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35.連携イベント(ある冒険者達①)

――来夢迷宮一階層――


 そこは、風のそよぐ緑の草原。どこか牧歌的でどこまでも平和な風景が続き、何ならレジャーシートを広げてお弁当でも食べたくなる雰囲気だが、断じて安心安全空間ではない。


 たしかに、のんびり跳ねるスライムたちは初心者向けだが、油断は禁物。

 この階層には、スライム・角うさぎ・甲殻アルマジロ・ファイアウルフの四種類の魔物が生息している。

 草陰に潜む甲殻アルマジロは、突如として高速回転しながら体当たりしてくるし、角うさぎは跳躍と連続突進の奇襲が得意。

 さらには、炎の属性を持ち、連携して敵を追い詰めるファイアウルフが徘徊している。

 賢いファイアウルフ達はうかつな冒険者には容赦がない。


 来夢迷宮にやってくる近頃の冒険者たちの間では、こんな風潮が定着していた。


「一階層は危なっかしいくせに、リターン少ないからパスしよ」


「スライム狩ってる間に後ろから角うさぎ突っ込んでくるとか、冗談じゃないって」


「二階層に飛んで、飯食ってから本気出すのが正解だよな」


 総じて一階層は、"うま味がない"、"コスパが悪い"と避けられる階層となっていた。


 だが、しかし。それは以前までの来夢迷宮。


「よしっ、スライム三体目! 発酵ゼリー、ゲットだぜ!」


「くそっ、またアルマジロに吹っ飛ばされた……けどゼリーのため俺はやりとげる!」



 あの爽やかでとろけるような味をもう一度食べたい――


 強敵にあいながらも彼らを突き動かすのは、二階層で提供されている本日限定メニュー【幻果スライムゼリー】の存在だ。


 動機が不純すぎるって? 食い物に釣られて何が悪い!

 

 チャレンジする冒険者達の心を占めているのはその一心だけ


 紅葉達の作戦通り、冒険者たちは一階層に戻ってきた。



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 ところ変わって、迷宮管理人室のモニタールーム。壁一面に並ぶ大型モニターが、草原地帯の映像をリアルタイムで映し出す。


 映像は、てんとう虫君やカラス(黒丸)筆頭の映像担当――通称〈クルー〉たちが撮影したものだ。空を舞い、草の影を抜け、てんとう虫君は、身体の小ささを生かして、ローアングルから、冒険者たちへ迫る。


 紅葉はコックピットで言えば後部座席に当たる位置で、豪奢な回転椅子に座り、温かいカモミールティーの入ったマグカップを手に、ニヤニヤとそれを眺めていた。


「……ふふふ。これは、完全に作戦成功! 強い敵がいても、彼等はゼリー欲しいから挑むしかないよね」


「紅葉様。悪い顔になってますの」さくらの大きな耳がぴこぴこ動く。


「欲望は強敵すら超えるごわす。特に“食欲”は本能に直結しておるごわす」


 アギョウがごつい指で操作パネルをタッチして、表示された熱反応マップを切り替える。狛犬らしい無骨な手つきとは裏腹に、その動きは熟練のオペレーターのように滑らかだ。


「映像、東区画に切り替えますの。てんとう虫カメラ2号、正常稼働ですの~♪」


 さくらは前足で端末の画面をぽんぽんとタップしながら、長い耳の下に装着された小型インカムのマイクに口を寄せる。その姿はぬいぐるみのように可愛らしく、しかしその手際は正確無比だ。


「冒険者E班、スライムとの接触を確認。戦闘ログ記録開始しましたの」


「南西斜面にファイアウルフ一体、出現ごわす。対応班には警告済みごわ。火傷注意と伝達完了ごわ」


 ウンギョウも画面をタップしながら、淡々と報告を重ねる。そのインカムには、遠隔警備班との通話回線が複数接続され、リアルタイムで状況が飛び込んできていた。


 そんな中、紅葉の横隣りに座っていた伊東が表示されたデータを眺めながら、口を開く。


「ケガ人の数は増加傾向ですが、致命傷には至っていないようですね」


「見守り班と応急処置班を向かわせたでごわす」

 ウンギョウが伊東の言葉に頷き、手配完了の報告をした。


「それと紅葉様。 角うさぎに刺された方に、応急処置と……角一本、お詫びとして提供してますの」


 さくらが報告を重ねる。


「角ってそれ、もらっても逆に困らない? 傷の証明書みたいになっちゃいそうだけど……」


 紅葉が困ったように笑いながら尋ねると、伊東がタブレットを紅葉に向ける。


「意外にも、角素材はアクセサリーや加工材として需要がありますよ。現在、三店舗から買取希望が出ていますよ」


「……へぇ、迷宮経済回ってるんですね」


 マグカップを持った手で頬杖をつき、紅葉は画面の一つに映る冒険者たちを見つめる。スライムの発酵ゼリーを手に、歓声を上げる少年、疲れきった顔で笑みを浮かべる少女、仲間と肩を叩き合う光景。


「ゼリーパワー凄いね____ちょっと無茶してでも“食べたい”って気持ち、ここまで惹きつけるって」


「その“ちょっと無茶”が、行動の動機になりますからね。管理人としては、一階層を攻略する理由の一つにしてもらえることが、何より重要です」


 伊東の声に、ウンギョウが静かにうなずく。


「命を懸ける“理由”があれば、人は選ぶごわす」


「たとえそれがゼリーだとしても?」


「ですのですの」


 さくらが画面端に、新メニュー案を並べながらしっぽを揺らした。


「じゃあ……このイベントが終わったら、次のメニュー考えなきゃね。季節のプリンフェアとかどうかな?」


 紅葉が笑顔で言えば、アギョウが力強くうなずく。


「プリン……いい響きごわす。 試食担当を志願するごわ!」


「アギョウ、それ毎回言ってますの~」


 笑い声が広がる管理人室。

 まったりした管理人室とは対照的に、大型モニターの向こうでは、次々とやってくる冒険者達の必死にスライムを追いかける姿が映しだされていた。



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