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3.里帰り

 紅葉ちゃんへ


 元気しとるかの~ばあちゃんだ!

 ばあちゃんも歳じゃけ、そろそろお迎えが来るでよ。


 お山のこともあるで代替わりすっから近いうちこっちさ来い。

 ばあちゃんは気長に待てんよって早う来るんじゃぞ。


 ばあちゃんより



 紅葉は気を取り直してノートPCを開いた。

 メールの中で、これでもかと主張するデカ文字文章を紅葉は読む。


 目が痛いよばあちゃん……


 紅葉の祖母は、子供のころ家族と国内を放浪する生活を送っていたそうで、行く先々の言葉が染みついている。

 微妙な感じで言葉が混じってるから、言葉尻だけ捉えるとどこ出身だかよくわからない。


 メールの内容を電話で確認すれば済む話だけど、あいにくばあちゃんは携帯を持っていない。

 固定電話はもちろんある。

 けれども、耳が遠くなってからは電話越しの会話が成立しなくて困っている。


 スカイプとかも考えたけど、ばあちゃんには難しい。

 ばあちゃんの隣に誰かいればいいんだけど。


 やっぱり直接行って話をするしかないかな。

 あいにくと自由時間はたっぷりあるし……。





 水曜日には紅葉は久しぶりの故郷の土を踏んでいた。


「ばあちゃんただいま! 紅葉帰ったよ~」


 いつものことながら、施錠されていない玄関をガラガラと開ける。


 都心に住むようになって、鍵をかける習慣がつくと、実家の無防備状態が心配になる。


 この辺はこれが当たり前なんだよね。

 いいことなんだけどちょっと心配だわ~


「あれまぁ。紅葉ちゃんかどうしたと?」


 玄関のガラガラ開く音に気づいたばあちゃんが奥から出てきた。


「ばあちゃんただいま! この前紅葉にメール送ったでしょ?」


「メール?」


 ばあちゃんはきょとんとしている。


「そうメールだよ」

「紅葉ちゃんは夢でも見たがや? ばあちゃんはメール送れんよ」


「はあ?」

「紅葉ちゃんが置いてってくれたパソコンは、去年壊れてしもうたで押入れに仕舞ってるさ」


 まさかまさかばあちゃん。

 私は誰からメールもらったの?


 とりあえず中に入れと促された紅葉は、茶の間に通され地元名物のお茶とお菓子をばあちゃんに充てがわれた。


「へぇ、そげな不思議こともあるんじゃの」


 お茶をすすりながら、紅葉の話しを聞いた祖母は、そんなに驚きもせずポツリと呟いた。


「紅葉ちゃん パソコンは向こうの押入れにあっから出して見ればええ」


「うん、分かった」


 祖母に言われ、紅葉は押入れからノートPCを持ち出すと茶の間へ持ってきた。

 埃を被っていたそれは、明らかに長い間使われていないことが分かる。


 ポチッと電源ボタンを押すも、案の定電源ランプは点かない。

 やっぱ何度やっても同じだね……


 狐につままれた感じってこういう事を言うのかな?

 電源ボタンを数回押しながら、紅葉はそんな事を思った。


「そんで紅葉。メールには何て書いてあったんだい?」」


「代替わりするとか、お山がどうのとかって、何か分かる?……」


 ばあちゃんはしばし顎に手を置いて、

「お山……代替わりにお山とな……」

 と、しばらくブツブツと単語を繰り返し呟いていた。


「なあ紅葉ちゃん。ばあちゃんは、記憶力が悪うなってからに、とんといまは思い出せんの」


「うん、いいよ。直ぐに思い出せなくても……ばあちゃん無理しないで」


「そんで紅葉ちゃんは、今日は泊まっていくと?」

「うん。しばらく休みだから、家にいるよ」

「そうかい、そうかい。しばらく休みかえ」


 ばあちゃんは少し嬉しそうな顔して、仏壇のある部屋へ行ってしまった。


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