2.会社を辞めた翌日
「そんで紅葉は、家にいるわけね」
「そうだよ酷くない?」
金曜に解雇を言い渡され、今日は土曜日。
いつもなら大抵朝からお出かけしていた私は、昨日の今日で未だショック冷めやらず。
パジャマ姿のまま、友人のミカに愚痴っていた。
電話越しに「それは大変だったね」と慰められている。
「それで? 紅葉はこれからどうすんのさ?」
「う~ん。色々考えてみたんだけど。会社勤めはしばらくいいかなって。永久就職の当ても無くなったし……」
「ああーあれかぁ」
ミカの心からの呆れ声がした。
「まだ引きずってんのあいつのこと。まだちょっとどこかで惜しいとか思ってるわけ?」
「そっそんな事はないよ! ただあんな事が無ければ、普通に来年の今頃は結婚してたなと思っただけ……」
数年付き合っていた彼と先月別れた。
来年あたりに式挙げようか何て、二人で式場のカタログなんか見てさ、盛り上がった事もありました。
楽しかった日々は、ユウジの彼女と名乗る女からの電話である日突然終わった。
二股掛けらて、本命が私じゃなかっただけ。
イヤ、あの時点で私が本命っていわれても速攻で断るけれども……
彼氏と仕事の両方が無くなり、紅葉は流石にへこんでしまった。
「元気出しなって! 私は四連敗中よ」
紅葉の声音から地雷を踏んだかと危ぶんで、電話の向こうからミカの激励が飛んできた。
ミカは職場の先輩に四回告って断られている。
「ミカは先輩のこと諦めないんだよね?」
「うん」
「どうなの? 脈ありそう?」
「う~ん目が合えば会釈するし、露骨に嫌がっている様に見えないから、私のこと嫌いじゃないと思う」
ミカはポジティブだね……
「そっか。それならいいか」
ミカの恋愛事情は、今度会ったときにじっくり聞かせてもらおう。
「それじゃミカありがとね。なんか元気出たよ。また電話するね」
「私も何か進展あったら電話する」
ひと通りの愚痴を聞いてもらい、ミカとの会話を終了する。
紅葉は思い切り両腕を上に上げ大きく伸びをした。
さてとどうしよう……とりあえず着替えるか。
イヤ今日は一日中ダラダラしよう。
とりあえず洗濯機から取り出した洗濯物を部屋干しし、床の上を軽くワイパー掛けたら終了。
パジャマはお風呂の後で着替えればいいし。
夜までパジャママン…ふっふっふ。
今日は思いっきりだらけるぞと紅葉はノートPCを起動した。
メールでも確認しよ……
日頃から親しくしている友人達とは、携帯のキャリアメールでやり取りしてる。
無料のlineとかは……誘われたけど断ってしまった。
サイト登録が必要な場合は、フリーアドレス登録しPC上で確認するようにしていた。
紅葉は直近で届いたメールの件名を目視する。
何々紅葉ちゃんへ、件名に私の名前を入れて送ってくる人いたかな?
フィッシング詐欺じゃないよね……。
紅葉はそのメールをクリックした。
もみじちゃん元気しとるけ、ばあちゃんだぞ!
一文字一文字がデカデカと超拡大されて、紅葉の目に飛び込んで来た。
反射的に紅葉はノートPCを閉じる。
「ばっばあちゃん? フォントいくつで入力してるの」
紅葉の両親は幼い頃に他界している。
唯一の肉親は祖母だけで、その祖母は山間の集落で一人暮らしをしていた。
高校までは一緒に暮らしていたが、大学受験を機に上京したもみじは、そのまま地元ではない処で就職して現在に至る。
大学生の頃は、まとまった休みがあると帰省していたが、社会人になってからは年一回帰ればいい方だった。
そういえば今年は顔だして無かったなぁ……
ユウジのことも全然言ってなかったし、丁度いいから一度帰るか。
紅葉は帰省する事にした。