第37話 歓迎試合
韓国。
世界王者チームの練習施設へ到着したBLUE HAWKのメンバーは、施設へ足を踏み入れた瞬間に圧倒されていた。
広大なフロアには最新の高性能PCが並び、その奥には分析ルーム、トレーニングジム、宿泊設備まで揃っている。まるでeスポーツチームというより、一流スポーツクラブの本拠地だった。
「やば……」
ひなたが思わず声を漏らす。
「想像の三倍くらい凄いんやけど」
響も周囲を見回しながら感心していた。
大牙も珍しく施設を眺めている。
「金掛かってんな」
「世界王者だからな」
誠司が答えると、全員が改めて施設を見渡した。
世界一。
言葉にするのは簡単だ。
だが、本当に世界一を目指す組織はここまでやるのかと実感させられる。
その時だった。
施設の奥から一人の男が歩いてくる。
パク・ミンジュン。
世界王者監督。
韓国競技シーンの伝説。
「ようこそ韓国へ」
静かな声だったが、不思議と場を支配する力があった。
BLUE HAWKのメンバーも自然と背筋を伸ばす。
ミンジュンは一人ひとりを確認するように視線を向けた後、小さく頷いた。
「早速ですが」
その一言で嫌な予感が広がる。
特に響が。
「まさか……」
「試合をしましょう」
即答だった。
響は天井を見上げた。
「やっぱりや」
その反応に韓国スタッフが思わず笑う。
だがミンジュンは真顔のままだった。
「皆さんを見に来たので」
それは当然の言葉だった。
実際にプレイを見なければ何も分からない。
十分後。
BLUE HAWKのメンバーは練習ルームに座っていた。
対戦相手は韓国プロリーグ所属の若手選手たち。
世界王者チームの主力ではない。
だが二軍でもない。
将来を期待されている有望株たちだった。
普通の日本チームなら苦戦する。
それくらいの実力者が揃っている。
「歓迎試合です」
ミンジュンが言う。
「気楽にどうぞ」
誰も気楽ではなかった。
特に悠真とひなたは初めての海外チームとの対戦だ。
緊張しない方がおかしい。
それでも二人は席に座り、深呼吸を繰り返す。
対照的に蓮はいつも通りだった。
大牙も腕を回しながらモニターを見ている。
響に至っては楽しそうだった。
「韓国か」
大牙が笑う。
「楽しませろよ」
試合が始まった。
開始直後から韓国チームは高い連携力を見せる。
判断が速い。
ポジション取りも綺麗だ。
さすが韓国トップクラスと言える内容だった。
だが、その流れを最初に壊したのは響だった。
「そこや!」
敵後衛へ一気に飛び込む。
一瞬。
本当に一瞬だった。
敵サポートが倒れる。
「一枚!」
響の声と同時に大牙が前線を押し上げる。
「前出ろ!」
圧力に押された韓国チームの陣形がわずかに崩れた。
その隙を蓮は見逃さない。
静かに前へ出る。
そして撃つ。
一秒。
二秒。
三秒。
気付けば敵が三人倒れていた。
練習ルームが静まり返る。
韓国選手たちが思わずモニターを見返した。
速すぎる。
判断もエイムも異常だった。
「なんだ今の……」
誰かが小さく呟く。
試合はその後も続いた。
韓国チームは何度も立て直そうとする。
だが、その度にBLUE HAWKが叩き潰す。
悠真の冷静なコール。
美羽の安定したサポート。
ひなたの柔軟なロールチェンジ。
そして前線を支配する蓮、大牙、響。
個々の力だけではない。
即席とは思えないほど噛み合っていた。
十五分後。
第一マップ終了。
結果は圧勝だった。
韓国側の選手たちは言葉を失っていた。
結成したばかりの日本チーム。
その認識は完全に消えていた。
ミンジュンは無言のまま次を指示する。
第二マップ。
第三マップ。
結果は変わらなかった。
最終スコア。
3―0。
BLUE HAWKの完勝だった。
試合終了後、響は大きく背伸びをする。
「こんなもんか?」
「悪くなかったな」
大牙も笑う。
蓮は何も言わず席を立った。
いつも通りだった。
だが韓国側の視線は明らかに変わっていた。
先ほどまでの歓迎ムードはない。
本気で警戒している。
それだけの実力を見せつけた。
誠司はミンジュンへ近付く。
「どうですか」
ミンジュンはしばらくBLUE HAWKの選手たちを見つめていた。
そして静かに口を開く。
「想像以上です」
それは彼にしては最大級の賛辞だった。
誠司も思わず笑う。
だが次の言葉は予想できていた。
「ですが」
やはり続きがある。
「問題もあります」
「何でしょう」
ミンジュンは視線を移した。
天城蓮。
白河大牙。
鳳堂響。
チームの中心となる三人だ。
「強すぎます」
その場の全員が固まった。
「は?」
響が思わず聞き返す。
だがミンジュンは真顔だった。
「強すぎるんです」
「だからチームとして未完成です」
誰も意味を理解できない。
強いことが問題なのか。
そんな空気が流れる。
しかしミンジュンは続けた。
「今は個人能力で勝っています」
「世界大会では通用しません」
その言葉に会場が静まる。
世界王者監督の目は本気だった。
そしてBLUE HAWKは初めて知ることになる。
本当に世界一を目指すということが、どれほど険しい道なのかを。




