(アニー×ミチル)「オレンジ色の悪魔」
二人っきりになれる場所がある。
アニーはそんな事を言いながらミチルの手を引いて歩く。
もうすぐ日が沈みそうな時間になって、たどり着いたのは海が見える通りだった。
「ふわあ、海風が気持ちイイ……!」
アニーの手の温もりを感じながら、潮風を頬に受け、ミチルは海辺のお散歩コースを堪能していた。
「良かった。ミチル、気に入った?」
「うん……ん、うへへ……♡」
ご機嫌で見上げたアニーの顔。
夕暮れのオレンジ色の日差しを受けて、なんかもうそれはもう、カッコイイ。
ミチルは思わずぽっと頬を染めて、照れながら俯いた。
「ふふふ。家の中にいればいつでも二人っきりだけど、それも閉塞的でしょ? たまには外もいいよね」
「そうだねえ。確かに外の空気を吸うのはイイよねえ」
なんとなくアニーと家にいるばかりだと、ちょっと危険な思考に陥りそうになる。
引きこもる、とか。
閉じこもる、とか。
そんなプレイに耽ってしまう事があるので、外には積極的に出たいミチルであった。
「でもさ、なんで海辺だと二人っきりになれるの? 外なのに」
ミチルは素朴な疑問を投げた。二人っきりになりたいから外出する、と言うのは矛盾を感じる。
ところが、今現在、誰ともすれ違わないのも事実。
この場所は何なんだろうか、とミチルは不思議に思っていた。
「それはねえ、この海岸の今の時間ならでは、なんだよ」
「うん? どゆこと?」
うふふ、と笑いながらアニーはスラスラとこの海岸のいわくを語る。
「ここら辺ではね、黄昏時にこの海辺にいると橙色の悪魔に攫われるって伝承があるんだ」
「オレンジ色の……悪魔?」
「そう。だからね、地元の人は夕方は絶対に海辺には近づかないの」
「ははあ……」
なるほど、それで、誰も見ないという訳だ。ミチルは納得した。
だが、ちょっと待ってよ。
「じゃあ、オレ達も来たらヤバいじゃん!!」
焦るミチルをアニーは笑い飛ばした。
「アハハ! そんなのに俺が負けると思う?」
「勝てるモンなの!?」
「──フッ、そんな悪魔でさえも、俺のミチルへの愛を消すことは不可能さ……」
キザったらしい精神論だった。だがそれがアニーらしい。
まあ、伝承という事は、御伽話に近いんだろう。とミチルは思い直した。
地元の人はそれを信じているので出てこない、というだけの話だろうと。
「どんな悪魔が出て来ても、君のこの手は離さない……」
「ふにゃ……あぁ」
夕陽の海をバックに、映えるアニーの顔面の良さ。
ミチルは握られた手以外から力が抜けそうになる。
だめよ、こんなトコロで腰砕けたら! ダメなのよー!!
「ああ……見てごらん、ミチル」
アニーは砕けそうになるミチルの腰を引き寄せて、海辺に視線を移した。
この動作でミチルの腰はすでに砕けている。
「ふわ……」
そんなミチルの眼前には、オレンジ色の光を放って堕ちていく太陽の姿が。
「橙色の悪魔のお出ましだ……」
「これが……?」
ああ、そういう事か。
海面へ堕ちゆく太陽の、あまりの美しさに誘われる。
これに魅入られた者はきっと水底へ吸い込まれてしまうのだろう。
「悪魔が……堕ちていくよ」
その後には、真っ暗な宵がやってくる。
アニーの心にいつまでも燻る、宵闇が。
「ミチルも……堕ちる?」
「え……」
「……俺に」
甘いキスで惑わせて。
アニーはミチルを己の心の中に堕とそうと企てる。
「うん……」
いいよ。
堕ちてもいい。
でも。
「アニーは、このままでもいいよ」
わざと暗がりに行かなくていい。
無理して陽当たりを目指さなくてもいい。
ミチルはそう願って手を伸ばす。つま先を立ててアニーの唇に触れた。
「オレの側にいるだけで、いいよ」
「ミチル……」
ああ、そうだね。
ここが何処かなんて関係ない。
君の隣が俺の居場所。
陽が落ちて、宵闇が来て、また光が昇る。
その全てを君と見られたら、それでいい。
◇ ◇ ◇
PS ギャグがほぼ無かったことをお詫びします(笑)




