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8月5日 その⑳

 

「──それじゃ、改めてよろしくね。栄」

「あぁ、よろしく」

 他の6人と別れた後で、俺と百花の2人は森林ゾーンへと歩いて行く。


 ──正直に言って、俺と百花の関係値は薄い。

 それこそ、今日が初対面だ。デスゲーム開始前に、申し訳程度の雑談をしたばかりでほとんど初めましての人だった。

 同じチームにならなければ、こうやって話す時間はなかっただろう。


「──やっぱり、智恵ちゃんと一緒の方がよかったかな。悪いね、ボクで」

 黒いポニーテールを小さく揺らしながら、彼女は申し訳なさそうに笑みを浮かべながら謝罪した。

 智恵と一緒にいたかった──という気持ちは、決して嘘ではない。だが、もう俺と智恵は2人きりの時間を貰った。十分とは言わないが。十分などないが。


 だから、今回一緒に行動する相方が智恵じゃなかろうと文句は言わないし、俺も智恵も他の異性と一緒にいるからと言って浮気だと騒ぎ立てるようなことはしない。

 智恵が百花のことをどう思っているかは知らないけれど、少なくとも俺は純介のことを信用しているから智恵の事を任せている。


「いや、逆にペアが百花でよかった」

「へ?」

「まだ俺達はあまり仲良くなれてないからな。ここで仲良くなろう」

「あ、あぁ。そうだね、ここで仲良く──だ」

 百花は少し戸惑いながらもそう口にする。少し距離を詰め過ぎただろうか。反省だ。話題を変えよう。


「百花は、冴恵香の親友なんだって?」

「あぁ。他でもないこのボクが冴恵香の親友だ」

 冴恵香の話をすると、途端に自信ありげな表情になって百花は自分の胸の前に手を当てる。


「ボクはデスゲームが始まる前から冴恵香の魅力に気付いていた──というのもね。ボクと冴恵香は、生まれた病院も一緒の幼馴染なんだ」

「え、そうなの?」

「あぁ、だからボクは冴恵香のことを何でも知ってるし、冴恵香もボクのことを何でも知ってる」

「そっか。じゃあ、冴恵香には兄弟とかいるの?」

 俺は、百花の証言を訊いておく。もしかしたら俺と冴恵香に光、ついでにロンの4人は生き別れの四つ子の可能性があるのだ。


「いや、冴恵香に兄弟はいないよ。ボクも冴恵香も一人っ子だったから、仲良くなったってのもあるしさ」

「そうなのか……」

 そうなると、やはり腹違いの兄弟──という可能性が高くなる。その場合、マスコット大先生──要するに、俺の父である池本朗が物凄い浮気者であることになるけれど。


「栄君に兄弟はいるのかい? ──いや、待ってくれ。ボクが当てていいかい?君は一人っ子だ」

「当たり」

 最近、一人っ子かどうか怪しくなったけど──とは、言わない。冴恵香と俺の関係は、現状「苗字や誕生日が一緒の他人」でしかないのだ。


「俺、そんなに一人っ子っぽい?」

「言葉じゃ説明できないんだけどね。冴恵香と同じオーラがしたし、一人っ子なのかなって」

「成程……?」

 冴恵香と同じオーラ──と言われても、あまり納得できそうな要素はなかった。頭の上にハテナは浮かぶけれども、追及しても納得はできそうになかったのでそういうことにしておこう。


「──そうだ。愛香と面識があったらしいけど、仲は良いの?」

「勿論だとも。愛香ちゃん──おっと、こう呼ぶと怒られるんだった。愛香はかわいいところがあるからね」

「怒髪天を衝くと取り返しがつかなくなりそうだから、ほどほどに……な」

「なぁに、キャットファイトだよ」

 そう口にして、快活な笑みを浮かべる百花。俺達の歩く地面はコンクリートから、土に変わっていた。


「というか、それを言うなら栄君も魁亜と仲が良さそうじゃないか。あの魁亜をどう飼い慣らしたんだい?」

「別に飼い慣らしてはないけど……」

「あの狂犬を飼い慣らせるのは冴恵香しかいなかったから」

 もしこの会話を訊かれたら、今度は穂泉ではなく魁亜と殴り合いをすることになりそうだ。


「やはり、池本の名を持つ2人は特別な何かを持っているのかな」

「そうかもな」

 俺もあまり実感はないけど、そう付け加えた。だけど、百花は俺の呟きに耳を傾けていないようだった。

 唐突に俺の前に百花の左手が飛び出て来て、足を止める。視線は、前──。


「──いるね、この森の中に」

 百花の目が細められて、真剣な眼差しに変わる。俺は気が付かなかったけれど、中に誰かいるのだろう。すると──


「なんだ、奇襲失敗~。残念~、折角お兄さんを殺せそうなチャンスだったのにぃ」

 そう口にして、木の陰からひょっこりと出てくるのは小さな背丈の女児。まだ中学生にも満たないんじゃないかという背丈をしている彼女は、肩をすくめながら出て来た。

 その頭の上には、シアンの直方体が見える。俺の頭の中には今、赤の立方体があるはずだった。

 そうなると、彼女に触れられた瞬間に俺の直方体は黒になって死ぬことになるのだろう。百花がいなければ、そのまま進んで隙を突かれていたかもしれない。


「──確かお前は、ロンのクラスの……」

「え~、お兄さんってワタシのこと知ってるんだ、キモ~。ワタシのことジロジロ見てるとかロリコンじゃ~ん」

 ニタニタと趣味の悪い笑みを浮かべながらそう口にするのは、ロンのクラスに来ていた一人。確か、名前は──


「ワタシの名前は平手ココロ。気持ち悪ーいお兄さんを殺しに来たの。ロン様以外必要ないからさ、ワタシに殺されて。雑魚のお兄さん」

 そう挑発してくる彼女をいたぶりたいと思う趣味はないけれど、ロンの手先である以上は倒すしかないだろう。隙を突いて、彼女の頭の上のシアンを黒に染めてしまおうか──などと思っていると。


「栄君はそこで見ていてよ。ボクがただ、カッコイイだけの女子じゃないってことを見せてあげる」

 百花はそう口にして、爽やかな笑顔を俺の方へと向ける。自認はカッコいいなんだ──と思いつつ、ここは一度彼女に任せることにした。


「──さぁ、ココロちゃん。ボクと一緒に咲き乱れよう」

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
平手ココロ。 ちょいテンプレっぽいキャラだけど、実力は如何に! ここは百合の腕の見せ所ですね!
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