第17話 もう一つの補強
BLUE HAWK対BLACK WOLF。
会場は試合開始前から異様な熱気に包まれていた。
無敗同士の首位決戦。
優勝候補対決。
配信視聴者数はリーグ最高を更新し、実況席の朝倉も普段以上に興奮している。
だが、その熱狂から少し離れたVIPルームでは、佐藤誠司が静かにモニターを眺めていた。
画面にはステージへ向かう選手たちの姿が映っている。
Rei。
NOVA。
TIGA。
ANGEL。
SAGE。
今のBLUE HAWKが出せる最高の布陣。
誰が見ても強い。
実際に強い。
開幕三連勝。
リーグ首位。
結果だけ見れば何も問題はない。
それでも誠司は腕を組んだまま呟く。
「まだ足りないな」
隣で資料を確認していた美月が苦笑した。
「またですか」
「まただな」
誠司も笑う。
だが冗談ではなかった。
モニターの向こうでは観客が歓声を上げている。
SNSではBLUE HAWK最強論まで出始めている。
それでも誠司の視線はもっと先を見ていた。
「世界一を目指すんだろ?」
「はい」
「なら足りない」
美月も否定しない。
日本なら戦える。
東アジアでも勝負できる。
だが世界大会優勝となれば話が変わる。
韓国。
中国。
欧州。
北米。
世界にはまだ化け物がいる。
その頂点を目指すなら、今のままでは届かない。
誠司は再びモニターへ目を向けた。
そこには試合開始前の選手たちが映っている。
TIGAは腕を回している。
NOVAは緊張した表情でモニターを見つめている。
ANGELはそんな二人を落ち着かせていた。
そしてSAGE。
誠司の視線が止まる。
「やっぱりそこですよね」
美月が言った。
誠司は頷く。
「IGLだ」
STRIKE FRONTIERにおいて最も重要な役割の一つ。
試合中の指揮。
戦況整理。
勝負所の判断。
現在はSAGEが中心となりANGELが補佐している。
二人とも優秀だ。
リーグでも上位クラスだろう。
だが世界一となると話が違う。
本物の強豪には試合そのものを支配する司令塔がいる。
戦術を動かす頭脳がいる。
「候補は?」
誠司が聞く。
美月は準備していたタブレットを差し出した。
そこに映し出された女性を見た瞬間、誠司の口元が少し上がる。
天城美琴。
元日本代表キャプテン。
元プロプレイヤー。
歴代最高のIGL。
そう呼ばれた存在だった。
誠司は資料を読み進める。
国内優勝。
日本代表。
東アジア準優勝。
どれも凄い。
だが数字以上に目を引くものがあった。
選手育成。
戦術構築。
リーダーシップ。
どの評価も異常なほど高い。
「面白いな」
自然と笑みが漏れる。
美月も頷いた。
「現役時代は天才というより教師タイプですね」
「なるほどな」
だからこそ欲しかった。
Reiのような天才を伸ばせる。
NOVAのような若手を育てられる。
そして何より。
チーム全体を強くできる。
「連絡は?」
「もちろんです」
即答だった。
誠司は苦笑する。
「相変わらず仕事が早いな」
「社長ほどじゃありません」
美月が通話を繋ぐ。
数秒後。
画面に一人の女性が映し出された。
黒髪。
落ち着いた雰囲気。
知的な目。
柔らかい表情の奥に鋭さも感じる。
「初めまして。佐藤誠司です」
「天城美琴です」
短い挨拶。
だが互いのことは知っていた。
BLUE HAWKオーナー。
元日本代表キャプテン。
eスポーツ業界で知らない方が珍しい存在同士だった。
誠司は早速本題へ入る。
「コーチやらないか?」
数秒。
美琴が目を瞬かせる。
そして小さく笑った。
「いきなりですね」
「回りくどいのは苦手なんだ」
「噂通りですね」
少しだけ笑みが浮かぶ。
その時だった。
画面の向こうで試合開始のカウントダウンが始まる。
美琴の視線が自然とステージへ向いた。
そこに映るBLUE HAWKの選手たち。
そして。
NOVA。
美琴の目が少し細くなる。
「この子ですか」
誠司は気付く。
見ている場所が同じだった。
「気になるか?」
「少し」
即答だった。
「雷神戦も見ました」
美琴は静かに続ける。
「あの悔しそうな顔」
「良いですね」
誠司は笑う。
「分かるか」
「分かります」
美琴も小さく笑った。
「伸びる選手の顔です」
その言葉に誠司は満足そうに頷く。
やはり欲しい人材だった。
戦術だけじゃない。
選手を見る目がある。
「育てたいか?」
美琴は少しだけ考える。
元日本代表。
元キャプテン。
人を育てることは嫌いではない。
むしろ好きだった。
数秒後。
「話だけなら聞きます」
その返答に誠司は笑った。
美月も小さく安堵する。
試合会場では歓声が響いている。
BLACK WOLF戦が始まろうとしていた。
だが誠司の視線はもっと先を見ていた。
日本一。
アジア一。
その先。
世界。
世界王者になるために必要なものを一つずつ揃えていく。
それがオーナーの仕事だった。
そして今。
BLUE HAWKには新たな頭脳が加わろうとしていた。




