王国戦争 その⑤
「──これはどういう状況?どうして、健吾達とプラム姫が戦っているんだい?」
健吾の危機に割って入って来たのは、猛者オタクの猛者──『剣聖』マルクス・シュライデン。
俺と『剣聖』は初対面であったが、俺は映像で彼のことを見ていたから知っている。
「プラム姫が『羅刹女』だ!」
「──嘘」
プラム姫の攻撃を、『剣聖』の介入でなんとか回避した健吾が衝撃の事実を告げると、一瞬『剣聖』の動きが止まる。
驚き──、そして喜び。『剣聖』の体が硬直すると同時に、その顔には満開の笑みが浮かんだ。
「これはこれは!まさか、『羅刹女』の正体がプラム姫だったとは、考えもしませんでした!」
初対面の俺でも、『剣聖』の猛者オタクとしてのスイッチが入ったことは理解できた。
「『古龍の王』に誘拐された王女の正体が『羅刹女』だった。そうなると、『古龍の王』の企みが根本から覆される!いやぁ、盲点でした。プラム姫が『羅刹女』なら全ての点と点が繋がるってのものですよ!」
『剣聖』は嬉々としながら、プラム姫に対してそう語る。
「──『剣聖』であるアナタに、多くを語ることはありません。〈扇乱の乙女〉」
そう口にすると同時、『剣聖』に向けて鋭い一対の扇を放つ。
「これは、刀匠リンボ・ヘラクレスが作ったとされる剣の一つ〈刀扇〉ではないですか!まさか、リンボ氏の作品を観賞用ではなく実戦用に使う人がいるとは!私もリンボ氏の作品を使っているのは『奇抜剣』と『貉穴』の2人しかあったことがありません!いやぁ、光栄だなぁ。まさか『羅刹女』もリンボユーザーだったなんて!」
わからないことをわからないままペラペラと喋り続ける『剣聖』。動画で見てる分には聞き流せたからいいけど、実際にこう一方的に話されると大変さがよく分かる。
「『剣聖』の饒舌は本当だったのですね。将来の故事になりそうです。天才の唯一の欠点という意味で」
「プラム姫、御冗談を」
そう口にして、『剣聖』と『羅刹女』の打ち合いは更に苛烈なものとなっていく。俺達8人が固まって挑んでも勝ち目が見えなかった『羅刹女』とタメを張れる『剣聖』もすごいし、ドラコル王国最強と名高い『剣聖』と互角の勝負をしている『羅刹女』もすごい。
俺は3週間以上一緒にプラム姫といたが、全く彼女が実力者であるということに気付けなかった。
もしかしたら、俺が『剣聖』ほど強ければ彼女の所作からこれほどの猛者であることに気付けたかもしれない。まぁ、俺がプラム姫を実力者であることに気付いても一人じゃ勝機は無かったから気付かなくてよかったのかもしれない。
「──と、話は変わるけど君は初めましてだね。君が噂のサカエ君で合ってるかい?」
『剣聖』が視線をこちらに流しているのを感じ、俺は少し緊張しながらも「はい、そうです」と答える。
「君が解放されていると言うことは、『古龍の王』──即ちヤコウは討伐されたということだね?」
「はい、そうです!」
さっきと全く同じ返事をしまう。けど、それ以外の気の利いた返し方を思いつかなかった。
「成程。それで、君とプラム姫が共に解放されてプラム姫が正体を現した──という感じか」
『剣聖』の読みは当たっていた。補足するほどもなくピッタリと。
「プラム姫がこうして敵対しているのを見るに、王国戦争を策謀した側の反逆者だ。でも、王族。斬り殺すのは躊躇われるな……」
どうやら、『剣聖』には勝ち筋が見えているのかそんなことを口にしている。流石は『剣聖』だ。
と、生かさず殺さずという一番難しい部分を『剣聖』が問われていると、プラム姫が呆れたような顔をしながらこう告げる。
「私は王族ですが、その前に一人の人間です。志を折られ生かされるくらいなら、志の中で死ぬことを選びます。それに、私はアナタに対して手を抜くようなことはしません。油断していると、殺しますよ?」
「これはこれは。手厳しいね」
『剣聖』はそう口にして、微笑を浮かべる。そして、俺達の方へと一瞥をくれた後にこう伝える。
「プラム姫の死亡は『古龍の王』がやったものだといくらでも偽装できる。だから、皆も躊躇はいらない。プラム姫を殺すことに協力してくれ」
『剣聖』のお願いに、俺達8人は威勢のいい返事をする。
「──多勢に無勢は変わらないですね、仕方ない」
そんな言葉を残して、プラム姫は『剣聖』から距離を取る。だが、逃げたわけではない。
俺達の方向へと扇を向け──
「──これで一人でも減らせればいいのですが。〈世界切断の理〉」
プラム姫が技名を口にして扇を振り払うと同時、城内都市パットゥの床に大きく亀裂が入る。
「地面を斬った!」
「落ちる!反対側に飛んで!」
俺達は、『剣聖』の指示に従ってプラム姫も乗る方の足場の方へとなんとか移動する。
先程まで俺達が立っていた場所は、外側に倒壊していき振り続ける雪が建物の中に入ってきた。だけど、ゲームの世界だからなのか然程寒さは感じない。
視線がプラム姫の方へ一身に注がれる中で、『剣聖』がこう口にする。
「プラム姫を倒す作戦がある。皆、僕に協力してくれないか?」──と。





