第4話「襲撃」
銀行正面広場に、一際大きな車が止まっている。それもただの車ではなく、護送車と呼ばれるやつなのだろう、2つある。綯音たちは萩原少佐に案内されて中に入る。
「それでは頼んだぞ。ん、安心しろ一応能力は使えないように拘束している」
中へと入ると所長と櫻子さんが二人で話をしている。どうやら他のメンバーは外に待たせている弘作のところに行ったらしい。
「来たな、少年」
聞き覚えのある声、護送車の奥の方からだ。所々に包帯を巻き応急手当が施されている身体、身動きが取れないように手錠をされ、固定された椅子に座っている。
「アンタ...元気そうだな」
と声の主に皮肉めいた言葉を掛ける。というか呼び方が変わった気がするけれど気のせいか?
「おう、元気だぞ。お前をぶち殺したいくらいウズウズしてる」
「なんであのときに本気で殺しに来なかっんだ、アンタは」
「そんなのは気紛れだ。それより俺の名前はアンタじゃない、ジャック・ハーベットだ覚えておけ」
年下にアンタ呼ばわりされるのが不服だったのだろう、今彼の機嫌を損ねるのは話を聞くのに支障が出そうだ。所長の方に目をやると静かに頷いた。つまりは....
「あぁ..すまない。俺の名前は碓氷綯音だ、ジャック」
「ナオトか...。―――時にナオト、お前はその能力をいつ手に入れた?」
空気が変わる..。ここにいるのは綾、所長、櫻子さん、萩原少佐、四条少尉しかいないけれど、それでもその質問は異常であった。というのもギフターの能力は急に覚醒するものであり、『手に入れる』というものではないのだから――
「1つの身体に複数の精神が宿るときギフターは複数の能力を身に付ける、と聴いたことがある。だがそうは見えない」
そうだ。綯音は、『多重人格者が人格の数だけ能力を有する』というのに当てはまらないことを自覚していた。そればかりではない..何故自分がこうなったのか心当たりがある。
「俺はあるときローブを纏った女に出会った。そうアイツが...俺に力を与えた。守るためのチカラを...」
「その女との契約したのか..?」
ジャックという男はどこまで知っているのだろうか、少なくとも『ローブの女』については知っているようだった。
「俺は契約で『コピー』の能力を手に入れた。触れた人間の能力を写し取る効この力、効果は約5分で一度に一つまでの制約がある。その対価は日記を書くことだ。今日の分はもう書いた。」
辺りは静まり返っている。人がいないかと錯覚するかのように皆聞き入っていた。会話をしている二人を除いて―
「どうしてそんなことまで俺に話すんだ?」
「ん..。――なんとなくだ。」
そう、本当になんとなく...否、ジャックなら何か知っているのではないかと思ったからかもしれない。とにかく綯音は目の前の髭面の男からなにか聞きたかったのだ。
「おい少年、相当の情報を集めてはいるようだが未だにたどり着くどころか、尻尾すら掴めていないと見える――」
ジャックの言う通りだった。グリーン・イーデンのみんなには今まで黙って情報収集を一人で行っていた。全く関係のない相手にこんな話をするなんて少し焦っていたのかもしれないと反省し、心を落ち着かせる。そんな綯音を見ていたジャックは笑みを浮かべながら続ける。
「お前は誰にも相談しなかったんだろ..後ろの姉ちゃんが何か知ってそうな顔してるぜ」
俺の後ろ....それはつまり櫻子さんを指す言葉だった。
「そう...綯音くんも探していたのね」
辺りはすっかり日が暮れて暗くなってきた頃。周りを照らすたくさんの車のライトが付き始めた。腕の怪我はすっかり痛まなくなっていた。
「―――櫻子さん、俺'も'ってどういうことですか?」
桐谷櫻子。腰のあたりまで真っ直ぐ綺麗な黒髪を持ち、いつでも冷静沈着。クールビューティーや大和撫子という言葉は、このヒトのためにあると思わせるほどの女性。彼女は顔色一つ変えず小さく口だけ動かして
「貴方だけじゃなくて、ここにいる全員その女を探しているわ」
「え!?」
口をついてまず出たのは驚きの声。まさか綾や社長までもが!?櫻子さんが知っているというだけで驚きだったのにここにいる全員が存在を知っていたとは綯音にとって嬉しい誤算だった。
「その話をくわしk..」
「ドォ―――――ン!!」
詳細を聞こうと尋ねようとした瞬間、何かがぶつかったような音と共に護送車が大きく揺れる。音のした方向は上から....
目をやり確認すると天井部に大きな穴が開き、そのちょうど下の部分にはさっきまでそこにいなかった黒い人型の何かが佇んでいた。
――黒い何かがゆっくり起き上る。よく見るとそれはヘルメットを被り、頭から足の先まで装着者を覆い隠す所々とげとげしさを放つ黒い装甲。推進力を増加するためにスラスターが随所に設けられている。更に目を引くのは首にかかった綺麗な赤色をした長いスカーフ。まるでダークヒーローのような装いの人間?がいたのだ。
「おいでなすったか!そろそろ来る頃と思っていたぜ」
ジャックが動けない身体をじたばたしながら叫んでいる。彼の仲間なのだろうか。
「オマエ、モウイラナイ...」
襲撃者がマスクのマイクから発せられたであろう『声』はそう告げた。その場にいた全員が構える。ジャックたち銀行を襲撃した者たちはある組織に所属している可能性が高いという話は聞いていた。おそらくそこの刺客だろう。ここでジャックを消されるわけにはいかない。
黒い刺客は素早く低い姿勢で構えた。若干のスラスターの起動音がして目の前から一瞬にして消える。
「しまったっ..!」
なんて速さだ..。そうこうしている間に刺客はジャックと距離を詰める。
――が、ここにいるのは俺だけじゃない。
「抜刀ッ!!」
後ろから綾の例の掛け声が聴こえ、貪刀・グラを振りかざすのが見えた。刹那、黒い刺客と綾の間にある空間がまるごと切り取られる。切り取られた空間を他の空間が補い始める。冷たい空気がうしろ流れていく。勿論、刺客ごと空間は後退し再び距離が開き、その一瞬の隙をついて所長が回し蹴りを入れる。
「ジャマヲスルナ...」
とそれを見事にかわし、綾の足を払う。
「きゃっ」
更に所長を踏み台にしてまた加速。
今度は動きを読まれないよ不規則な動きをとりつつ向かってくる。広めに設計されているとは言えど護送車である、社内は狭い。その中を器用に縦横無尽に動く敵を捕捉するのはほぼ不可能。しかし、相手の向かってくる位置は解る。綾と所長が時間稼ぎをしてくれた、ジャックのそばに行くのは簡単だ。
「ジャック、お前の力借りるぞ」
「オマエモシネ!!」
下から流れるように鋭い手で喉を狙ってきた。何とか避けてマスク目がけて拳を叩き込む。がこれをよんでいたかのように襲撃者は顔を傾け、紙一重でかわし、一度離れて態勢を立て直しまた推進しつつ突撃してきた。その身体は綯音の一歩手前で急に空中に静止する。よく見ると糸が襲撃者の身体に絡まっている。
「クッ...ナンダ....コレハ!」
「お待たせしちゃって悪いわね、糸の準備に手間取ってしまってね」
「流石櫻子さん!完璧なタイミングだよっ!!!」
すかさず綯音は右腕一杯に力を込めて、全身全霊をかけてぶん殴った。
バン!!と音を立てて黒い襲撃者が後ろに吹き飛ぶ。起き上ったその顔のマスクはバラバラと崩れ素顔が露わになる。
「え....」
なんとそこには、まだ綾と同じ年齢くらいの少女の顔があったのだ。
みなさんこんにちは。代理人のダイアリー第4話ご視聴ありがとうございます。今回は新しい敵?が登場しましたね。女の子です。4対1という最初からちょっと可哀想な出だしになってしまいました。これから出番の多いキャラになる予定ですのでお楽しみに!ジャックの方は重要なポジションになってくると思います。では今回はこのへんで、また次の話でお会いしましょう。




