせてもらってるの。戦闘なんて出来ないから、パーティーも組めてなくて、宛もないから」
俯きながら軽葉は寂しそうに小さく呟いた。
セレナに申し訳なさも感じているのか、それとも自分を情けなく感じているのか、彼女は自信がなく少しネガティブだ。
ただ軽葉が引きつった笑顔をしているのを見て、今とてつもなく冴えている私は名案を思いつく。
「そうなんだ……それじゃあさ!」
私は勢い良く振り向き、後ろで待機していたエマに声をかける。
「エマちゃん」
「うん、私も奏と同じこと思ってた」
エマはニッと歯を見せながら笑顔を浮かべ、頭を縦に振っていた。
了承の二文字がエマの顔に書かれているのを確認すると私は思い切って軽葉をスカウトする。
「私達と一緒にパーティー組んで冒険しない?」
数秒ほどのフリーズ。その後に再起動した軽葉は肩を上げて仰天していた。
「えぇっ!? そんな、急に。いっい、良いの?」
軽葉が戸惑っていると、後ろからエマが寄ってきて私をアシストしてくれる。
「元々私はブラブラ旅してただけだし、奏も冒険すること以外にあんまり目的はないでしょ?」
「うん、冒険者ならギルドの施設で生活も出来るからねっ」
「ほぉらねっ。ちなみにそうそう、私はエマ。よろしくね」
エマはさりげなく私達の会話を繋げながら輪の中へ自然と入り、自己紹介のおまけに軽葉へ可愛らしく目配せして見せた。
「あのっ、わわ私は戦闘とか全然出来ないよ。嬉しいんだよ! 嬉しいんだけど、多分奏ちゃん達に迷惑かけちゃうと思うの」
「これでも奏は剣の実力があるし、私も困らない程度には魔法も使えるから気にしなくても大丈夫だよ」
「あっ、でも無理に言っちゃって、こっちこそ迷惑かな?」
少し攻めて話しかけ過ぎたかと心配したが、軽葉の涙を浮かべたいたいけな笑顔で全てが吹っ飛んだ。
軽葉はその小さい体を大きく動かして喜びを表現する。
「ううん、そんな事ないよ。ありがとう。もしお邪魔でなければ、わっ、私もパーティーに入れて欲しい」
「おーけぇー!」
「軽葉も私達の仲間入り〜」
ザワザワとしてこっちを生温かい目で見る冒険者達のことなど気にせず、私達はギルドの中で喜びを分かち合う。
「ああっ、ありがとう。これから、よろしく、ね。奏ちゃんと、エマちゃん……!」
「うん、よろしくね! 軽葉ちゃんっ」
私達の新たな仲間の加入にカッコつけ、周りの冒険者達はジョッキ同士をぶつけてまた盛り上がっていた。
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この時、この三人の少女達は誰一人として想像だにしていなかった。
自分の目の前に待っている少女達が、互いに闇を抱えていることなど。
ましてやこの三人の出会いが、耐え難い苦痛と消えることの無い悲しみ上に出来上がっていたことは決して。




